エピソード 研究会メンバーのICEとの出会い 群馬県立前橋高等学校 杉田 俊也
1.「教え込み(教授主体)から、主体的な学び(探究主体)に学びを変える」必要性が高まったと感じる、ご自身の経験。
初任校は小規模校で進学を希望する生徒も少なく、特に制約もなく授業はのびのびと行うことができ、どちらかというと今の探究的な授業に近いスタイルの授業を実施する機会もしばしばあったように思います。
しかし、進学校である現任校へ異動し、事実上転職したような状態になりました。短い時間の中で概念の獲得を促し、ある程度高いレベルまでそれを適用できるようにすることが求められる中、授業づくりを考える上で最初に拠り所となったのは、かつて自身が受けていた教え込むスタイルの授業でした。3、4年は教え込むスタイルで授業を実施していましたが、授業の中での生徒とのやりとり、そして定期試験や校外模試の記述内容を見ている中、教え込むスタイルで生徒の学力を伸ばすことに限界を感じるようになりました。
ちょうどその頃、教育現場でも教育観に対するパラダイムシフトの必要性が訴えられるようになり、その流れにのって現任校でも主体的な学びの場面を導入するようになってきました。
2.先生方にとってフレームワーク(ICEモデル)が有効と感じた理由。
初任校赴任当初には概念変容研究をしており、当時はPosnerらの概念変容モデル(dissatisfaction、intelligible、plausible、fruitfulのプロセスを経て概念が変容する)が概念変容に対して効果的であると認識していたこともあり、研究の成果が凝縮された教育モデル自体の有効性は理解しているつもりです。教育モデルはICEモデル以外にもたくさんありますが、ICEモデルが特に本校に必要だと感じている理由は、SSH活動での教育目標であるイノベータの育成に効果的であると考えているからです。ICEモデルを基に授業のフレーム構造を考えるということは、その一連の教育活動を通して最終的に「Eフェーズ」の開発的な段階まで到達させることを意図して授業を構成することになり、そこがイノベータの育成に効果的であると考えています。
3.授業デザインに必要な「問いかけ」の具体的な事例(単元やその時の問いの事例)。それを作るために工夫していること。
ICEモデルを学ぶ以前の「問い」の質に関しては、せいぜい「Iフェーズ」や「Cフェーズ」までで、「Eフェーズ」までは意識できていなかったように思います。この点に関しては、ICEモデルを学び改善されてきたように思います。特に夏休み中にベネッセの研修会で柞磨先生がされた講演や、前々回の研修会で酒井先生が作成された「問い」のリストが参考になりました。
夏休み以降に作成した「問い」の中で、生徒の主体的な学びを促すものとして効果的であったと思うものは、「なぜ運動学の最初に学ぶ具体的な運動が、実現しにくい等速度運動なのか」や「フックの法則が適用できるものを思いつく限り挙げよ」といったものかと思います。前者は回答者によって様々な回答が予想され、生徒たちは改めて問われると「なぜだ」と思い、その後の学習への主体的な関与を促すことができます。後者の答えは、ある範囲であらゆる素材で成立する、ということになりますが、生徒たちのほとんどは「ばね」や「ゴム」しか挙げることができないため、生徒たちの視野を広げるきっかけの「問い」として使えます。
しかし、これらは「Cフェーズ」の段階の「問い」であり、「Eフェーズ」の「問い」はうまく機能させることができていない状況にあり、ここが今後の課題となっています。
4.学校や教科を超えて語る研究会を通して気づいたこと。研究会への期待と課題。
群馬の理科教育関連の研究会は遅れており、そのほとんどが実験研修会となっていて、「問い」や「授業づくり」に関する研修会はほとんど行われておりません。個人的に大学院時代に行っていた学習論の研究を継続し、授業実践を行って学会発表の場で発表をしておりましたが、そういった機会は限られており、しかも発表後の質疑応答の際にもらえるコメントも正直本質からズレているものがほとんどであったように思います。
そんな中、ICEルーブリックの作成から授業づくりまで、総合的に柞磨先生からご指導いただけたり、研究会の中で先生方と交流する中で本質的な部分での指摘をしていただいたり、先生方が作成された資料を拝読したりする中で、これまで授業づくりに対する視野が狭かったことを実感するとともに、学んだことを活用して今までよりも確実に視野が広がってきていることを実感しております。私にとっては、「学校を超えて」他都府県の様々な教育文化の中で教育活動を行ってこられた先生方と交流し、意見をいただける機会が自分自身の教師としての視野を広げるうえで非常に役に立っております。これからもどうぞよろしくお願いいたします。