エピソード 研究会メンバーのICEとの出会い 滋賀県東近江市立五個荘中学校 林 秀樹

1.「教え込み(教授主体)から、主体的な学び(探究主体)に学びを変える」必要性が高まったと感じる、ご自身の経験。

 私が教えている英語では、「Can do」ということが目標の目安としてよく使われます。つまり「知っている」ではなく「~できる」ということが大きな目標となります。当然他の教科でも同じことはあると思います。しかし教科の特性として英語はその傾向が強いと思います。その結果、活動に重点が置かれる授業となります。だから、どちらかというと「教え込み」ではなく、生徒が活動している時間が多くなる授業展開になります。
 しかし、それが「主体的な学び」になっているかというと疑問が残ります。生徒は教師から指示された活動には積極的に参加していたとしても、生徒の「主体的な学び」になっていないこともあります。「できた」その後に「だから何?」と問われるとその答えがないまま授業をしていることが多いのではないかと思います。まして「探求的」といわれるともっと課題が残ると思います。この課題を克服するには、「活動して終わり」ではなく、「活動してで出てきた疑問」や「どうすればよりよい活動になったか」「活動して得た新たな考えや価値」にも焦点を当てた授業をしていく必要があると思います。また(中学・高校では2022年度全面実施の)新学習指導要領の評価の「主体的な学び」を評価するとなったときには、この視点はとても重要になってくると思います。

2.先生方にとってフレームワーク(ICEモデル)が有効と感じた理由。

 1で書いたことにも共通しますが、「活動(授業で生徒が行う)」の目的を明確化できることだと思います。この活動は「~のために」するということに教員が意識できることはとても大きいと思います。
 また授業を1時間単位だけでなく、単元や大きなスパンで指導内容を捉えることができるようになると思います。
 たとえば「Be動詞について学ぶ」という学習でも、ICEモデルを使うことで「I」としてBe動詞の種類、文法を理解する、Be動詞を使って、英文が書ける等、「C」として「I」で学んだことを使い、自己アピール文を書いてみよう、「E」として友達の自己アピールを聞いて自分のものと比べ、自己アピール文で大切な要素とBe動詞で伝えられることはどんなことか考えてみよう。「Be動詞」を単に教える授業でも「E」の課題を考えることで、「I」にも目的ができ、授業全体や単元としても広がりが出てくると思います。

3.授業デザインに必要な「問いかけ」の具体的な事例(単元やその時の問いの事例)。それを作るために工夫していること。

 生徒への問いかけの前にまず、「それを何のために教えるのか」「生徒がそれを学習したことで生徒は何を得るのか、生徒の生き方に何か影響があるのか」ということを考えるようにしています。そこを出発点として課題や活動を考えていき、その活動や課題に合わせて、それを達成していく方法や活動をよりよくするためにどんなことが必要か、活動して生徒から出てきた課題などを問いにしています。

4.学校や教科を超えて語る研究会を通して気づいたこと。研究会への期待と課題。

 この研究会を通して、この研究会で議論している「問いかけ」や「ICEモデル」「主体的な学び」などは校種や教科が違っても共通の課題であり、大切にしていかないといけないということを感じました。また新学習指導要領でも求められている学力観とも共通点が多いなと感じました。
 ただ、私は今回、公立中学の教員ということで校種や状況が違う中で、この研究会に参加し、(いわゆる普通の公立中学の)生徒や先生の現状と研究会で議論していることとの大きなギャップを正直感じていました。このギャップをどう埋めていけるのかをずっと考え続けた1年でした(まさに答えのない課題で、大変探究的でしたが…)。
 大きな課題として生徒の学力の問題です。たとえば、次のような事例がありました。数学の図形問題であまりにもテスト(大変やさしい基本問題)の結果が悪かったので、再テスト(数値や図形も全く同じで)を行いました。15問中13問正解で合格でしたが、再テスト(合格できなかったものが再テストを受ける)を5回実施し、最終的に5分の1の人数が合格できませんでした。英語の基本文テストではもっとひどく再テストを8回実施して最終的に4分の1の人数が合格できませんでした。
 これには2つの課題があると思います。1つ目の課題はこの再テスト(数値や図形も全く同じで)に意味があるのかということです。これはただ答えを暗記するだけのテストになってしまっています。ただ2つ目の課題としてそれでもできない生徒が一定数いるということです。
 結局このことによってまた次のようなサイクルが生まれます。簡単な問題でも理解できない生徒が多い。だから教師はできるだけプリントや板書も単純化(穴埋めでできるようなもの)して、生徒が考える部分を少なくする(柞磨先生がよくおっしゃっている「ストーリーづくり」からはかけ離れていく)。生徒は(単に穴埋めをするだけなので)意味を理解せず、作業をこなしている。また生徒はそのような授業だと(作業としてですが)できるので、「わかりやすい」と好評である。教師にとっても生徒が静かに授業を受けているので都合がよい。
 しかし、そのような授業を受けてきた生徒がどうなるかというと3年生では顕著に表れます。授業はまじめに受けており、先生との関係も悪くないので、教師の話にも笑顔が見られ、楽しそうに授業を受けています。でも少し考えるような課題や発問に対してはほぼ発言もなく、ただ静かに先生の話を聞き、先生が出すプリントをただこなしている生徒がほとんどです。
 教師もサボっているわけでもなく、「どうしたら生徒が理解してくれるのだろう」と考え、プリントも丁寧にたくさん作られています。また小テストをこまめに実施し、採点し、授業の予習や復習のプリントやノートを毎回集めて、点検もされています。
 このような現状は私の勤務校だけではなく、全国の公立の中学・高校(進学校ではない)では見られると思います。だからこそこの研究会の意義は大きいと思います。ただこのままでは現状は変わらないと思います。
 確かに今この研究会で議論しているようなものをそのまま導入することは生徒にも教師にも難しいと思います。しかし「主体的な学び(探究的な学び)」の基礎づくりとしての部分は普通の公立中学でもできるのではないかと思います。
  1. 作業的な活動にも思考を促す部分を取り入れる。
    (分類する、(共通点・違いを)探す、順番にする、比べるなど)
  2. 単元構想にICEモデルを取り入れる。つまり目標だけではなく、「目的」に重点を置く。
  3. 読んで理解する力の指導の充実を図る。Iの課題でつまずく生徒のほとんどはIに至るまでに、単純に「文を読んで理解する」ということに大きな課題を抱えている。読めてはいるけど、理解していないという現状が非常に多くある。この課題に気がつかず、課題でつまずいていると考えている教師が多いと思う。
  4. 3の課題を克服するためにも理解していることやわかったことを言語化(口頭でも記述でも)させる活動を充実させる。
 4については中学だけでは無理なので、今年(2019年)、幼稚園、小学校にも働きかけ、来年度幼小中で共通のテーマとして研究実践を積んでいくことになりました。
 他にもあるかもしれませんが、この研究会で考えていることが普通の公立中学・高校でも取り入れられていくようになればいいなと思います。