【話題提供2】⺟親・⽗親の養育⾏動の相互影響性に関する縦断的検討
唐 音啓●とう・おんけい
東京大学大学院教育学研究科博士課程在学中。修士(教育学)。専門は教育心理学・発達心理学。養育行動や子どもの非認知能力の発達等に関心を持って研究に携わっている。2019年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトに参加。
父母それぞれの養育行動への相互影響を5年にわたり追跡調査
これまでも、乳幼児期における父母の養育行動が、それぞれどう異なるか、あるいはどう似ているかを明らかにする研究が行われてきましたが、それらの多くは一時点を研究対象としたものでした。私は、乳幼児期を通して父母の養育行動が相互にどのような影響を与えながら変化していくかに関心を持ち、0~5歳にわたる縦断データを用いた追跡調査により、育児期のサポートのあり方の検討につなげることを目指しました。
最初に調査方法について説明します(表1)。調査時期は、0歳時期(Time0;0歳6ヶ月~1歳5ヶ月)から4歳時期(Time4;4歳6ヶ月~5歳5ヶ月)までの5つの時点を設け、対象者はすべての回答があった父母1,678名としました。分析項目は、発達段階に合わせて、乳幼児期(0歳時期~2歳時期)は具体的な養育行動に着目する「養育行動項目」、幼児期(3歳時期~4歳時期)は養育の態度やスタイルに焦点を当てる「養育スタイル項目」を設定しました。
表1
今回は、父母の養育行動の相互影響性を明らかにするための分析方法として、「交差遅延モデル」を用いました(図21)。交差遅延モデルでは、2つの調査対象(X、Y)が相互に与える影響の大きさを「交差遅延効果」として表します。交差遅延効果とは、分かりやすく言うと、一方がもう一方に及ぼす影響の大きさを意味します。この図では、斜め方向の矢印が交差遅延効果を表し、係数が大きいほど矢印方向に強い影響を及ぼすことを示します。一方、右方向の矢印が示す「安定効果」とは、それぞれの調査対象の経時的な影響の大きさを表します。
図1 分析方法(交差遅延モデル)
乳幼児期の育児では、父母が相互に影響を与え合う
まずは、乳幼児期(0歳時期~2歳時期)の調査結果を説明します。乳幼児期の調査では、「子どもの動作や言葉をまねる」「温かく優しい声で話しかける」など全21項目のポジティブな行動、および「感情にまかせてしかる」「悪いことをしたときにたたく」など全4項目のネガティブな行動について、「1.まったくしない - 4.よくする」の4段階で回答してもらいました。
その結果、父母の養育行動の違いが浮かび上がりました(図2)。全体的な傾向としては、母親の方がポジティブな養育行動が父親よりも多く見られる一方 で、ネガティブな養育行動も母親のほうがやや多いことがわかりました。また、父母ともに、ネガティブな養育行動は、子どもの成長とともに増えていく傾向も見られました。
その結果、父母の養育行動の違いが浮かび上がりました(図2)。全体的な傾向としては、母親の方がポジティブな養育行動が父親よりも多く見られる一方 で、ネガティブな養育行動も母親のほうがやや多いことがわかりました。また、父母ともに、ネガティブな養育行動は、子どもの成長とともに増えていく傾向も見られました。
図2 0~2歳時期の父母の養育行動の傾向
次に、ポジティブな養育行動、ネガティブな養育行動のそれぞれを分析しました。
ポジティブな養育行動を見ると、0歳時期から1歳時期にかけては、≪母→父≫は「.060」、≪父→母≫は「.049」、さらに1歳時期から2歳時期にかけては≪父→母≫は「.077」と、3つのパスに有意な係数が表れました(図3)。一方、ネガティブな養育行動では、0歳時期から1歳時期にかけては、≪母→父≫は「.102」、≪父→母≫は「.111」、1歳時期から2歳時期にかけては≪母→父≫は「.090」、≪父→母≫は「.073」と、すべてのパスに有意な係数が見られました(図4)。ポジティブ、ネガティブのそれぞれの数値を比べると、ネガティブな養育行動の方が大きくなっています。
