【話題提供3】幼児期におけるデジタルメディアの使用と社会情緒的発達の縦断的関連
家庭の養育環境と子どもの発達に関する縦断研究「乳幼児の生活と育ち」プロジェクトの成果と意義を考える
大久保圭介●おおくぼ・けいすけ
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター特任助教。博士(教育学)。専門は教育心理学・発達心理学。アタッチメント理論の視座から、親子関係や夫婦関係などの二者関係におけるケアギビングの機能と発達について研究している。2018年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトに参加。
デジタルメディアの使用時間と乳幼児期の発達に関連はあるのか?
特に小さい子どもに対して、テレビやスマートフォンなどのデジタルメディアの使用には、十分な注意が必要だと言われています。日本小児科医会からは、2歳までのテレビ・ビデオの視聴は控える、デジタルメディアに接する総時間は1日2時間までを目安とするといった提言がなされています。その理由には、画面の強い光や、コンテンツ内容の不適切性といった、デジタルメディア自体の問題に加え、デジタルメディアを使用することで、絵本を読んだり、友だちと遊んだりといった健康的な活動の時間が奪われてしまうという問題が挙げられます。
今回の報告では、デジタルメディアの使用時間と、子どもの社会情緒的発達の関連性をテーマとしました。デジタルメディアは、テレビ・DVD、スマートフォン、タブレット、ゲームとし、0〜3歳の1歳ごとに、その時点でのデジタルメディアの使用時間を調査したものを分析に使用しました。社会情緒的発達については、4歳時点の調査で得たSDQ(Strength and Difficulties Questionnaire:子どもの強さと困難さアンケート、詳しい項目は表1)を用い、その得点と、0歳〜3歳のデジタルメディアの使用時間が関連しているかどうかを分析しました。
◎SDQの5つの尺度
情緒の問題…心配ごとが多く、いつも不安を抱いている など
行為の問題…よくうそをついたり、ごまかしたりする など
多動・不注意…おちつきがなく、長い間じっとしていられないなど
仲間関係の問題…一人でいるのが好きで、一人で遊ぶことが多い など
向社会的な行動…他人の気持ちをよく気づかう など
情緒の問題…心配ごとが多く、いつも不安を抱いている など
行為の問題…よくうそをついたり、ごまかしたりする など
多動・不注意…おちつきがなく、長い間じっとしていられないなど
仲間関係の問題…一人でいるのが好きで、一人で遊ぶことが多い など
向社会的な行動…他人の気持ちをよく気づかう など
表1 SDQの項目
回答は、あてはまらない=0点、どちらともいえない=1点、あてはまる=2点として、5つの下位尺度についてそれぞれ合計得点を算出。
回答は、あてはまらない=0点、どちらともいえない=1点、あてはまる=2点として、5つの下位尺度についてそれぞれ合計得点を算出。
2時間以上の使用が境目になる可能性
デジタルメディアの使用時間別にSDQの得点を見ていくと、テレビ・DVD、スマートフォン、タブレットでは、概ね2時間以上使用している人たちは、全く使用しない子どもたちや短時間の使用にとどめている子どもたちと比べて、SDQの得点に有意差があることが分かりました。 表2〜5のオレンジの線で囲った部分が、使用時間によってSDQの得点に有意差が見られた部分です。
メディアごとに分析結果を見ていくと、テレビ・DVDでは、1歳時や2歳時の使用時間と、4歳時の「情緒の問題」や「多動・不注意」の関連が見られました。0歳時や、3歳時の使用時間とSDQの有意な関連は見られませんでした。
スマートフォンでは、1歳時に全く使っていない子どもたちと比べると、1時間以上使用している子どもたちの方が有意に「情緒の問題」の得点が高く、また2歳時に、全く使っていない子どもたちと比べると、2時間以上使用している子どもたちの方が有意に「多動・不注意」や「仲間関係の問題」が高い傾向が見られました。
そして、タブレットは、使用時間が増えた2歳時から影響が見られ、2歳時・3歳時とも、2時間以上を境に、「向社会的な行動」を除く4つの側面の得点に有意差がありました。
