2014/12/01

[第1回] 少子化総論:日本の少子化の実態と要因 [3/3]

3.少子化対策のパラダイム転換の必要性

 これまで見てきたデータから言えることは、国が従来進めてきた少子化対策、つまり「出産・育児期にも共働きを望む人(主に女性)が増えたが、保育所や育児休業制度などの両立環境が不十分なため、都市部を中心に少子化を招いてきた」というパラダイムを「若年層の雇用環境の変化と、マスを占める典型的家族における出産・育児が難しくなっていることが我が国の少子化の主要因である」というパラダイムへ転換する必要があるということです。その上で、政策ターゲットを、従来の「都市部の正規雇用者同士の共働き夫婦」に加えて、「未婚の若者(特に雇用機会に恵まれない者)」「育児期のマスを占めている典型的家族(主婦パート世帯も含む)」にまで広げる必要があるでしょう。
 過去25年間、第1子出産前後に継続就業する女性は4分の1で変化していません(図5)。うち、育休を取得して継続就業する女性は全体の1割前後です。一方、出産退職、妊娠前から無職(結婚退職も含む)を合わせると7割弱であり、大多数は非継続就業の妻であることがわかります。少子化対策のメインターゲットであった正社員共働き夫婦というのは、少数派であり、大多数の典型的家族には恩恵がなかったといえます。
図5.第一子出産前後の母親の就業状況
(出典)国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」(2011年)より

4.少子化を止めるために必要な取り組みは?

 少子化対策を実現性の高いものとするためには、データをもとに、本当に影響の大きいものから対策をとる必要があります。今の日本で特に必要なのは、これまで十分着手されてこなかった、若者の雇用対策(未婚化への対応)と、夫婦、特に典型的家族が理想子ども数を実際に持てるようにするための経済的支援です。
 海外で少子化政策がうまくいった国の事例を見てみると、何か一つではなく、さまざまな施策を行って出生率を回復させています。同棲するカップルを法的に保護したり、子どものための手当てを現物給付と現金給付の両方を手厚くしていたり、保育サービスを充実させるなどです。そうした国では夫婦の理想子ども数と実際の子ども数が近く、希望する人数の子どもを安心して産み育てていることがわかります。
 日本はこうした海外の手法も取り入れつつ、影響の大きい事柄への対処から始めるべきでしょう。そのためにもまずは、出生率回復の目標値を定めるべきだと考えています。具体的な目標は「結婚・出産・子育てなどの障害を取り除き、希望する人が安心して産み育てられるようにすることによって、2030年を目途に出生率を人口置換水準(2.07)以上に回復させること」です。人口置換水準とは、出産する親世代とその子ども世代の人口が同数になるために必要な出生率水準のこと。こうした具体的数値を掲げることにより、出生率を下げている要因の度合いを精査し、効果的な対策をとれるようになります。また、対策をとった後はPDCAサイクルで検証ができ、予算についても数値目標があることで何にいくら必要かが分かり、獲得しやすくなると予測されます。もちろんこの目標値を掲げる際には同時に「原則」を示す必要があります。特に、結婚や出産を希望しない人の主体的選択を尊重し、これを決して侵さないことは社会全体で共有していなくてはなりません。
 出生率の目標値を設定し、特に少子化要因として強い「未婚化」「夫婦の持つ子供数の減少」への対策を実行、そして目標値と現状値の比較を行いながら、より効果的な少子化対策を行うことで、結婚したい人、妊娠・出産・子育てをしたい人が、その希望を叶えられるようにすることが急務です。