2016/03/25
[第7回] 少子化が、幼児の家庭にもたらした変化とは?-「第5回 幼児の生活アンケート」を手がかりに- [1/2]
第7回では、2015年11月にベネッセ教育総合研究所が公表した「第5回 幼児の生活アンケート」の結果を手がかりにして、少子化などの社会の変容が幼児の家庭にもたらした変化とその意味について、調査を監修された白梅学園大学教授の無藤隆先生にお話しいただきました。
調査結果の詳細は、こちらをご覧ください
無藤 隆●むとう たかし
白梅学園大学子ども学部教授
文部科学省中央教育審議会委員などを歴任。
専門は発達心理学、教育心理学。「幼児の生活アンケート」監修者。
文部科学省中央教育審議会委員などを歴任。
専門は発達心理学、教育心理学。「幼児の生活アンケート」監修者。
ベネッセ教育総合研究所が1995年から5年ごとに行っている「幼児の生活アンケート」は、2015年に5回目となる調査を実施しました。分析の対象者は首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に住む1歳6か月~6歳就学前の幼児を持つ保護者3,466名です。第1回の調査から現在までの、幼児の家庭の変化について、20年間を概観します。
1.幼児の人間関係の変化
まず、一番基本的な変化は少子化であり、少子化が幼児の生活に極めて大きな影響を与えています。幼児の生活が「家庭」と「園(幼稚園・保育園・認定こども園など)」中心になり、たとえば平日に園以外で友だちと遊ぶ幼児は20年間で56.1%から27.3%に半減し、母親と遊ぶ幼児は55.1%から86.0%に増えています(図1)。
図1. 平日、(幼稚園・保育園以外で)一緒に遊ぶ人(経年比較)
*2015年
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」
こうした家庭の近隣には、同年代の遊べる友だちが少なくなっていることが予測されます。同時に、この20年間で幼稚園児、保育園児ともに、園で過ごす時間が長くなっているため、多くの子どもが集まる場として、幼稚園や保育園の果たす役割が大きくなってきていることがうかがえます。
2.共働き家庭の増加
次に挙げられる変化は、共働き家庭の増加です。母親の就業状況を経年比較で見てみると、「フルタイム」「パートタイム」「フリー」を合わせて、2005年は26.3%だったのが、2015年は40.9%にまで増えています(図2)。
図2.母親の就業状況(経年比較)
*2015年
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」
子どもの数は減っていても、共働き家庭は増加しているので、保育園のニーズは高くなります。その結果、待機児童問題も深刻化していますが、待機児童問題は、今後5年ほどで、23区の一部を除いて、おおむね改善されると私は思います。
今回の調査結果では、幼稚園に通う幼児は約4割、保育園に通う幼児は約3割となりました。調査の対象地域である首都圏は、比較的専業主婦が多い地域ですが、その中でも保育園への通園率が上がってきており、今後もますます上がると考えて間違いないと思います。背景には女性の就労や生き方への意識の変化がありますが、男性も含めて個々の収入が減ることを補うために、共働きを選択するという理由もあり得るでしょう。
3.幼稚園・保育園への要望の増加
少子化で、子どもが園で過ごす時間が長くなる中、保護者から園への要望が増えてきています。 「現在通っている幼稚園・保育園について、あなたは次のことをどう思いますか」との設問では、「知的教育を増やしてほしい」という回答が、前回調査よりも、保育園児の母親で若干増えています(図3)。
図3.幼稚園・保育園への要望(就園状況別 経年比較)
*2015年
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」
(出典)ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」
「保育終了後におけいこ事をやってほしい」についても同様です。これは長時間保育をする幼稚園や保育園が増えたことも関係しているのかもしれません。知的教育への要望は増えていますが、一方で、「集団生活のルールを教えてほしい」「子どもに友だち付き合いが上手になるような働きかけをしてほしい」など、子どもの社会性に関する要望も微減しているとはいえ今なお高くなっています。この20年間で、園への保護者の要望の内容が基本的に大きく変わったわけではありませんが、要望の種類は増えてきたと言えるのではないでしょうか。