2016/10/06

第112回「一生学び続ける」を科学する⑪ 幼児期の親のかかわりが、小1の学習態度にどうつながるか?

研究員
田村 徳子

秋は、幼児期の子どもたちが次のステージに向かい始める時期

 夏が終わり秋になると、幼稚園や保育園の入園申し込み、小学校の就学時健診などが始まり、幼児期の子どもたちが次のステージに向かい始めます。それまで培った力をもとに、子どもたちはさらに世界を広げていくことになります。保護者としては、子どもの成長を感じる一方、環境の変化になじめるだろうか、そして子ど自自身が自らの力を発揮できるだろうかと気がかりになることもあります。
 そこで、前々回前回の「園での経験は幼児の成長にどのように関連するか」の記事に続いて、今回は、年長児から小学1年生の子どもの幼小移行期と親のかかわりについて、調査研究からみえてきたことをお伝えします。

幼児期の親のかかわりは、小1の学習態度にどうつながる?

 小学生になると、本格的に学習生活が始まります。保護者の方からは「子どもが勉強してくれるだろうか」「子どもは自分で進んで学習できるだろうか」という声も聞かれます。では、幼児期で培った力は、そもそも小学1年生の学習態度につながるのでしょうか。そして、それはどのようにつながるのでしょうか。また、保護者のかかわりは子どもの学習態度にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
 これを知るために、ひとつの調査研究をご紹介します。私どもが2012年から2015年にかけて行った「幼児期から小学1年生の家庭教育調査・縦断調査」です。目的は、幼児期から小学校入学期にかけて子どもが育つプロセスと親のかかわりの影響を明らかにすることでした。子どもが年少児から小学1年生になるまで、毎年2~3月の時期に、母親に子どもの様子や親のかかわりについてアンケートでたずねる、というものです。今回は、この調査結果から、幼児期の親のかかわりが小1の学習態度にどうつながるかを見ていきたいと思います。
 下の図1は年少児期から小学1年生までのデータを使い、共分散構造分析を行った結果を表した図です。小学1年生の学習態度を最終的な従属変数として、小1なら年長児期から、年長児なら年中児期というように一時点前から影響している子ども自身の力は何か、さらにそれに一時点前から影響をあたえる親のかかわりは何かを明らかにするモデルを組みました。(なお、同時点での親のかかわりによる子どもの力への相関は中程度あります。)この分析結果を読み解いていくと、興味深いことがみえてきました。
【図1】調査からみられた「幼児期の親のかかわりと小1の学習態度」の関連図
【図1】調査からみられた「幼児期の親のかかわりと小1の学習態度」の関連図
※学びに向かう力は、「好奇心」「自己主張」「協調性」「自己抑制」「がんばる力」を含む。「幼児期から小学1年生の家庭教育調査」で、小学校以降の学習や生活につながる幼児期の学びとして設定した3つの軸(「生活習慣」「学びに向かう力」「文字・数・思考」)のひとつである。
※共分散構造分析を行い、統計的に有意と確認されたものを矢印で示した。

