2021/03/24

【学び場ラボ】ワークショップ そのルールってなんであるの? 世の中の仕組みをうたがってみよう ワークショップ大人編

現役教員をはじめとした教育実践者たちが挑戦する、新しい「学びの場」づくり。
こだわりは、話だけでは終わらせず、「模擬授業」など、実験的なアウトプットから議論をすること。あなたも、この実験に参加しませんか?
2021.03.24 update
「なぜ学校に行くのか」「なぜ大人は働くのか」、その理由を考えたことはあるだろうか?今回、学び場ラボでは、大人が学校や社会の中で当たり前と思っているルールの枠組みを外して、「自分たちでルールをつくる」という考えることの大切さを、子どもの豊かな発想から学び、感じてもらうためのワークショップをオンラインで実施した。

1.ルールは、なぜ必要なのか?を考える

 合同会社G-experienceの代表である松浦真さんは、秋田で「ハイブリッドスクーリング(年間30日以上、学校に通わずに家庭学習や地域学習で学ぶ、学を校と学校外の学びを組み合わせた教育方法)」という新しい教育方法を実践するほか、全国各地でまちづくり体験型ワークショップ「こどものまち」「ミニフューチャーシティ」の企画・運営している。子ども向けワークショップを実施して感じたのは「子どもの考えの豊かさや柔軟さ」だったという。コロナ禍で、これまでのルールが通用しなくなっている社会において、より柔軟に豊かに生きていくための考え方を大人にも学んでほしいと考え、今回「学び場ラボ」でワークショップを実施した。教員に加え、社会人や学生、約20人が参加した。
 ワークショップでは、まず「逆さまじゃんけん」を行った。これは、後出しじゃんけんの要領で、先に出された手に負ける手を出すと勝ちになるというじゃんけんだ。
 松浦さんが先出し役となり、参加者は合図の後に松浦さんに負ける手を出すことを数回行ったが、通常とは逆のルールで行うじゃんけんに、多くの参加者が戸惑う様子を見せた。
 「このようにルールを変えると、おもしろいことが起きます」と、松浦さんは、続いて、100年以上前の馬車が走る街並みと自動車が走る街並みの2つの写真を並べた。そして、その変化はわずか十数年で起きたことであると説明。社会のルールが時代とともに大きく変化していることを全体で共有した。
 そのように、社会におけるルールのあり方に目を向けさせてから、「学校は、何のためにあるのか?」と、松浦さんは参加者に問いかけた。
 すると、「友だちに会いに行く場所」「人とのコミュニケーションを学ぶため」「協働を学ぶ」「一定水準の社会人を育むため」などの意見が、Zoomのチャット欄に書き込まれた。
 松浦さんは、同じ質問に対する子どもの回答には、「勉強するため」「友だちと遊ぶため」「給食を食べるため」「将来に必要な知識を学ぶため」という意見のほか、もっと挙げてみてくださいと問いかけたところ、「親の負担を減らすため」「親が会社に行くため」といった大人の視点で学校の存在を捉えたものも挙がったと説明。
 「私は、周りにあるルールがなぜあるのか、意識して考えるようにしています。それは、私が始めた架空のまちで子どもが職業体験をする『こどものまち』のプログラムで、自分たちでルールを創造する子どもたちの様子を見たことがきっかけです」と、松浦さんは、東京や大阪で実施したワークショップの映像や写真を見せながら、概要を説明した。

「こどものまち」の活動概要

1979年にドイツでスタートした「ミニ・ミュンヘン」をモデルに、2007年、松浦さんが企画して始めた、架空のまちづくりのワークショップ。子どもは、架空のまちで「コックさん」「運転手」「花屋さん」「デザイナー」「新聞記者」「教員」などの職業に就いて毎日を過ごす。そこで転職することも可能。子どもは、仕事を通して自分を表現し、働く意味を考え、まちに必要なルールを学んでいく。現在は、この「こどものまち」にICTを取り入れ、仮想の電子通貨で給料を得て、買い物をするという一連の経済活動を通じて、働くことの意味を考える「ミニフューチャーシティ」を開催している。

2.子どもの発想から大人も学ぼう

 松浦さんは、「こどものまち」でのルールづくりに関するエピソードを紹介した。
 市長となった小学6年生の女の子が、働く人たちにも幸せになってもらいたいと考え、給料を2倍にしたところ、銀行のお金がなくなり、給料を払えない事態が起こったという。
 「この事態に、皆さんならどう対応しますか?」と、松浦さんが問いかけると、チャット欄には、「すべての買い物を物々交換にする」「お金を半分に破く」「電子マネーを発行する」「新しい種類の貨幣を発行する」といった意見が書き込まれた。
 実際に、子どもたちはその問題をどう解決したのか。
 「市長は、財政を立て直すための寄付を市民に呼びかけましたが、誰も応じませんでした。その様子を見ていた小学3年生の男の子が、各店舗の前を掃除し始め、『お店の前がきれいになったと思ったら、その気持ちでいくらかお金を銀行に寄付してほしい』と言いました。すると、あっという間に寄付が集まったのです」(松浦さん)
 お金がなくなる事態が起こってから問題が解決するまで、わずか40分程度だったという。
 「『こどものまち』では、子どもが問題の解決策を考えることを重視し、大人は黙って見守ります。つまり、子ども自身が環境を改善するために、自分たちでルールを変えたのです。そのように、自分でルールを決めたり、見直したりすれば、世の中はもっとよくなるのではないかと思います」(松浦さん)
 「新型コロナウイルス感染症の影響で、社会がこれからどのように変化するかはわかりません。そうした今こそ、新しいルールを試してみるチャンスではないでしょうか」と松浦さん。新しいルールづくりを体験してもらおうと、参加者を5つのブレイクアウトルームに振り分け、「自分が『そもそも』考えてみたいこと」「ルールを変えてみたいこと」を語り合った。
 そして、松浦さんは次のように語った。
 「大人も子どももルールをつくったり、変えたりする経験はあまりないかもしれません。変えてみたいと思っても、実際には難しいと感じているでしょう。そうしたもやもやした気持ちに、これからも向き合ってほしいと思います」(松浦さん)

