2015/01/14
「産後クライシス(危機)」で夫婦に何がおこる?! ~初めての出産後、夫婦の愛情低下を防ぐカギとは~
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長 高岡 純子
はじめての子育ては、家族にとっての大きなライフイベントのひとつです。そして、親にとって楽しく子育てができる環境を整えることは、子どもの健やかな育ちにとても大切なことです。では、子どもが生まれると、夫婦の愛情はどのように変わるのでしょうか?
産後クライシスとは?
今回ご紹介するのは、はじめての子どもが生まれる前(妊娠後期)から、2歳児になるまでの夫婦約300組の4年間の変化を追った継続調査の結果です(「妊娠出産子育て基本調査」/2006年~2009年)。この調査は、妊娠から出産を経て、はじめての子どもが2歳になるまでの期間に、子育て環境や夫・妻の子育て意識や生活がどのように変わるのかを調べたものです。
「産後クライシス」とはどのようなものでしょうか。「産後クライシス」とは、出産後に夫婦ともに互いへの愛情が急速に下がる実態のことを指します。特に妻から夫への愛情の低下が大きいことが特徴です。 図1は、子どもが生まれたあとに夫婦間の愛情がどう変わるのかをみたものです。妊娠期は、「配偶者といると、本当に愛していると実感する」に「あてはまる」と答えた割合は、74.3%で夫も妻も差はありません。しかし、出産後は「夫を本当に愛していると実感する」妻の割合は大きく減少していきます。子どもが0歳のときは、45.5%、1歳では36.8%、2歳では34.0%となり、妊娠期から42.3ポイントも減っています。一方、「妻を本当に愛していると実感する」夫の割合は、妻と同様に減少していくものの、子どもが2歳では51.7%で、妻に比べると減少幅は緩やかです。
産後クライシスを防ぐためには
産後クライシスを防ぐためにはどうしたらよいのでしょうか?出産後、妻の愛情が下がった夫婦と下がらなかった夫婦では、一体、何が違うのかを調査結果からみてみましょう。
妊娠期と子どもが0歳期で、変わらずに「夫を愛している」と実感している妻は、愛情が下がった妻よりも、「夫は家族と一緒に過ごす時間を努力して作っている」「夫は私の仕事、家事、子育てをよくねぎらってくれる」と感じている割合が7~8割と高くなっています(図2・図3)。夫が家族と一緒に過ごすように努力をすること、妻の家事や育児・仕事をねぎらうことは、妻の夫への愛情を保つ秘訣のひとつのようです。子どもが乳幼児の場合、夫は30代の年齢層が最も多く、働き盛り。仕事からの帰宅時間が遅いため、子育てに関わりたいと思っていてもできない人も多いと思われますが、子育てに関わる時間がないときには妻へのねぎらいや感謝の言葉をこまめに贈ることが、妻の愛情低下を防ぐカギになるでしょう。
この調査では、夫も妻も子どものころから今までに赤ちゃんとふれ合う経験がないまま親になっている人が約半数を占めています。子育てスキルを十分に持つ機会がないことで、育児に苦労することも多くなりがちです。また、夫婦で家事や子育てを助け合っている夫婦は、そうでない夫婦よりも、夫婦ともに子育てへの自信がより高くなるということもわかりました。夫婦ふたりで子育てに取り組むことで、子育ての大変さや楽しさを共有でき、育児のスタート時期を乗り越える気持ちを持てるようになることが大きいでしょう。
また、夫が育児に関わることは、夫婦関係への良い影響だけではなく、夫自身や子どもにとっても良い影響がもたらされます。早い時期から子育てに関わることによって、父親と子どもとの愛着関係が築かれ、それが基となって父親自身の子育て肯定感も高くなることがわかっています。そして、父親の子育て肯定感の高さは、子どもの健やかな育ちに良い影響を与えることも明らかになりました。夫が子育てに関わることは、家族それぞれによい影響を及ぼすことになるのです。
今回の調査の結果からは産後クライシスの実態や父親の子育ての重要性等が明らかになりましたが、いくつかの課題も見えてきました。たとえば、父親はどのようにして仕事と子育てのバランスをとればよいのでしょうか。それには企業における家族への理解や継続的な支援が不可欠になります。また、親の年齢層の広がりや共働きの増加など、ライフスタイルが多様化する中で、良好な夫婦関係や子どもの健やかな育ちを支えるためにはどのような子育て環境を整えるとよいのでしょうか。こうした課題を、家族だけの問題として捉えるのではなく、子育ての支援に携わるすべての人たちとともに考え、一緒に解決をしていく必要があるでしょう。
この調査についてもっと詳しく知りたい方はこちら