2016/04/12
[第3回] 大学を卒業して実感できる大学での学びの意義 [7/7]
Ⅴ.おわりに
本稿で述べてきたことをまとめよう。大学教育に対する考え方は社会人と大学生で大きく異なっており、学生は「単位を楽にとれる」「基礎・基本が中心の」「講義形式の授業が多い」といった、できるだけ負荷の少ない授業をよいとするのに対して、社会人はその正反対の「自分の興味のある」「応用・発展的内容が中心の」「演習形式の授業が多い」といった、履修者自身の能動的学習が求められるようなチャレンジングな授業のほうをよしとしている。しかも世代が上がるほど、こうした社会人の傾向は顕著になっていく。このような大学教育に対する考え方の違いは、授業を履修する当事者であるかどうかといった違いもあるだろうが、今回の調査対象者の社会人だけを取り上げた場合、現在の職業、役職、仕事に望むことなどとも関係しており、また、少なからず、学生時代に受けた教育や自身の学習の経験も影響している。「興味・演習」を支持する層は「単位・講義」を支持する層よりも、「主体的学びの機会」や「指導・評価の機会」の頻度が高い者が多く、自主性を尊重された学習経験と教員からの知的喚起や啓発の経験が印象に残っている者が多い。さらに、ゼミや卒業論文を中心にして、自ら学習活動に力を入れる傾向にあり、高学年次での学びが充実していた点も特徴的である。
ここから導き出される論点は2つ挙げられる。
第1に、学生時代に主体的に学ぶ経験をしたことは卒業後も肯定的に評価されており、そこには教員や学生との双方向的なやり取りだけでなく、学問固有の物の見方や教員の自由な知見に触れること、また自主性を尊重され自分の考えを深めることなどの経験も含まれているという点である。現在は学生の意欲をかきたて理解させるために、協働学習なども含めて教育方法を工夫することに重点がおかれがちである。しかし、学生自らが学びを深めていく契機はわかりやすさを意図した仕掛けづくりや働きかけにとどまらず、学生にとっては時に困難と思われるような発展的内容に触れる機会や、またそれに単独で取り組むといった機会も重要なのではないだろうか。
第2に、本調査からは1990年代以降大学の教育改革が進展し、若い世代では教育経験が多様化して主体的な学びの機会が増えていることが明らかになったが、それにもかかわらず、こうした教育経験が少ない上の世代ほど大学での主体的な学びの意義をより一層認めているという点である。主体的な学びをよいとする層は教育・学習経験が多いことはたしかだが、時間の経過に伴い、様々な経験を積み重ねることを通して、その効果を実感できるのだろうし、また経験していない層も含めて学びの意義に気づくのではないだろうか。先に述べたように、新しいことや解決困難なことに挑戦したいと思う現在の仕事のニーズが大学教育に対する考えと結びついている点にもこのことは表れている。そう考えると、大学の教育成果や学習成果を短期的なスパンで測定することだけに注視するのにはもう少し慎重になってもよいと思われる。
第2に、本調査からは1990年代以降大学の教育改革が進展し、若い世代では教育経験が多様化して主体的な学びの機会が増えていることが明らかになったが、それにもかかわらず、こうした教育経験が少ない上の世代ほど大学での主体的な学びの意義をより一層認めているという点である。主体的な学びをよいとする層は教育・学習経験が多いことはたしかだが、時間の経過に伴い、様々な経験を積み重ねることを通して、その効果を実感できるのだろうし、また経験していない層も含めて学びの意義に気づくのではないだろうか。先に述べたように、新しいことや解決困難なことに挑戦したいと思う現在の仕事のニーズが大学教育に対する考えと結びついている点にもこのことは表れている。そう考えると、大学の教育成果や学習成果を短期的なスパンで測定することだけに注視するのにはもう少し慎重になってもよいと思われる。
以上の論点を踏まえると、社会人が大学での学びの意義や効果をどのようなときにどのようなところで見出し、自分の社会生活のなかでそれを意味づけるのかを丹念に分析していく必要がある。学生と社会人の間には大学教育に対する考え、とりわけ主体的な学びの意義について大きな意識のギャップがあることが明らかになったわけだが、それを少しでも埋めていくためにどのような方法が学生にとって有効であるか、いいかえれば学生が実感をもって学びの意義を理解するにはどうしたらよいか、この問いを明らかにするためにもこうした社会人の分析は不可欠である。
【参考文献】
- Benesse教育研究開発センター(2009)『大学生の学習・生活実態調査報告書』(研究所報VOL.51)、(株)ベネッセコーポレーション
- Benesse教育研究開発センター(2013)『第2回 大学生の学習・生活実態調査報告書』(研究所報VOL.66)、(株)ベネッセコーポレーション