こうした結果から、2つの可能性が示唆されます。1つは、乳幼児期の養育行動では、父母が相互に影響を与えやすいことです。もう1つは、乳幼児期は、ポジティブな養育行動より、ネガティブな養育行動のほうが、より 強い影響を相互に与えやすい可能性があると考えられます。
ポジティブな養育行動を見ると、0歳時期から1歳時期にかけては、≪母→父≫は「.060」、≪父→母≫は「.049」、さらに1歳時期から2歳時期にかけては≪父→母≫は「.077」と、3つのパスに有意な係数が表れました(図3)。一方、ネガティブな養育行動では、0歳時期から1歳時期にかけては、≪母→父≫は「.102」、≪父→母≫は「.111」、1歳時期から2歳時期にかけては≪母→父≫は「.090」、≪父→母≫は「.073」と、すべてのパスに有意な係数が見られました(図4)。ポジティブ、ネガティブのそれぞれの数値を比べると、ネガティブな養育行動の方が大きくなっています。
こうした結果から、2つの可能性が示唆されます。1つは、乳幼児期の養育行動では、父母が相互に影響を与えやすいことです。もう1つは、乳幼児期は、ポジティブな養育行動より、ネガティブな養育行動のほうが、より 強い影響を相互に与えやすい可能性があると考えられます。
図3 ポジティブな養育行動の相互影響
図4 ネガティブな養育行動の相互影響
幼児期になるにつれて父母の相互影響は小さくなる
続いて、幼児期(3歳時期~4歳時期)の調査結果を説明します。幼児期は、「温かい応答性」「攻撃性」「許容的で甘い養育」「厳しい統制」の4つの尺度で、父母それぞれの養育スタイルを評価してもらいました(図5)。
図5 3~4歳時期の養育スタイルの尺度
幼児期の養育スタイルの分析を進めるにあたり、まず乳幼児期と幼児期の養育にどのようなつながりがあるのかを調べました(表2)。その結果、≪2歳時期(Time2)にポジティブな養育行動が多かった父母は、3歳時期(Time3)に「温かい応答性」を重視する≫、また≪2歳時期にネガティブな養育行動が多かった父母は、3歳時期に「攻撃性」「厳しい統制」を重視する≫といった傾向が見られて、乳幼児期と幼児期の養育のあり方には一定の関連性があることがわかりました。
表2 2歳時期の養育行動と、3歳時期の養育スタイルの関連性
幼児期の養育スタイルについては、父母それぞれに「1.まったく当てはまらない - 6.非常によく当てはまる」の6段階で回答してもらいました(図86)。その結果、父母の養育スタイルには共通性が見られて、ともに「温かい応答性」が最も多いことなどがわかりました。
図6 3~4歳時期の父母の養育スタイルの傾向
次に、4つの尺度をそれぞれ分析しました(図7、8)。すると、乳幼児期とは違い、有意な係数が表れたのは、「温かい応答性」の≪母→父≫、「厳しい統制」の≪母→父≫の2つのパスのみでした。
図7 父母の養育スタイルの関連1
図8 父母の養育スタイルの関連2
こうした結果から、2つの可能性を導くことができます。1つは、乳幼児期に比べ、幼児期では相互の影響が全体的に弱まっていることです。これは、出生時から数年にわたり育児を経験したことで、それぞれの養育に対する姿勢や考え方が確立されつつあることが要因の1つかもしれません。
もう1つは、乳幼児期は父母が相互に影響を与え合っていたのに対し、幼児期は母親から父親への一方的な影響が見られたことです。あくまでも推測ですが、母親の方が子どもと接する時間が長いことなどから、その養育スタイルが父親に影響しやすくなるといった要因が考えられるでしょう。
もう1つは、乳幼児期は父母が相互に影響を与え合っていたのに対し、幼児期は母親から父親への一方的な影響が見られたことです。あくまでも推測ですが、母親の方が子どもと接する時間が長いことなどから、その養育スタイルが父親に影響しやすくなるといった要因が考えられるでしょう。
以上の結果をまとめると、初期の育児においては父母がともに影響を与え合いますが、幼児期になるにつれて母親の養育スタイルが部分的に父親に影響を及ぼしやすくなると言えそうです。また、乳幼児期は、ネガティブな養育行動が、ポジティブな養育行動よりも相互に影響を及ぼしやすく、子育て経験が乏しい時期に精神的に追い詰められやすい可能性もありそうです。こうしたことから、とくに子育て初期における支援を充実させることが重要であると考えられます。