2015/01/23

【データを読む】変わる大学入試~入学者選抜の時期をめぐる課題を考える~

ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 研究員 吉本真代
 先ごろ、中央教育審議会より、大学入学者選抜および高等学校教育・大学教育の一体的な改革を企図した答申が出された。大学入試センター試験にかわって導入される新テストの複数回実施、結果の段階別表示といった内容に注目が集まるが、同答申では「一般入試、推薦入試、AO入試の区分を廃止し、大学入学者選抜全体の共通的な新たなルールを構築するために大学入学者選抜実施要項を抜本的に見直す」としており、見直す項目の1つとして「個別選抜の実施時期」が掲げられている。
 現行の大学入学者選抜実施要項では、AO入試の願書受付が8月から可能である。推薦・AO・一般入試の区分がなくなり、新テストが複数回実施されることにより、全体にそのように選抜時期が早まるのだろうか。現実問題として、各大学の個別選抜を、答申に示された総合的で丁寧な選抜方法に全面的にシフトするならば、選抜に時間がかかるため早期化せざるを得ない面もある。
 入学者選抜の時期をめぐる課題は何か。本稿では、今後のあり方を考える材料として、当研究所で実施した2つの調査から大学合格から入学までの高校生と高校・大学の現状から考えてみたい。

進学先が決定した高校生は学習をしなくなる

 当研究所で2013年11月中旬に実施した調査(「第2回放課後の生活時間調査」)から、高校生の希望する入試形態と進学先の決定状況別に11月の学習時間を比較したものが図1である。11月中旬は、推薦・AO入試受験者でも進学先が決定している人とそうでない人に分かれる。結果をみると、宿題以外の勉強時間について、「一般入試受験希望者」>「推薦・AO入試受験希望かつ進路未決定者」>「推薦・AO入試受験者かつ進路決定者」の順に長くなっている。推薦・AO入試希望者であっても進学先が決まっていない人はそこそこ勉強しているが、進路が決定した人の学習時間は明らかに少ない。

図1 11月中旬時点での高校3年生の学習時間の比較(入試方法×進学先決定状況別)

graph1

学習へどう向かわせるか、高校・大学も苦慮

 そのような状況に対して、高校側はどうしているのか。「高大接続に関する調査」(2013年実施)の結果では、推薦・AO入試で早期に進学先が決まった3年生の学力を保証するために、何らかの取り組みを行っている高校が約4分の3にのぼる(図2。「特に何も行っていない」「推薦・AO入試で進学する生徒はいない」以外の割合)。なかでも「センター試験を受けさせている」高校は4割を超えている。

図2 早期合格者に対する高校での取り組み(高等学校長)

Q.貴校では、推薦・AO入試で早期に進学先が決まった3年生の学力を保証するために、次のような取り組みを行っていますか。(複数回答)
 また、大学に対しても「大学には入学前教育を充実させてほしい」と考える高校が8割に達し、四年制大学進学率別(普通科)にみても、進学率によらず肯定率が8割前後となっている。
 対する大学側の入学前教育の実施率は、推薦入試による合格者に対して7割、AO入試による合格者に対しては8割であった(同調査より大学の学科単位の実施率)。さらに、その目的をたずねると、「入学までの学習習慣の維持」が76%と最も多かった。
 高校も大学も合格後に生徒を学習に向かわせることに腐心していることがわかる。

図3 高校からの大学の入学前教育に対する期待(高等学校長)

 これらのデータからみえるのは、受験が学びのインセンティブになっているが、それが終わると学ぶ目的が薄れ、自主的な学習時間は減ってしまうこと、そして、高校としては、残る生徒の受験指導が続くので試験によって学習を継続させようとしているが、大学が提供する入学前教育などによって先に目を向けた学習をすることも有効だと考えているということだろう。
 かつてほど大学入試が厳しくなくなったと言っても、これらの状況は、高校教育全体が大学入試の影響を強く受けていることを表しているともみえる。重要なのは、受験以外の学びのインセンティブをいかに設けられるかだろう。受験に関わらず、主体的に取り組むことのできるような学習活動が増えれば、状況は異なってくるだろう。進路決定者が増える高3の後半には、ボランティアなどの社会体験活動を通して学ぶ機会を増やすことなども考えられるかもしれない。
 高大接続改革とともに次期学習指導要領の議論も始まる。高校教育改革がどこまで進むのかによっても選抜の時期をめぐる課題は変わってくるのではないだろうか。