2011/02/08

第5回 2009年~2011年 首都圏“待機児童”レポート

子育てトレンド調査について

ベネッセ次世代育成研究所では、妊娠・出産・子育て・幼児教育に関して現在注目すべきテーマを取り上げ、調査を行い、レポート発信していきます。

第5回は、「2009年~2011年 首都圏“待機児童”レポート」をお送りいたします。
※2012年1月30日発行

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子育てトレンド調査について

調査概要

都市部を中心に、大きな社会問題となった認可保育園の待機児童。2011年4月では、4年ぶりに待機児童数は減少しました(厚生労働省発表・全国)。しかし、保育園の在籍児童数は年々増加し、子どもを預けたいニーズは高まり続けています。
ベネッセ次世代育成研究所では、待機児童の多い首都圏の母親を対象に、2009年から毎年、保育園への入園の実態を調査し、3ヵ年の変化をまとめました。 今年は、幼稚園や認可外保育施設など、預け先がより多様になったことがわかりました。 さらに、今回は、保護者が保育施設について重視していることもききました。

調査対象

各年(2009/2010/2011)の4月入園に向けて、認可保育園に入園申請をした母親

有効回答数

2009年:720人
2010年:836人
2011年(今回調査):967人

調査時期

2009年9月
2010年7月
2011年10月

調査地域

東京・神奈川・埼玉・千葉

調査方法

インターネット調査

調査項目

保育園入園申請・利用の実態、入園申請に向けての行動や意識、働いている理由など。
<2011年のみ> 保育施設について重要視していること・子どもを預けることについての考え・保育制度へのニーズ

調査監修

恵泉女学園大学大学院教授 大日向雅美

設計・分析

高岡純子(ベネッセ次世代育成研究所 主任研究員)
松本留奈(ベネッセ次世代育成研究所 研究員)
持田聖子(ベネッセ次世代育成研究所 研究員)

3ヵ年の調査結果から見えてくること

3ヵ年の調査結果サマリー

 2009年4月は待機児童数が2万人を超え、大きな社会問題となった。その年に行った第1回調査では、入園申請をした母親の約半数が子どもを認可保育園に入れることができず、どこにも預け先がなかった母親の56%が就労を諦めたという厳しい現状が明らかになった。自治体もさまざまな緊急待機児童解消施策を行った。
 2010年に実施した第2回調査では、認可外保育施設への入園割合が増え、待機児童解消施策として自治体が誘致を進めた認可外保育施設が待機児童の救済になっていることがうかがわれた。回答者の自由回答からも、待機児童への危機感や、育児休業を早く切り上げるなど、入園しやすくするための活動の工夫がみられた。
 2011年の第3回調査では、パートタイム就労者などの母親が幼稚園に預けている割合が増加した。母親の働き方や、子どもの年齢によっては、認可保育園以外の預け先が広がったといえる。自治体の中でも、母親の働き方に合わせた預け先をコーディネイトする施策を行うところもある。
 保育所利用率が上昇を続ける中、待機児童対策は、卒園後の学童保育所の整備も含めた長期的な展望で行うべきであり、また母親の働き方に応じた預け先の相談やマッチングをしたりすることが有益ではないだろうか。

専門のお立場から

 厚生労働省の発表では全国の待機児童数が4年ぶりに減少しているが、首都圏の待機児童問題がおさまったとはいえないことを本調査結果は示している。3カ年を通して子どもの預け先が決まらないために、就労継続や再就職を断念した母親が6割近くに及んでいる。認可保育園入園は37.5%に過ぎず、3年前と比べて10ポイント近く減少している。少子化の進行が近い将来、労働力不足を招くことは不可避の事実であり、社会保障の持続可能性の観点からも、女性の就労継続に向けた環境整備は喫緊課題である。
 そうした中、幼稚園への入園が増加していることが、従来にない新たな傾向として注目される。子どもが小さい時は短時間勤務を希望する母親が増えたとする解釈もあろう。しかし、長引く不況の影響で就労環境が厳しさを増す中、待機児童問題が壁となって、パートタイマーが増えたことも考えられる。事実、幼稚園では4時間保育の他に預かり保育を実施している園が大半である。また2歳児から入園を受け入れていると思われる結果も示されている。幼稚園に待機児童問題解決に向けた役割を期待するとすれば、預かり保育等に児童福祉法上の保育の保障が必要であろう。一方、子どもが保育施設で集団生活を送ることが子どもの発達に好影響を及ぼすと考える母親が増加しており、同時に保育者の対応をはじめとした保育の質を重視する傾向が顕著となっていることも、今回の調査で注目される点である。就学前の子どもの発達環境の整備が、母親が安心して働き続けるための必須要件でもあることを、改めて考えさせられる調査結果である。

恵泉女学園大学大学院教授 大日向雅美