2020/08/27

【学び場ラボ】高校生が考える持続可能な未来 〜実践活動と若者の視点から学ぶワークショップ〜 SDGs×生徒会活動

現役教員をはじめとした教育実践者たちが挑戦する、新しい「学びの場」づくり。
こだわりは、話だけでは終わらせず、「模擬授業」など、実験的なアウトプットから議論をすること。あなたも、この実験に参加しませんか?
2020.08.27 update
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、「誰一人取り残さない」という理念のもと、2030年までに持続可能でよりよい世界の実現を目指す国際目標であり、2015年9月に国連サミットで採択された。その目標を達成するためには、大人だけでなく、未来を支える子どもも当事者意識を持って行動する必要がある。そうした意識を子どもが持つためには、学校でどのような教育を行うべきだろうか。今回、現役高校生の菊池隆聖さんが、自身の高校での生徒会活動や留学経験を生かし、教育関係者にSDGs教育を提案するワークショップを行った。

1.子どもたちにSDGs教育を!

 菊池さんの通う東京都・私立武蔵野大学附属千代田高等学院は、国連グローバル・コンパクト(*)の正会員で、国際バカロレア(IB)ディプロマプログラムの認定校である。同校では、教育活動にSDGsの視点を取り入れるだけでなく、生徒がSDGsに関する取り組みを自発的に展開している。そうした活動を牽引してきたのが、2019年度に生徒会長を務めた菊池隆聖さんだ。
 「中学3年生頃からSDGsに関心を持ち、新聞やインターネットで関連するニュースを調べていました。高校入学後、学校がSDGsに取り組んでいるのを知り、自分も何かできないかと考えました。そこで、1年次から生徒会に所属し、2年次は生徒会長として、生徒会でもSDGsに取り組むことにしました」
 菊池さんは、文化祭や体育祭など、様々な学校行事や日常の活動をSDGsと結びつけ、生徒へのSDGsの浸透と理解促進を行ってきた。今回、菊池さんが「学び場ラボ」のワークショップをしようと思った理由は、自身が教員志望で、将来、SDGsに関する授業を子どもに行いたいと考えていたからだ。
 ワークショップは「Zoom」を用いてオンラインで行われ、全国から教員や社会人、高校生、約20人が参加した。
*貧困や人権、環境などの地球規模の諸課題に対して、17の持続可能な開発目を掲げ、企業や教育機関などが連携して行動を起こす取り組みのこと。

2.北欧留学で学んだ環境問題のアプローチを日本で生かす

■ワークショップ概要

(1)SDGsとは?
(2)事例から学ぶSDGs
(3)ワークショップ①
  「『ゴミ=資源』という考えを使って、明日からできることを考えよう!」
(4)SDGsアプローチ方法
(5)事例紹介
(6)ワークショップ②
  「もし生徒会活動の一員であれば、あなたは学校でどのような取り組みをしますか?」
(7)質疑応答
 まず、菊池さんは、参加者にSDGsの概要を説明し、日本における目標の達成状況を伝えた。2020年6月に公開されたSDGsの達成度・進捗状況に関する国際レポート(Sustainable Development Report 2020)によれば、日本の達成度は166か国中17位。目標別に達成度を見ると、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標16「平和と公正をすべての人に」は、世界のトップレベルであると説明した。
 一方、課題は、二酸化炭素排出量が日本は世界で5番目に多いことであり、国土面積や人口から考えると、それを改善すべきではないかと、菊池さんは参加者に問いかけた。
 「日本は、教育やインフラが整備されており、とても住みやすい国です。しかし、二酸化炭素の排出量や食品ロスなどの問題も抱えています。私たち人間だけでなく、生物にとっても住みやすく、住み続けられる国であるかと問いかけた時に、日本はもっと取り組めることがあるのではないかと考えました」(菊池さん)
 今回のワークショップでは、「SDGsの目標の中でも、環境問題をテーマにしたい」と、菊池さんは話した。その理由として、SDGsピラミッド(SDGsケーキ)という概念を紹介。
 SDGs 17のゴールは相互に関わっており、特にピラミッドの土台となる環境の持続可能性がなければ、社会や経済の持続的な発展は成り立たないと述べ、まず環境問題に関して具体的な取り組みを促進することが大切だと説明した。
 次に、菊池さんは、自身が高校2年次にSDGs目標達成率ランキング1位のスウェーデンに留学した経験から、同国の環境問題に関する実践から学んだことを、写真を交えて紹介した。スウェーデンでは、ゴミを資源として活用する意識が市民に根付いており、ゴミは100種類以上に分別しているという。食品廃棄物などの有機ゴミを発酵させてバイオガスを生成し、それを公共バスの燃料として活用しているという事例を説明した。
 その説明をしている最中、「Zoom」のチャット欄に菊池さんへの質問が書き込まれた。その中の一つに、「100種類以上のゴミ分別は、面倒だと思われていないのですか?」という質問があった。
 「スウェーデンでは、幼い頃から環境教育が行われており、子どもは楽しみながらゴミ分別する大切さを理解していました。また、私と同世代の若者にゴミの分別について質問すると、『分別するのが普通で、特別なことではない』という声が多く聞かれました。日常的に環境への取り組みを行うことが重要だと分かり、その視点を生徒会活動でも大事にしています」(菊池さん)

