エピローグ:“天才”を育てた親たちの共通項

 これまで8人のアスリート家族を紹介してきたが、その他にも大勢のトップアスリートの親を取材した中で、親たちが驚くほど似通った考えで子育てをし、環境作りをしていることがわかった。その共通項や特色などを13項目ピックアップする。

1・親がきっかけを作る
 子どもがその競技を選んだのは、親の趣味が多分に反映されていた。どの親もその競技に学生時代に親しんでいたか、大人になってから趣味として始めている。
 考えてみれば当たり前の話である。父や母が楽しそうにしていれば、子どもにそれが楽しいものとして伝わる。多くの親は遊びの中でさまざまなスポーツをやらせているが、親が好きな競技であれば、自然と遊びも真剣になるため、子どもの上達も早くなる。そしてどの親もトップアスリートに育てようとは思っておらず、純粋に一緒にスポーツを楽しんでいる。

2・繰り返し練習を怠らない
 子どもたちは飽きっぽい。しかし上達するには繰り返し練習が必要。どの親も、子どもが飽きたと感じたら無理じいせず、違う遊びを取り入れて気分転換させ、また練習に向き合わせている。
 子どもが夢中になって同じことを繰り返していると、親はつい「いつまで同じことをやっているの」と注意しがちだが、トップアスリートの親はむしろ同じことを繰り返す子どもを褒めていた。

3・褒め上手
 ちょっとでも変化があれば「上手くなったね」「凄いね」と声をかけている。親が褒めれば自己肯定感が生まれ、自分に自信がつく。これがやる気の源にもなる。

4・常に考えさせる言葉がけ
 親はむやみに指示せず、「あなたはどうしたいの」と常に考えさせる癖をつけていた。もし、テストや試合に失敗しても「ダメね」と否定せず、なぜそんな結果になったか、どうしてそういう判断をしたかを穏やかに問う。その結果、自主性や主体性が生まれ、責任感も芽生える。
 子どもが決めかねているときは「ママはこう思うけど、あなたはどう?」と問いかける。「僕もそう思う」と考えた時点で、主体性は芽生える。

5・否定語は使わない
「教えたことがなぜできない」「お前には無理」というような言葉は、どの親も見事に発していなかった。子どもが「オリンピック選手になりたい」というと、親はつい「そんな夢みたいなことを言っていないで、勉強しなさい」と言いがちだが、どの親も「すごいね。楽しいね」と子どもの夢を否定しない。
 ただ、約束を破ったり、ふてくされた態度を示した時は、否定することなくなぜそうしたかを問う。

6・目標設定に無理がない
 親がいきなり「オリンピックを目指そう」とか「プロ野球選手になれ」というと、子どもは「無理」「人前で恥をかいてしまうのではないか」との不安やプレッシャーで、競技から離れてしまう。その一方、目標設定が低いと、こんなものでいいと妥協が生まれる。
 親たちは、こういう練習をすればこうなると、その時々の子どもの状況をよく観察して、常にその半歩先の目標を立てていた。

7・怒るのではなく叱る
「自分の感情のまま子どもに言うのは怒る、子どもの立場に立って注意するのは叱る」。どの親も、子どもに小言を言わなければならないとき、自分が子どもの立場に立っているかどうか、一呼吸を置いてから言葉を投げていた。

8・天狗の鼻を折る
 子どもが早くから活躍し始めると、まわりから称賛の言葉が届く。子どもは天狗になってしまいがちだが、そうなる前に、トップアスリートの親は必ずといっていいほど天狗にならないよう子どもをたしなめていた。低いレベルで満足してしまうと、その後の成長につながらず、傲慢な人間になる心配もあるからだ。そのため、どの家庭のリビングにもトロフィー類などは一切飾られておらず、優勝しても終わったことは過去として捉え、次の試合に目を向けさせている。

9・家族の時間が多い
 私がこれまで取材したかたは共稼ぎ家庭がほとんどだった。休日は子どもが主体。そのため、両親に休みはなく、家族旅行に行ったことがある家庭も少なかった。その分、子どもの試合の遠征には家族全員で出かけ、それを家族旅行代わりに楽しんでいた。

10・親も一緒に汗を流す
 親が口先だけで指導しても子どもはついてこない。「なぜ自分だけこんな辛いことをしなければならないのか」と疑問をもつからだ。子どもに疑問が生まれると拒否反応が起こり、親のアドバイスがすんなり耳に届かなくなる。そのためどの親も、子ども以上に汗を流していた。親が汗を流す姿を見て、子どももがんばろうと思うようになる。
 親と子が同じことをすれば、アドバイスするタイミングがわかりやすい。その言葉が的を射ていたことから、子どもは自分でより良い判断を重ねられるようになり、その結果、短期間にトップアスリートに上り詰めた。

11・立派な社会人に
 どの親も最初からトップアスリートに育てるつもりはまるでなく、その競技を通してちゃんとした社会人になって欲しいと願っていた。社会人としてのマナーや常識、他人との関わりを学ぶ手段としてスポーツの場を選んだ。

12・「見る」「観る」ではなく、「看る」
 親は仕事があり、常に子どもと一緒に過ごすことができないが、それでも限られた時間の中で濃密な時を過ごしている。子どもの成長をチェックするにしても、ただ子どもの動作を眺める「見る」、さらにはじっと観察する「観る」ではなく、肌をふれあわせながら手当をするような思いで「看て」いた。

13・誰よりも親自身が楽しむ
 どの親も、子育てと仕事の両立に悩みながらも、時間をやり繰りし子どもと接する時間を多く取っていた。仕事を終えれば真っ直ぐ帰宅。会社の飲み会、仲間との付き合いより、子どもと過ごす時間を選んでいる。桐生祥秀の父は公休を半日ずつ取るなど、知恵を絞りながら子どもといる時間を増やした。
 共稼ぎ家庭であっても、時間のやりくり次第で子育ての時間を増やせることを彼らは証明している。そして今、誰もが同じことを口にする。
「今思えば、成長した息子(娘)の活躍以上に、子育ての時間そのものが楽しかった」

(文=吉井妙子)

<こどもちゃれんじ>編集部が解説!

“伸びる”子育てポイント

 トップアスリートを育て上げた親御さんに共通する13項目、とても興味深いですね。親が子どもと濃密な時間を共有し、しっかりと「看て」、適切な目標設定をして、褒め、励まし、時に叱り、たしなめる。私たち<こどもちゃれんじ>編集部も、毎日忙しい中でも親子が一緒に楽しく取り組めて、親子の遊びを通じてお子さまが夢中になれる、そんな教材づくりを心がけています。
 短い時間でも、できるだけ質の高い濃密な体験ができるように、お子さまの「できた!」「やりたい!」を引きだす適切な声がけや、ちょうど良い目標の立て方、関わり方のアドバイスなど、おうちのかたに役立つ情報も毎月お届けしています。

プロフィール


吉井妙子

スポーツジャーナリスト。宮城県出身。朝日新聞社に勤務した後、1991年に独立。同年ミズノスポーツライター賞受賞。アスリート中心に取材活動を展開し2003年「天才は親が作る」、2016年「天才を作る親たちのルール」など著書多数。