2017/06/01
【 多様な学びを促す学校の“場”づくり】第3回 学年間の交流から学びを促す場づくり
前回の記事では教室や学年単位の視点でさまざまな事例をみていきましたが、今回は学年を超えた学校全体での多様な学びを促す"場"づくりについてご紹介していきます。
今回の取材でも、学校という"場"ならではの工夫が多くみられました。たとえば、異学年の縦割り活動をすることで、上級生には一層の自覚が生まれ、下級生たちには上級生たちに対する憧れの気持ちが芽生えます。そして、協働による自信や成長実感が、子どもたちを更なる学びへと向かわせていきます。これこそが学校という場に集い、学ぶ意義ではないでしょうか。
今回の取材でも、学校という"場"ならではの工夫が多くみられました。たとえば、異学年の縦割り活動をすることで、上級生には一層の自覚が生まれ、下級生たちには上級生たちに対する憧れの気持ちが芽生えます。そして、協働による自信や成長実感が、子どもたちを更なる学びへと向かわせていきます。これこそが学校という場に集い、学ぶ意義ではないでしょうか。
BERD編集長 石坂 貴明
「学年」は、学校において重要な一単位だ。年齢や発達段階が近しい「同学年」内での交流は、特別な仕掛けがなくとも進むことが多い。しかし社会に出れば、年齢や世代の違う者同士が意見を交わし合い、協力し合う方がむしろ自然であり、子ども時代であっても年齢の異なる友人から学ぶことは多い。第3回は、学校内の「異学年交流」に関する取り組みと、異学年交流を推進する"場"について紹介する。
集合のしやすさは、集合する機会を増やす
そもそも、異学年で集まるのはどのようなときなのだろう。取材で訪れた東海村立照沼小学校(以下照沼小)の事例を、まず紹介したい。照沼小は、全校児童90人(2016年度時点)の小規模校。2013年に竣工した現在の新校舎は、1階部分に各学年1クラスの教室が配置されている。照沼小で6年生のクラス担任を受け持つ大村一貴先生は、「6年生が全学年のなかで最も人数が多くて、18人います。授業中にみんなで話し合いしたいときには、机を教室の後ろに寄せて、みんなで話し合いをするんです。」と話す。
照沼小は、各教室の前のオープンスペースがゆったりととられている
照沼小では各教室の前にオープンスペースが用意されているが、教室の広さに対して児童数が少ないため、クラス内の話し合いやグループ活動は、オープンスペースを使わずに教室でできる。オープンスペースは、むしろ学年を超えた話し合いをするときなどに活用していると大村先生は話す。「たとえば、高学年の5・6年生合同で何かをやるときに、オープンスペースに集まって、そこで話し合いをするというのはよくやります。」陸上記録会、遠足、宿泊学習の話し合いは5・6年生でするため、オープンスペースが活用されるそうだ。
白方小のランチルーム。
手前に見えるのが、児童が集まることのできる階段スペース。ぱっと集まり、ぱっと解散できるので便利
手前に見えるのが、児童が集まることのできる階段スペース。ぱっと集まり、ぱっと解散できるので便利
東海村の別地区にある、東海村立白方小学校(以下白方小)には、ランチルームに巨大な階段が設置されている。普段は図書室など他の教室への移動通路として使われているこの階段は、児童が座りやすいように設計されており、児童を集合させる場所としてちょうどいい。実際にこれまでも、星座観測の説明会や講師を招いた講演会を、この階段スペースで実施してきたという。
「(階段スペースは)ぱっと来て、ぱっと活動をして、ぱっと引き上げられる。先生方が求めている時間の使い方にぴったりですね。100人ぐらいの児童が、わずかな時間で座って講義やプレゼンを聞く、というのが素早くできるので、とても便利です。」と、同校の吉沼充校長は言う。
学年を超えて、児童が出会う場、遊ぶ場、集う場
京都御池中の図書室(上)と、
白方小のスクールプラザ(下)。
どちらも、異学年が集まって交流する場としての機能を持つ
白方小のスクールプラザ(下)。
どちらも、異学年が集まって交流する場としての機能を持つ
特に小学校では、休み時間や放課後などの「自由時間」に、遊びや活動を通して異学年交流が進む場合がある。