ワークショップ①

 スウェーデンの事例を踏まえ、「『ゴミ=資源』という考えを使って、明日からできることを考えて見よう!」というテーマでワークショップを行った。東京都小金井市立前原小学校の蓑手章吾先生もワークショップのファシリテーターとして参加した。参加者の意見は、複数人の考えや意見を付箋に書いて編集できる「Jamboard」を用いて、すぐに共有した。
ワークショップ①で共有された結果
 参加者からは、次のような意見が挙がった。
「紙ストローを使う」
「着なくなった洋服を、フリーマーケットなどを利用してリサイクルする」
「制服のリサイクルをする」
「紙の裏を利用する」
「校内で使用した紙を再生したり、オンライン化したりできると良いと思う」
「校内でマイボトルに飲料を補充できる装置を設置する」
「使い捨て電池をなくす」
 菊池さんの学校では、参加者の意見にもあった「制服リサイクル」「プリントのデータ化」といった活動に既に取り組んでおり、それらの活動内容についても紹介した。
 その後、菊池さんは、SDGsを子どもに自分たちの問題として取り組んでもらうために、以下の3つを提案した。

① 興味や探究心を生かす

 社会課題や難しい事柄に対して、最初から主体的に取り組むのは難しいので、子どもが自分の好きなことや身の回りのことからSDGsに取り組むことが大切。

② 難しく考えない

 SDGsや国際目標という難しい言葉が、子どもの興味を失わせているとし、大きな目標を達成するためには、まず小さなことから始められることを伝える必要がある。

③ 価値観を押しつけず認め合う

 SDGsは2030年を見据えた活動のため、今と未来のつながりを大切にし、次に生まれた世代のために取り組む必要があるという視点を持たせる必要がある。
 その3つの提案を踏まえ、菊池さんは、実際に自身の高校で行った実践活動を紹介した。その一つが、学園祭の取り組みだ。文化祭で出展する模擬店の活動をSDGsと結びつけ、例えば、目標5のジェンダー問題に関する掲示物を行うカフェを開いた。
 そのほかにも、金属の再利用を目的に、不要な小型家電を集めてリサイクルし、東京オリンピックのメダルにする取り組みを、武蔵野大学と連携して実施。3トンの小型家電を回収し、メダル10個分の金属を回収できたという。

