2015/03/03
データと写真で見る、現代の子育て環境と地域でのつきあい ~第3回 少子化社会と子育てより 研究員の目~
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 主任研究員 真田美恵子
教育フォーカス 特集9「少子化社会と子育て」の第3回では、「現代の子育て環境と地域における子育て支援」をテーマに取り上げました。その理由は、子育て支援の拡充が2015年度から施行される「子ども・子育て支援新制度」の重要な柱になっているためですが、もう一つ理由があります。
それは、ベネッセ教育総合研究所が2006年から2011年にかけて実施した「妊娠出産子育て基本調査」において、子どもにとっての良質な環境には、母親の「地域でのつきあい」が重要な要因であるとわかったこと、またその一方で子どもを通じた地域でのつきあいの減少が明らかになったことが背景にあります。
「地域でのつきあい」の実態は、地域における子育て支援を考える際に必要な視点になります。ここでは乳幼児の母親の「地域でのつきあい」の実態や、子育て環境との関連性についてデータをご紹介します。また現代の子育て環境を考える一つの手がかりとして、60~70年前の子育ての様子が垣間見える写真をご紹介します。子育てやそれに関わる価値観を、大きな時代の視点をもって相対化してみることも、現代の子育て環境を理解する際には重要ではないではないかと考えるためです。
子どもにとっての良質な環境には、「子育て肯定感」が影響。「地域でのつきあい」などが、肯定感を高める要因。
先述の「妊娠出産子育て基本調査」の研究では、子どもにとって良質な環境を実現するためには、母親と父親の「子育て肯定感」が重要な役割を果たすこと、その子育て肯定感を形成する要因の一つが「地域でのつきあい」であることがわかりました(図1)。ここでいう「地域でのつきあい」とは、「子どもを預けられる」「子どものことを気にかけて声をかけてくれる」「子育ての悩みを相談できる」「子ども同士を遊ばせながら、立ち話をする程度の」人がいるといった、子どもを介してのリアルな付き合いがある状況を指しています。
子どもを通じた、地域でのつきあいは減少
では実際に、そうしたつきあいはどの程度の人にあるのでしょうか。先ほど挙げた項目についてたずねると、2006年から2011年にかけて、いずれの項目でも「1人もいない」という割合が増加しています。例えば「子どものことを気にかけて、声をかけてくれる人」が「1人もいない」という層は15.5%から21.9%に増加して、「3人以上いる」層が51.1%から42.8%に減少しています。5年の間であっても、子育てを取り巻く環境が変化していることがわかります。
同調査ではほかに、子育て支援の環境が整備されてきていて、制度は充実してきていることを明らかにするデータもありますが、地域での人とのつながりについては少なくなってきているといえそうです。
子どもが多かった時代の子育て風景
ここに、昔の子育て風景が垣間見える写真があります(『写真集 雪国はなったらし風土記』無明舎出版編 *許可を得て掲載)。これは昭和20年代に撮られた写真だそうです。まだ地域コミュニティが機能していた時代、そして子どもが多かった時代の様子です。この写真のように、母親たちは洗濯物を干す手を少し休めながら、近隣の“ママ友”と子どもや子育てについて、悩みを語り合ったり、おしゃべりを楽しんだりしていたのでしょうか。現代のように、子育て支援センターなどに行かなくても、子育てについて相談できる人や環境が周囲に自然にあったように思われます。
またこちらも昭和20年代の様子です。「いわゆる、ひとつの大家族。」というキャプションがついていました。今、子育てをする世代の1世代か2世代前まで、子どもたちはこうして、地域のなかで家族以外のいろいろな人に目や手をかけてもらいながら、自然に、人との関係性や生活技術、礼儀作法などを学んでいたのではないでしょうか。決して母親一人だけが育児をしていたわけではなかった様子がうかがえます。
子育てをしているときには、特に初めての子どもであった場合、保護者は不安になることも少なくありません。でもその不安な気持ちは、誰かに丁寧に聞いてもらうだけで、少し楽になることもあります。まだ目が離せない幼い子どもの世話を、たった一人でするときの緊張感が、周囲に頼れる人の目があると和らぐこともあります。ぐずったり泣いたりする子どもをあやしているときに周囲の人からかけられる温かいまなざしや、「かわいいわね」のたった一言が、言葉をかける人が想像する以上に受け取る人の心に響くこともあるでしょう。
昔の地域コミュニティをそのまま復活させることが求められているわけではありませんが、地域が子どもの育ちや子育てに果たしてきた役割、よさを、今の時代に合わせて新たに作るとしたらどういう在り方がよいのか。子どもが生きる喜びいっぱいに過ごすために、子どもを真ん中にしながら地域がつながり、地域に住むそれぞれの人が幸せになれるような新たな仕組みとはどういうものか。
それを考えるにあたり、まず問われるのが、私たちが子どもをどういう存在として捉えるかという子ども観、またその育ちをどのように支えるのかという子育て観なのではないかということを、大日向先生、若盛先生のお話をうかがいながら感じました。
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