3.子どもも、社会の構成員の1人

 ワークショップ終了後、東京都小金井市立前原小学校の蓑手章吾先生の司会で、松浦さんと参加者によるディスカッションが行われた。
 「まちづくりからルールのあり方を考える『こどものまち』のワークショップは、非常に興味深かったです」という蓑手先生は、「子どもがルールづくりを体験する機会は、なぜ少ないのでしょうか」と疑問を投げかけた。すると、参加者からは、次のような意見が挙がった。
「先生が子どもをコントロールしにくくなるから」
「子どもはルールがつくれないという大人の固定観念がある」
「ルールを変えるという意識が、教員にはほとんどない」
「子どもは評価される側で『評価する』側ではないから」
 松浦さんは、『子どもの参画』の著者、ロジャー・ハートの「子どもは、社会の構成員として、市民として、大人のパートナーとして、地域づくりに主体的に参画する能力がある」という考えに触れた上で次のように述べた。
 「多くの大人が、子どもは社会的に能力のない存在とみなしがちですが、『こどものまち』では、子どもの発想の豊かさにいつも驚かされます。大人が子どもの持つ能力を認めれば、子どもはさらによい考えを持つようになりますが、現状ではそういった機会が少ないのではないでしょうか」(松浦さん)
 また、松浦さんは、子どもの頃は、鬼ごっこなどの遊びで独自のルールをつくるという経験をするが、大人になるにつれてルールを変えるのが難しいと感じてしまう現状があるとし、それを打開するのはどうしたらよいかという点に焦点が当てられ、議論は進んだ。
 「ルールは、公平性を担保しなければならないと考えがちですが、例えば、学校教育においても、教員や子どもが自由にルールを決めてよいと思います。子どもが学校や教員を自由に選んだり、教員が独自のルールを決めて、それに合う子どもを選べたりすることができたらいいですね。実際に、自宅で授業を受けられる通信制高校を選ぶ中学生や、私が実践しているハイブリッドスクーリングに関心を持つ人は増えています」(松浦さん)
 蓑手先生は、その松浦さんの考えに賛同し、次のように述べた。
 「クラスの中心となる構成員は、児童や生徒ですから、そのルールは児童・生徒自身が決めた方が、よいものになるはずです。私が担任を務めるクラスでは、掃除当番や給食当番などを決めず、係の仕事は子どもが主体的に務めています」(蓑手先生)
 そう蓑手先生が考えるのは、尊敬する教員から学んだ「きまりは、発展的に解消されるべきもの」という考えがあるという。 
 そして、蓑手先生は「学校には、誰が決めたのかわからないルールもあります。違和感を抱きながらもそれを守っている状況を変えるべきではないでしょうか」と思いを口にした。
 松浦さんは、蓑手先生のそうした考えに賛同しつつも、「ルールがあることで救われる先生や子どもがいます」と語った。
「子どもも大人も、自分が自由を求めることで相手を傷つけていないかをよく考えた上で、ルールをつくる必要があり、つくった後も見直していくべきでしょう。そのように、ルールは上書きも修正も可能だと捉えられるようになると、より豊かなルールになるはずです。社会でも学校でも、何事も当たり前だと思わず、まず疑問を持ち、よりよい状態にするためにはどうしたらよいかをみんなが考えれば、社会や学校はもっとよくなるのではないでしょうか」(松浦さん)

プロフィール

松浦 真 まつうら まこと

2007年にNPO法人cobonを設立し、関西、ジャカルタを中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2万人を超える子どもたちに教育プログラムを届ける。 2016年4月に2人の子どもと共に家族で秋田県五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立。学校と学校外の学びを組み合わせ、子どもたち一人ひとりに個別最適化した学び方を行う、ハイブリッドスクーリング事業を行う。2020年4月より、五城目町議会議員。

蓑手 章吾 みのて しょうご

教員14年目。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、学習心理学に関心を持ち、教鞭を執る傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。ICT活用についても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。現任校ではICTプロジェクト主任も務める。
多種多様なセミナーや研修会、文献などからも学力向上についても理解を深めている。セミナー登壇経験多数。共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。教育雑誌『授業力&学級経営力』(明治図書出版)では、プログラミング教育に関する連載を持っている。近著に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)がある。