京都市立京都御池中学校(以下京都御池中)は、小中一貫教育校であり、市内の高倉小学校、御所南小学校の6年生が京都御池中に通っている。そのため、同校の図書室は中学生だけでなく、小学生も利用する。こうした背景も考慮して、本棚のスペースに比べて閲覧スペースを広くしたり、リラックスできる畳スペースを作ったり、漫画も置くなどして、「楽しい図書館」づくりを意識しているという。
白方小の中庭スペースも、交流の場だ。「スクールプラザ」と呼ばれるこの場所は、休み時間に一輪車で遊ぶ子どもたちのために開放されている。白方小は、児童数が比較的多く、さらに通常教室は学年ごとのユニットに分かれた作りになっているため、学年を超える交流を促すには意図的な「仕掛け」が必要だ。実際に、吉沼校長が同校に就任した際にも、学年を超えたつながりが乏しく、課題があると感じたという。「卒業生を送る会に参加している児童が、ほんとうに『6年生のみなさん、ありがとう』と思えているのかと疑問を持ちました。登下校は一緒でも、縦割りでの活動が機能している時間は少ない。日常的な活動で年間通してそうした時間を作っていかないと、他学年の子に感謝したり労ったりする気持ちは育っていかないだろう」と考えたと、吉沼校長は言う。
西南学院小のアトリウムは、同校の「大きな家」というコンセプトを体現している。休み時間には、子どもたちがアトリウムに出て遊ぶ
こうした背景があり、学校の施設を活用して異学年交流が活性化するような仕掛けをしていると、同校の塙次男教頭は話す。「この学校は、中庭やオープンスペース、ランチルームが交流の場になっており、学年間の交流を深めることができます。そのうえで縦割りの交流を深めていく、学校全体の交流を深めていくということにも、段階的に取り組んでいます。」
西南学院小学校(以下西南学院小)には、児童が集うことのできる校内スペースがある。西南学院小の校舎のコンセプトは「大きな家」。校舎の中央には、「アトリウム」と呼ばれる広いホールスペースと、図書館・チャペル双方へつながる広い階段通路があり、天井からは自然光が入る。この空間で、休み時間中に子どもたちが遊ぶ姿が見られるという。
給食を食べながら、異学年コミュニケーション
西南学院小のランチルーム(上)と給食風景(下)。
広いランチルームに、3学年が会して給食を食べる。
上の学年は下の学年の面倒を見る
広いランチルームに、3学年が会して給食を食べる。
上の学年は下の学年の面倒を見る
今回取材した3校の小学校は、どの学校も大きなランチルームを配置し、児童たちがそこで給食を食べることができるようになっているのが印象的だった。なかでも、西南学院小は「みんなで食べる給食」を食育や異学年交流の時間とし、重要なカリキュラムのひとつに位置付けている。西南学院小では、低学年(1・2年生)は教室ではなくランチルームで給食を食べ、それ以外の学年は月ごとに交代でランチルームで給食を食べる。常に異なる3学年の児童がランチルームに集うことになるが、このとき、2年生は1年生の面倒を見て、上の学年は2年生の面倒を見るよう、指導しているという。
こうした普段のやりとりは、高学年の責任感と、低学年の高学年に対する憧れを醸成するという。さらに、給食の時間を通して顔なじみになっていることで、「休み時間には、1年生と6年生がよく遊んでいますよ。学年を超えて普通に遊んでいて、それはとてもうれしい光景です。」と、同校の宮崎隆一校長は話してくれた。
高学年への「憧れ」を誘う掲示物
同志社中の展示棚(上)と
廊下に張り出された掲示物(中)、
西南学院小のアトリウムに展示された児童の作品(下)
廊下に張り出された掲示物(中)、
西南学院小のアトリウムに展示された児童の作品(下)
子どもたち同士が一緒に活動するようなリアルな交流がなくとも、異学年を意識する場を作ることはできる。そのひとつが、展示スペースや壁を利用しての、児童や生徒の作品の掲示だ。
同志社中学校(以下同志社中)では、各教科のメディアスペースに教科独自の展示や掲示がしやすいつくりになっている。校内を案内してくださった沼田和也教頭からは、生徒の作品を展示することは「他学年との柔らかな関係性と刺激を生む。また、展示されることで自信につながる。」という話があった。
たとえば、同志社中では数学でレポート執筆の課題が出され、そのレポートも掲示される。それを見た下の学年の生徒は、「こんなことを習うのか」「こんな問題を解けるようになるのか」と、上の学年に憧れる。下級生は上級生を「すごい!」と感じ、上級生は「下級生に変なものを見せられない」とがんばる。廊下の掲示物を通して、こうした異学年のつながりが生まれるという。