なお、ゲームに関しては、3歳時点でも2時間以上使用している子どもたちが少なかったため、長時間使用の影響について検討することができていません。ただ、少なくとも1時間くらいまでの使用については、今回の分析では4歳時のSDQの得点と有意差は見られませんでした。
全体を通して、使用時間が増えれば、なだらかにSDQが悪化するという傾向ではなく、2時間などの長時間使用している子どもたちだけに、ガクッと得点が落ち込むという傾向が見られました。また、SDQへの影響として、「向社会的な行動」などのポジティブな面が低くなるというより、「多動・不注意」といったネガティブな面がより悪化するという傾向が読み取れました。
スマートフォンでは、1歳時に全く使っていない子どもたちと比べると、1時間以上使用している子どもたちの方が有意に「情緒の問題」の得点が高く、また2歳時に、全く使っていない子どもたちと比べると、2時間以上使用している子どもたちの方が有意に「多動・不注意」や「仲間関係の問題」が高い傾向が見られました。
そして、タブレットは、使用時間が増えた2歳時から影響が見られ、2歳時・3歳時とも、2時間以上を境に、「向社会的な行動」を除く4つの側面の得点に有意差がありました。
なお、ゲームに関しては、3歳時点でも2時間以上使用している子どもたちが少なかったため、長時間使用の影響について検討することができていません。ただ、少なくとも1時間くらいまでの使用については、今回の分析では4歳時のSDQの得点と有意差は見られませんでした。
全体を通して、使用時間が増えれば、なだらかにSDQが悪化するという傾向ではなく、2時間などの長時間使用している子どもたちだけに、ガクッと得点が落ち込むという傾向が見られました。また、SDQへの影響として、「向社会的な行動」などのポジティブな面が低くなるというより、「多動・不注意」といったネガティブな面がより悪化するという傾向が読み取れました。
表2 1歳時 デジタルメディア(テレビ・DVD、スマートフォン)の使用時間別のSDQの得点
表3 2歳時 デジタルメディア(テレビ・DVD、スマートフォン、タブレット、ゲーム)の使用時間別のSDQの得点
表4 2歳時 デジタルメディア(タブレット、ゲーム)の使用時間別のSDQの得点
表5 3歳時 デジタルメディア(タブレット・ゲーム)の使用時間別の得点
デジタルメディアの使用時間と子どもの気質の関連性は?
ここまでの分析結果から、デジタルメディアの使用時間によって、例えばSDQの「多動・不注意」の得点に有意差が見られました。しかし、デジタルメディアを長時間見ていたから発達に影響があったのか、それとも、子どもがじっとしていられないからデジタルメディアを見せざるを得なかったのか、そこの因果関係は慎重に検討すべきです。
本プロジェクトでは、SDQは4歳時のみの調査だったため、代わりに、0歳、1歳、2歳の3時点で回答を得た気質に関する3つの質問項目の得点を用いて、年齢を追った因果関係の分析を試みました。
3つの質問項目は、「一度ぐずるとなだめにくい」「かんしゃくを起こしやすい」「ちょっとしたことで激しく泣く」で、4件法での回答を得ています。3つの項目の平均得点を分析に使用しました。分析には、ランダム切片交差遅延効果モデルを使用しました。これは、2つの変数の因果関係を推定できる方法です。
本プロジェクトでは、SDQは4歳時のみの調査だったため、代わりに、0歳、1歳、2歳の3時点で回答を得た気質に関する3つの質問項目の得点を用いて、年齢を追った因果関係の分析を試みました。
3つの質問項目は、「一度ぐずるとなだめにくい」「かんしゃくを起こしやすい」「ちょっとしたことで激しく泣く」で、4件法での回答を得ています。3つの項目の平均得点を分析に使用しました。分析には、ランダム切片交差遅延効果モデルを使用しました。これは、2つの変数の因果関係を推定できる方法です。
分析の結果から、0歳から1歳にかけて気質が荒くなることが、1歳時でのテレビの視聴時間の増加につながることが分かりました(図1)。つまり、テレビの視聴時間が長いから子どもの気質が荒くなるのではなく、どちらかというと、子どもの気質が荒くなるから、それを落ち着かせるためにテレビを見せる時間が長くなっていたという傾向が見られました。ただし、その因果関係はそれほど大きくないため、気質が荒くなることでテレビの使用時間がものすごく増加するという訳ではないことには注意が必要です。
