エピソード 研究会メンバーのICEとの出会い 岡山県立林野高等学校 元校長 三浦 隆志

1.「教え込み(教授主体)から、主体的な学び(探究主体)に学びを変える」必要性が高まったと感じる、ご自身の経験。

 約10年前、現行の高等学校学習指導要領の実施を控えて、当時、勤務していた学校において、気心が知れた数人の教師で、「言語活動の充実」をそれぞれの教科学習において、どのように実現していくかをよく議論していた。当時、アクティブ・ラーニングという言葉も知らず、ただグループ学習がどうだとか、協同学習は?、ジグソー法はどうするのかなどを考えていた。私が担当していた日本史という科目は、空欄がちりばめられたプリントを配り、教師の説明に応じて、生徒が記入するやり方が一般的であった。つまり、どうしても多くの知識を暗記することが前提で、そこからの「言語活動」では、受験まで時間がないという、言い訳?が教科の教師の常套句になっていたように記憶している。その頃から東京大学の入試問題は良問であるが、それは特別なものという考えに支配されていたと思う。それ故、学習指導要領の改訂を機に、大学受験を大きな目標と捉えている進学校でも「言語活動」によって生徒が主体的に考え、能動的で深い学びに至る教授方法や教材の開発をやってみようと思ったことが、まだ見ぬICEモデルに向けての第一歩であった。

2.先生方にとってフレームワーク(ICEモデル)が有効と感じた理由。

 それから、いろいろな教授方法や学習理論を手当たり次第、勉強してみた。その結果、ある程度の知識や知見を得て、どのようにして高等学校の学習指導に導入すればよいかを考えるようになった。ちょうど、その頃、高等教育におけるアクティブ・ラーニングが提起され、教育の方法論や心理学等の多くの研究者の姿が見えるようになった。いずれの高等学校でも、授業改善が学校課題となっていたが、どのように展開していくかについて何らかの解決方法がある訳でなく、いろいろ模索している状況であった。私自身、1つの方法を導入しても多くの先生方が理解していただけるか、そして継続していくことができるかを、禅問答のように頭の中をぐるぐると駆けめぐっていた。授業改善において、単元ベースで授業を考え、それぞれの授業で教師が発する「問い」をどのようにデザインするかがポイントとなると考えていた頃、広島県で取り組まれているICEモデルのことを知った。それから、ICEモデルについて勉強していくなかで、教師の「問い」を構造化する理論を、どうにかして解りやすく伝えることができれば、先生方は、“生徒に理解させる”から“生徒ができるようになる”というように、資質・能力ベースの授業観に変わるのではないかと思うようになった。

3.授業デザインに必要な「問いかけ」の具体的な事例(単元やその時の問いの事例)。それを作るために工夫していること。

 授業をする立場ではなくなったため、ICEモデルでデザインした授業を、実際に実践することはできないが、これまで考えてきた日本史の授業デザイン案を形にしている。共著『歴史教育「再」入門』では、その一部を示してみた。さらに、具体化していくなかで、単元全体がICEモデルでデザインされ、表現する方法があれば、さらにわかりやすく、現場の先生方に使ってもらえるのではないかと思っている。東北学院大学の稲垣忠教授が考案された情報活用型PBL単元デザインシートは魅力的なものと考えている。

4.学校や教科を超えて語る研究会を通して気づいたこと。研究会への期待と課題。

 研究会の場では、教科や校種を越えての議論や対話、先生方の実践を伺うことができ、大変刺激になっている。大いに感謝したい。また、私の考えた実践プラン等が、生徒の学びに寄与できることを願っている。