2017/01/16
[第2回] 自律的活動力を育てる ~東京都立戸山高校SSH及び家庭基礎の実践 [3/4]
3.家庭基礎の実践
家庭基礎の授業の工夫
「ライフステージを考える雑誌を編集する」意識でカリキュラムを編成
非SSH科目において、生徒の思考を促して自己学習力を育成する指導の例として、家庭基礎の実践を紹介したい。
SSH担当で、1年生8クラスの「家庭基礎」を担当する主任教諭の荒井きよみ先生は、家庭基礎という科目の特性を次のように説明する。
荒井 きよみ先生
「家庭基礎の学習対象は『生活』という、生徒がより身近に感じやすい学習内容です。ですからアクティブ・ラーニングの題材として適していますし、まさに実習やホームプロジェクトといった学習方法はそのものであるとも考えています。授業では、実物を用いたり、リアルな体験をすることで、生徒がより実感を持って理解できるように心がけています」
生徒が学習内容を自分のこととして捉えやすくするために、荒井先生は教科書の内容を再編成して16単元の独自カリキュラムをつくった。
「教科書のほかに資料集や漫画・映画・テレビ・新聞などを駆使して、『乳児期』『青年期』『高齢期』といったライフステージごとに整理しています。衣食住や家族、それらにかかわる生活問題を1冊の雑誌に編集するという考え方で、授業の流れを組んでいるのです」(荒井先生)
各単元は、人の一生を軸に、社会的・文化的・科学的な視点から生活問題を切り取り構成している。年度最初の授業では、年間カリキュラムの流れに沿って、教科書や資料集の該当ページやキーワードを一覧にしたプリントを配布する。それにより、生徒は1年間の見通しを持つとともに、1年間の終盤には各単元で扱う生活問題のつながりに気づく仕掛けになっている。
単元のテーマに、解が一つに収まりきらない問いを立てることも特徴だ。例えば、最初の単元「きみたちはリッチだ」では、「夢を持っているか」という問いを土台として、生徒はライフデザインに取り組み、発表し、共有しながら、「晩婚化」「家事労働」「育児休業取得率」などといった生活問題に向き合う。
家庭科の授業の様子
グループワークが生徒の学びを深める
実際の授業の流れを見てみよう。
2学期の食生活を扱った単元は、2時間連続の授業を2回行う事で構成されている。
1回目の授業では、単元ごとに作成されたワークシートを使って進められる。 ワークシートは、教科書や資料集の内容をベースとして、ニュースや広告などの使う身近な話題から生徒が関心を持ちそうなコンテンツを組み入れているのが特徴で、白黒ばかりでなくカラーにもする。また、最低10分間は能動的な活動を行うという方針の下、グループワークで話し合いをする課題についても目立つような色や記号を使って生徒が気づくようにしている。
2学期の食生活を扱った単元は、2時間連続の授業を2回行う事で構成されている。
1回目の授業では、単元ごとに作成されたワークシートを使って進められる。 ワークシートは、教科書や資料集の内容をベースとして、ニュースや広告などの使う身近な話題から生徒が関心を持ちそうなコンテンツを組み入れているのが特徴で、白黒ばかりでなくカラーにもする。また、最低10分間は能動的な活動を行うという方針の下、グループワークで話し合いをする課題についても目立つような色や記号を使って生徒が気づくようにしている。
1回目の授業の前半は、荒井先生が単元のポイントを説明するとともに、グループごとに話し合ってほしい課題を示し、後半にグループワークを行う形で進められる。そして、2回目の授業では、1回目の授業で学んだ内容を実践する形で、実習を行うことが多い。
「たっぷりの野菜と毎日の果物」というビタミンを扱う単元では、1回目の授業の前半で、前回の調理実習で生徒が持参したきゅうり(F1品種)を切り口に、伝統野菜・地産地消・スローフード・ポリフェノール系色素といった視点から野菜の魅力を見直させ、遺伝子組換え作物・食料自給率・食品ロスなど現代の食の問題に展開していく。後半のグループワークでは、自分が住む地域の伝統野菜を調べたり、2つの醤油から遺伝子組み換えの必要性と問題点、食品ロスの解決策を話し合ったり、最後にグループごとに発表して全体で共有した。
「生徒は、ほかの生徒から自分の考えていなかった意見を聞くと、『そこまで考えているのか』『自分では気づけなかった』といった思いが生じ、教師から説明されるより考えが深まります」(荒井先生)
意識や知識を育てて、エシカル・コンシューマーにつなげる
2回目の授業は、グループごとに「ベジピザ」を作る調理実習だ。授業の冒頭に、「1日に必要な野菜350グラムの概量を知る」「グルテンの形成について知る」「塩と油の役割を知る」という3つのねらいを提示し、実習を通して体験的に理解させることを目指した。これらは1回目の授業で学習した内容で、ねらいに迫るためにピザの具材となる野菜を350グラムと規定して、グループごとに購入し、授業に持ってくるように指示されていた。
実習中は、それぞれの生徒が自分から役割を見つけて、主体的に分担作業を進める姿が見られた。あるグループでは、生徒の一人が自主的に記録係となり、荒井先生の指示をメモしてほかのメンバーに伝えていた。
「ほかの教科も含めて、普段から生徒同士が話し合う活動を充実させていることが、実習でのスムーズな協働につながっていると感じています」(荒井先生)
ワークシートに書かれているベジピザのレシピは、英国人JETの協力の下、英語表記(元は伊語)とし、食文化の違いを言語から味わうことをねらっている。特に解説はしないが、生徒は互いに教え合いながら調理を進めていった。
調理を終えて試食し、ワークシートに作り方や調理上のポイント、感想・反省などを記入して提出したら、実習の終了だ。最後にグループごとに排出したゴミの重さを計測する。これも重要な評価の対象だ。
チームワークを発揮して、ワークシートを確認する生徒
「グループワークを主体とした学習活動を通して、『自分から役割を見つけよう』『他の生徒とコミュニケーションをしよう』『もっと生活を向上させよう』『ちょっとした行動で温暖化をとめよう』といった思いを高めていきたいと考えています。そうして生活に対する意識や知識を育て、生活問題を解決するために行動するエシカル・コンシューマー(消費者市民)を目指すことがこの学習のねらいです」(荒井先生)