なお、同様に、スマートフォンの使用時間と気質との関連を分析しましたが、いずれの因果関係も有意ではありませんでした(図2)。
なお、同様に、スマートフォンの使用時間と気質との関連を分析しましたが、いずれの因果関係も有意ではありませんでした(図2)。
図1 テレビの使用時間と気質との関連
図2 スマートフォンの使用時間と気質との関連
使用時間とともに、デジタルメディアの使い方も大事
最後に、デジタルメディアの使い方とSDQの関連を分析した結果をご紹介します。
調査では、子どもが各メディアを15分以上使用していると回答した母親を対象に、デジタルメディアの使用ルール(「大人と一緒に使う」「内容について親子で会話をする」など10項目)を設けているかを尋ねました。すると、「見る(使う)内容を制限する」「見る(使う)時間の長さを決める」「一人で使うときは大人の目の届く範囲で使う」といった、いわゆる、保護者の「フィルタリング機能」についての使用ルールを設けている場合、SDQの「行為の問題」「多動・不注意」が最大で0.4ポイント程度、低いという結果が出ました(表6)。
調査では、子どもが各メディアを15分以上使用していると回答した母親を対象に、デジタルメディアの使用ルール(「大人と一緒に使う」「内容について親子で会話をする」など10項目)を設けているかを尋ねました。すると、「見る(使う)内容を制限する」「見る(使う)時間の長さを決める」「一人で使うときは大人の目の届く範囲で使う」といった、いわゆる、保護者の「フィルタリング機能」についての使用ルールを設けている場合、SDQの「行為の問題」「多動・不注意」が最大で0.4ポイント程度、低いという結果が出ました(表6)。
表6 デジタルメディアの使用ルールの有無と、SDQの関連
さらに、例えば、スマートフォンの使用時間ごとに、「一人で使うときは大人の目の届く範囲で使う」といった使用ルールの有無によってSDQの得点を比較すると、使用時間が1時間以上の場合に限って、使用ルールを設定していた方が「向社会的行動」の得点が有意に高いことが分かりました。つまり、特に、長時間使用する場合は、目の届く範囲で使用させていた方が、子どもの発達にとっては良いということが示唆されます。
また、「内容について親子で会話する」場合、会話をしない場合と比較して、「向社会的行動」が0.5ポイント高く、「多動・不注意」が0.5ポイント低いという結果でした(表7)。親子で一緒に話をしながらデジタルメディアを使用することが、子どもにポジティブな影響を与えていると言えます。
表7 「内容について親子で会話する」と向社会的行動の関連
ここで申し添えておきたいのは、今回の分析結果では上記のように有意差が見られましたが、得点差は最大で0.5ポイント程度だったということです。得点が10点満点という中で、それを大きな差と捉えるか、小さな差と捉えるかは、見解が異なる場合がある点に留意していただければと思います。
これまでの分析結果をまとめると、デジタルメディアの使用と子どもの発達には、特に2時間以上の使用で関連が見られたところが多くありました。両者の因果関係について、気質の項目を用いた分析で、気質が荒くなるとテレビの視聴時間が長くなるという傾向を示しましたが、今回の結果だけでは断定はできないので、デジタルメディアの使用時間と子どもの発達の関連については、今後も慎重に検討していきたいと考えています。
さらに、デジタルメディアの種類によっては、部分的に、使用時間よりも、使用ルールの有無が、子どもの発達と関連しているという結果も得られました。デジタルメディアを使用する際には、使用時間に加えて、どのように使用するかも併せて考えることが大切だと言えるでしょう。
さらに、デジタルメディアの種類によっては、部分的に、使用時間よりも、使用ルールの有無が、子どもの発達と関連しているという結果も得られました。デジタルメディアを使用する際には、使用時間に加えて、どのように使用するかも併せて考えることが大切だと言えるでしょう。