横並びの子育てをしない強さ 萩野公介選手

 リオ五輪競泳の個人メドレー400mで金、同200mで銀、フリーリレーで銅を獲得した日本競泳界のエース・萩野公介は、4泳法をこなす日本では稀なオールラウンダー。五輪で金23個を含む28個のメダルを獲得した米国の怪物マイケル・フェルプスに似ていることから、“和製フェルプス”と呼ばれている。

 そんな“怪物”はどうやって誕生したのか。
 栃木県小山市に住む父・洋一さんが首を傾げる。
「僕も妻も運動はしていなかったので遺伝的な要素はゼロ。親が一番びっくりしています」
 設計士の父は東京勤務だが、満員電車に乗るのが嫌で、公介が生まれる前に縁もゆかりもない小山市に居を構えた。子どもの将来のために環境のいい場所を求めたのではなく、二人のライフスタイルを優先してのこと。7年後に公介が誕生。夫妻のゆとりを求める価値観は、子育てにも生きた。

 母・貴子さんは公介を妊娠すると、未来のママ友を求めマタニティースイミングに通う。出産後は、公介の友だちづくりのため母と子のベビースイミングに出向いた。公介は初めから水を怖がらない子だった。母が言う。

「2歳になったばかりの頃、誰も教えていないのに犬かきのようにして泳ぎ切った。その時、この子水泳に向いているかもと思った」
 だが母はそれ以上に、3歳になっても「トト(お父さん)」と「カカ(お母さん)」しか喋らないのが気がかりだった。保健所から家庭に問題があるのではと調査しにきたほどだ。心配する母をよそに、父は平然としていた。
「だって表情がとても豊かでしたから。自分の意思を言葉ではなく、体や行動で十分すぎるほど示していました」

 横並びの子育てをしない強さが両親にはあった。二人は真っ白な状態で息子を育てようと、公介の興味をもったことは何でもやらせた。スポーツだけでなくピアノ、英語、学習塾…。

 幼稚園は近所にある英才教育を謳うところではなく、車で15分ほどの自由な教育を実践している園を選んだ。父が言う。
「とにかく息子は枠にはめられるのが嫌いで、何かやりなさいと言われると反対のことをやる性格。もし何か公介が間違った方向に行こうとしたら、公介を納得させた上でその行動を止めさせる。“お巡りさんに怒られるから止めなさい”という、あの方式だけは絶対やらないようにしました」

 幼稚園の時に“選手育成コース”に入らないか、と勧められた。だが、選手コースは毎日通わなければならず、他の遊びや稽古は出来ない。母が公介に問うと、即座に「やりたい」と告げた。母が述懐する。
「この時に、私の時間はすべてこの子に与えようと決めました」

 以来10年以上、母は毎日往復4時間かけてプールまで送り迎えを続け、遠路帰宅した父は息子の水着の洗濯係を務めた。それが萩野家の日常風景。水泳と勉強に集中できる環境を与えられた息子は、学校の成績も常にトップクラスだった。

 公介が20歳になったとき、「親には絶対言えないけど」とこう打ち明けられたことがある。
「僕は両親を世界一誇りに思っています」

(文=吉井妙子)

<こどもちゃれんじ>編集部が解説!

“伸びる”子育てポイント

 萩野選手のお父さまの「もし間違った方向に行こうとしたら、本人を納得させた上でその行動を止めさせる。“お巡りさんに怒られるから止めなさい”という、あの方式だけは絶対やらないようにしました」という言葉、とても考えさせられますね。
「●●しなさい」と親が子に言う声がけは逆効果で、子どものやる気を失わせるという研究結果もあります。お子さまが納得するまでおうちのかたが一生懸命話して聞かせることは非常に大切です。
 とはいえ、片付けや食事、歯磨き、お出かけの際に「早く!」「●●しなさい!」と怒ってしまうことは多いかと思います。
〈こどもちゃれんじ〉では、お子さまが自ら進んで生活習慣や学びに取りくめるように“遊びの中で学ぶ”体験をお届け。
 成長の土台となるのは、自分からやりたいという気持ち。そんな気持ちが自然に生まれるように、お子さまの発達にあわせて興味ややる気を引き出します!

プロフィール

吉井妙子

吉井妙子

スポーツジャーナリスト。宮城県出身。朝日新聞社に勤務した後、1991年に独立。同年ミズノスポーツライター賞受賞。アスリート中心に取材活動を展開し2003年「天才は親が作る」、2016年「天才を作る親たちのルール」など著書多数。

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