2016/04/12
[第3回] 大学を卒業して実感できる大学での学びの意義 [3/7]
Ⅲ.現在の仕事と大学教育に対する考え
今回の調査の質問文では「大学教育について、現在のお考えに近いのはどちらですか。」としている。在学当時ではなく、あくまでも現在の大学教育に対する考えを尋ねているのであって、そこには回答者の現在の立場や仕事に関する認識がある程度反映されていることが考えられる。そこで、前述の8パタンを4パタンにまとめ、「興味・演習」(興味のある授業、演習形式の授業が多いことを支持)、「興味・講義」(興味のある授業、講義形式の授業が多いことを支持)、「単位・演習」(単位を楽にとれる授業、演習形式の授業が多いことを支持)、「単位・講義」(単位を楽にとれる授業、講義形式の授業が多いことを支持)として、社会人の属性を比較してみたい。
特徴的な点を挙げれば、職業では会社役員・管理職で「興味・演習」がやや多い(23~34歳は平均34.6%に対して41.4%、40~55歳は平均47.1%に対して52.6%)。また、「興味・講義」は、23~34歳で平均36.1%に対して、自営業(42.7%)、自由業・専門職(42.0%)、派遣・契約社員(41.4%)、無職(41.9%)にやや多く、40~55歳で平均32.3%に対して、パート・アルバイト(38.5%)、専業主婦・専業主夫(38.7%)、無職(40.3%)にやや多いというように、年代で若干傾向が異なる。この結果は、23~34歳の世代において、役職では管理職に「興味・演習」が多いこと(平均34.7%に対して42.3%)、職種では専門職に「興味・講義」が多いこと(平均35.4%に対して41.5%)とも一致する。さらに、「現在、仕事に対して最も望むこと」との関連では、「クリエイティブに新しいことを生み出すこと」を選んだ人が「興味・演習」を選ぶ率が高く(23~34歳は平均34.5%に対して43.2%、40~55歳は平均47.3%に対して60.5%)、これに加えて、23~34歳では「仕事の内容やキャリアを自律的に選択できること」(40.8%)、「解決困難な問題に挑戦すること」(40.7%)も「興味・演習」を選ぶ率がやや高い。なお、「単位・講義」に関してはこうしたキャリアによる偏りはみられなかった。
こうしてみると、同じ興味のある授業を選びながらも、演習形式を支持するのは管理職系で、講義形式を支持するのはどちらかというと若い世代の専門職系だということがわかる。これは大学時代の専門分野とも関連しているとみられる。「興味・講義」を選ぶ人は医・薬・保健系、農水産系、生活科学系など、専門職志向が強い学部出身者に多い。他方、「興味・演習」を支持する層は仕事で新しいことや解決困難なことに自律的に挑戦する気概をもつ、あるいはそうした立場にあって、これらの仕事上のニーズが「興味・演習」といった大学教育に対する考えにも反映されているのではないだろうか。管理職などの責任のある立場、自律的な責任のある仕事を任される立場に就くには一定の年数がかかることからも、上の世代の人たちのほうが「興味・演習」を支持する比率が高くなるのは理解できよう。