3.無意識にSDGsに貢献できるような基盤づくりをしたい

 次に、「もし生徒会の一員であれば、あなたは学校でどのような取り組みをしますか?」をテーマとして、「Zoom」のブレイクアウトルームの機能を用い、4〜5人のグループに分かれ、10分間でテーマについて意見を出し合った。各チームからは、次のような意見が挙がった。
「合唱コンクールでSDGsに関連するような歌を合唱する」
「委員会とSDGsを関連させる」
「SDGs川柳大会をする」
「他国の生徒とオンライン交流をする」
「学校の屋上で太陽光発電を行い、ナイター用の照明に活用。夜間のグラウンドを地域の人にも開放する。また、余剰電力があればそれを売り、募金すれば良いと思う」
ワークショップ②で共有された結果
 ファシリテーターの蓑手先生は、参加者の意見の中にあった「他国の生徒と交流」という意見に賛同。「日本に住んでいると、今の感覚や考えを変えるのは難しいですが、スウェーデンの子どもたちに『ゴミは100種類以上に分別するのが当然』と言われたら、日本の子どもたちはどのように感じるのかなと思いました」と話した。
 参加者は現役教員が多かったため、児童・生徒が楽しくSDGsを学べるよう、行事に取り入れたいという意見が多く挙がった。今回のワークショップでは、多くの参加者がSDGsについての取り組みを学校などで実践したいと考えているが、実際には管理職の理解や費用などの面から実現できていないことが多くうかがえた。

4.日本の強みである教育を活用し、SDGsの目標達成を目指す

 ワークショップ後は、蓑手先生の司会により、質疑応答が行われた。ワークショップ中に「Zoom」のチャット欄に書き込まれた質問に菊池さんが回答するという形式で進行した。
 「菊池さんの活動によって、周囲の生徒は変容していきましたか?」という質問に、菊池さんは次のように答えた。
 「周囲への影響には差があり、積極的に一緒に取り組んでくれる生徒もいれば、そうでない生徒もいました。ただ、自分が活動の基盤をつくることで、スウェーデンのように、SDGsに興味のない人でも無意識にSDGsに貢献できるようにしたいと考えています」
 高校生の参加者からは、「今日、多くの先生が学校でSDGsに取り組もうと考えていることを知り感動しました。私も生徒会役員ですが、自分はSDGsについて関われることは少ないと思っていましたが、できることから始めてみたいです」という声が寄せられた。
 菊池さんは、その高校生に次のようにエールを送った。
 「自分も生徒会1年目は庶務係で、事務作業ばかりでした。それをきちんとしながら、自分のやりたいことを発信し続けて、少しずつ実現してきました。新しい活動を立ち上げるのは大変ですが、だからこそ感じられるやりがいもあるので、ぜひ頑張ってほしいです」
 最後に、菊池さんは、参加者に次のような投げかけをした。
 「日本では、誰もが教育を受けられる教育環境があり、目標4の達成度は世界的に見ても非常に高いです。そうした日本の武器である教育を有効活用しながら、SDGs活動を発展させていくべきだと考えています。そうすれば、17位という全体ランキングも上がると思います。皆さんにも、そのためにもどのような教育を行っていくべきか、ぜひ考えてほしいと思います」

プロフィール

菊池 隆聖 きくち りゅうせい

武蔵野大学附属千代田高等学院 高校3年生、元生徒会長。高校3年間、学生を中心としてSDGsの推進活動を行い、学生プロジェクト Doers 設立者・アドバイザー、Sustainable Hoppers 設立・管理者を務めた。イベント開催や登壇などを通して、子どもたちへSDGs・社会課題の理解を促す。また生徒会活動への促進を図るため、日本生徒会代表者会議 設立・共同代表、第11期多摩生徒会協議会、副代表生徒シンポジウム2020 副代表を務める。

蓑手 章吾 みのて しょうご

教員14年目。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、学習心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通う。特別支援2種免許を所有。ICT活用に関しても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。現任校ではICTプロジェクト主任も務める。
現在「教育の鉄人」こと杉渕鉄良氏主宰のユニット授業研究会に所属。その他、多種多様なセミナーや研修会、文献などからも学力向上について理解を深めている。 セミナー登壇経験多数。共著に『全員参加の全力教室2』『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』などがある。
https://ict-enews.net/2017/10/27maehara-2/
https://edtechzine.jp/article/detail/1420