2014/11/10
[第1回] 一人1台のタブレットを活用した家庭学習で、自ら学ぶ子どもを育てる [5/5]
タブレットは万能ではなく、「学びが広がる文房具」の一つ
今後の研究の流れについてお話ください。
稲垣:引き続き実証研究を進め、子どもの情意面や学習内容の変容などのデータを集め、学習モデルの有効性を検証して、今年度内に研究報告をまとめる予定です。
子どもの学びをさらに深めるためには、どのようなシステム開発が必要だとお考えでしょうか。
稲垣:現在は、子どもが撮影したノートなどの画像データを教員が見て、気づいたことを子どもに伝えているという状況です。これを改良し、教員に有効な情報を提示できるシステムを開発したいと考えています。例えば、子どもの自主学習が特定の教科や学習方略に偏っているといった情報は、一人ひとりの個性の把握につながります。そのように、日々の指導に生かせるようなシステムをつくりたいと思います。
今回の研究の先には、学校教育全体の中でどのような活用法を見据えているのでしょうか。
稲垣:今回の研究では、あえて家庭学習に特化し、授業での活用や連携をあまり重視していません。これは、タブレットは「教員が子どもの使い方全てをコントロールしなくてはならない道具ではない」ことを提案したほうが、学校教育にとってプラスになると考えたからです。タブレットは、万能のツールではなく、子どもにとって「学びが広がる文房具」の一つに過ぎません。ネットワーク環境、アプリケーションやコンテンツの充実など、一人1台環境の普及には、まだまだ多くの課題があります。授業の中で教員が「どう使わせるか」を考えるには、テクノロジーがもう一段進歩し、安心して使える環境が必要です。むしろ現状のテクノロジーのレベルに見合った実践として、今回の研究は、子どもが自分の学びを助ける文房具としてタブレットがどう役立つのかを見せるモデルになると位置づけています。家庭学習を切り口に、自分の学びを助ける活用法を十分に検討した上で、授業との連携のあり方を模索していく考えです。
今回の研究が目指されている方向性が、改めてよく理解できました。ありがとうございました。
インタビューを終えて
稲垣先生も冒頭で言われたように、子ども自身が学びの道筋をつくり出していく「自主学習」は、生涯学習が重視される今の時代、不可欠なものといえるでしょう。特に、小学校段階はその基礎を築く極めて重要な時期だと考えます。
私が自主学習という学習形態を強く意識したのは、東京都板橋区立板橋第一小学校の中川久亨校長から「自由勉強」の実践についてうかがった時でした(関連記事参照)。その後も、ある自治体の管理職の先生から、「自分が小学生だった40年程前、『こつこつ学習』という自主学習に取り組んでいた」とお聞きするなど、何人かの先生から自主学習の大切さや可能性をうかがう機会があり、将来研究テーマとしたいと考えていました。
稲垣先生を中心とした今回の研究は、家庭学習とICTを結び付けて理論化し、一般化しようとするものであり、価値のある研究になると考えています。現場の先生方が連綿と積み重ねてきた実践の価値を一層向上させることを目指し、稲垣先生と研究を進め、今後もお伝えしていきます。
ベネッセ教育総合研究所グローバル教育研究室 主任研究員 住谷 徹