廊下や壁、オープンスペースを使った作品展示は、どこの学校でも積極的に取り組んでいる印象を受けたが、同志社中のように校内に展示のためのスペースがあると、さらに効果的な展示が可能になる。西南学院小のアトリウムも、広さや児童の行き来があるという点で、展示にはぴったりのスペースだ。実際に、訪れたときには児童の書道作品が展示してあった。西南学院小には、このほかにも各教室前のオープンスペースや、図画工作用の特別教室前にある展示スペースなど、児童の作品を展示できる場所がいくつか用意されている。
西南学院小で5年生のクラスを受け持つ山下順一郎先生は、「今は(すでに開催の終わった)学習発表会について、他の学年の児童がその学年の子たちに向けて書いた感想文が教室前のオープンスペースに張り出されていますが、それを本人たちは照れくさそうに読んでいます。」と話してくれた。異学年からの「憧れ」や「励まし」の言葉は、やはり児童の心に響くようだ。
学校のなかの縦割り班
照沼小の「きょうだいグループ」のグループ紹介。
1年から6年までの縦割りグループが、それぞれに名前をつけて活動をしている
1年から6年までの縦割りグループが、それぞれに名前をつけて活動をしている
学校のなかに異学年で構成されるグループを作り、そのグループでの活動を学校全体で展開している事例もあった。
白方小では、前述したとおり、吉沼校長が同校就任時に「異学年間のつながりが弱い」と感じたこともあり、2016年から全学年対象の縦割り班をつくり、班単位での大掃除や班ごとで食べる給食など、さまざまなプログラムを企画・実行している。同校の塙教頭は、縦割り班の活動から見られる変化を次のように話してくれた。「たとえば4年生ともなれば、上級生になっていくための準備で、あんなふうに後輩の面倒を見るのかという先輩としてのスタンスを高学年から学びます。かつては普通に家のまわりで遊ぶなかで培われた(異年齢間の)人間関係づくりが今はないんですね。だから、それを感じとれる時間でもあります。」
小規模校の照沼小でも、「きょうだいグループ」という異学年で構成される班での活動を推進していた。現在は8つあるグループで、一緒に掃除をする期間を設けたり、月1回きょうだいグループで遊ぶ曜日を設定してそれぞれのグループで決めた遊びをしたりしている。児童数が少ないので、児童同士名前と顔は一致しやすいが、「きょうだいグループ」での活動を通して、密な交流による協調性の醸成を目指しているという。
Editor's eye
最近は、一昔前のように、放課後近所の公園や空き地、もしくは学校の校庭などで、学年入り乱れて遊ぶということが少なくなったと聞く。以前は遊びのなかで体験できた異年齢同士のコミュニケーションがない——というのは、今回取材に行った学校の教師たちからも聞かれた言葉だ。しかし、そうした場が少なくなったのであればなおさら、異年齢間、異学年間交流を意識的に促そうという取り組みの重要性は増している。
掲示物の展示などで異学年の活動を目にすることで、低学年は目標を、高学年は自負を持つ。学年の入り混じる班活動では、「小さな社会」のなかでこそ培えるソーシャルスキルを、教科学習とは違った軸で体験し、身に付けていく。教師や学校に求められるのは、こうした変化が生まれる"場"を用意し、児童・生徒が楽しみながらその"場"に入っていくことができる環境づくりではないだろうか。
【企画監修】千葉大学大学院工学研究科 建築・都市科学専攻教授 柳澤要氏
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘
【取材協力】京都市立京都御池中学校(京都)、東海村立白方小学校(茨城)、西南学院小学校(福岡)、東海村立照沼小学校(茨城)、同志社中学校(京都) ※学校名五十音順
※原稿内の役職は、取材当時のものです
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘
【取材協力】京都市立京都御池中学校(京都)、東海村立白方小学校(茨城)、西南学院小学校(福岡)、東海村立照沼小学校(茨城)、同志社中学校(京都) ※学校名五十音順
※原稿内の役職は、取材当時のものです