年少児期、年中児期における親のかかわりが子どもに与える影響

 子どもの学習態度とは、「机に向かったら、すぐ勉強に取りかかる」、「勉強が終わるまで集中して取り組む」、「大人に言われなくても自分から進んで勉強する」、「勉強していて、わからないとき、自分で考え、解決しようとする」の4項目を得点化したものです。図1で、小学1年生での学習態度につながっている矢印は2本ありました。ひとつめは子どもの「文字・数・思考」、ふたつめは親による「子どもの意欲を尊重する態度」です。今回の調査では、年長児(=5歳児クラス)だったときに子ども自身に文字・数・思考の力が養われていたり、親が子どもの意欲を尊重するように接していたほうが、小学1年生になったとき、家庭学習において自ら進んで学習に取り組む傾向がみられたということを示しています。
 では、まず、ひとつめの矢印からみてきたいと思います。図2をご覧ください。
【図2】
【図2】
 年長児の子ども自身の「文字・数・思考」の力とはどのようなことを指しているのでしょうか。私たちは幼児期であることを考慮し、子どもに文字や数に親しむ環境があるか、筋道立てて考える力が育まれているかに焦点をあてたいと考えました。そこで、母親に「かな文字が読める」、「1、2、3、4と20までの数を正しく数えられる」、「自分のことばで順序をたてて、相手にわかるように話せる」などがどれくらいあてはまるかを聞きました。その結果、年長児で、「文字・数・思考」、すなわち、文字や数に親しんだり、筋道立てて考える力が育まれていることが、小学1年生になったときに集中して取り組んだり、自分から進んで勉強するといった学習態度につながっていることがわかりました。幼児期のこのような準備は、小学1年生において家庭学習へのスムーズな取り組みを助けていると考えられます。
 さらに探っていくと、年長児での「文字・数・思考」の力に、年中児(=4歳児クラス)の時期の子どもの「学びに向かう力」の成長と、親による「学ぶ環境の整え」や「思考の促し」といったかかわりが影響していることもわかりました。ここでは、年中児期の親のかかわりについて述べていきたいと思います。親による「学ぶ環境の整え」とは、生活の中で「子どもと一緒に数を数えている」、「子どもが文字や数に興味を示したとき、さらに学べるようにしている」など4項目をどれくらいしているか、「思考の促し」とは「子どもの質問に対して、自分で考えられるようにうながしている」「ひとつの遊び方には多様な遊び方があることを子どもに気づかせようとしている」など4項目をどれくらいしているかを含みます。年中児での親のかかわりが、年長児での文字や数に親しんだり、筋道立てて考えられる力の成長につながっているということです。
 年中児では、多くの子どもが幼稚園や保育園に通い、家庭とは異なる環境でさまざまな経験をしていきます。自然にふれたり、友だちや先生とやりとりしたり、絵を描いたり歌を歌ったりするなかで、多くの刺激を受け、自らの内面を認知的にも社会情動的にも育んでいきます。家庭においても、子どもが文字や数などに興味を持ったときに学べる環境を整えたり、子どもが自分で考えられるようにする、つまり子どもの気持ちや伝えたいことを「それはこういうことかな」と代弁したり、「もう少し詳しく教えて」と深く考えられるようきっかけを作ることで、子どもたちが次の学年である年長児になったときの成長につながると考えられます。このように、年中児での親のかかわりが年長児の子どもの文字や数に親しんだり筋道立てて考える力を育み、小1での学習態度につながるルートが見えてきました。
 また、年少児期までさかのぼると、年少児期の親による「学ぶ環境の整え」や「思考の促し」が年中児期の子どもの「学びに向かう力」の成長を支えており、それが年長児期の子どもの「文字・数・思考」の成長につながっていました。年少児期の親のかかわりも重要であることがわかりました。この年少児期の親のかかわりが年中児期の子どもの「学びに向かう力」に与える影響もたいへん興味深い動きです。ただし、この動きを加えると話が複雑になりますので、ここでは残念ながら割愛したいと思います。

年長児期における親のどのような態度が、小1での学習態度につながるのか

 小学1年生での学習態度につながっているルートのもうひとつ、親による「子どもの意欲を尊重する態度」についてみていきます。図3をご覧ください。
【図3】
【図3】
 「子どもの意欲を尊重する態度」とは、どのようなことを指すのでしょうか。私たちは親の養育態度として、子どもを受け入れるという軸と、子どもを親の意向に従わせるという軸、子どもとかかわらないという軸を設定して調査を行いました。しかし、今回のような縦断調査に、子育ての多忙な時期に毎年協力し続けてくださるという時点で、子どもとかかわらないという軸は浮かび上がりませんでした。また、親の意向に従わせるという軸もまとまった傾向として浮かび上がりませんでした。一方、子どもを受け入れるという軸には傾向がみられました。「子どもがやりたいことを尊重し、支援している」、「どんなことでも、まず子どもの気持ちを受け止めるようにしている」、「しかるとき、子どもの言い分を聞くようにしている」などの7項目です。そこで、これらを点数化し、「子どもの意欲を尊重する態度」と名付けました。
 今回の調査では、年長児のときの親による子どもの意欲を尊重する態度は、小学1年生になったときの子どもの学習態度に影響していました。年長児のときに親が子どもの意欲を尊重するスタンスが、小学1年生で子どもが学習をスタートする時期に、集中して取り組んだり、自分から進んで勉強したりする学習態度を支えており、幼小移行期を越えて影響していたのです。
 一方、年長児期から小学1年生にかけて「学ぶ環境の整え」や「思考の促し」といった親のかかわりは影響がみられませんでした。つまり、年長児期の親のかかわりそのものが小学1年生の学習に直結するわけではないということを示しています。これは、家庭においても幼児期では子どもの興味や関心を広げることを目指しますが、小学1年生では教科学習の定着や深まりを目指すなど学ぶ内容が大きく異なることに起因するかもしれません。その場合、幼児期と小1以降では親のかかわり方の内容が変わる必要があることも考えられます。

幼小移行期に子どもが学習態度を身につけていくために、家庭でどのようにサポートできる?

 いままで、幼児期から小学1年生にかけて、子どもの学習態度につながる2つのルートをみてきました。今回の調査結果から見出されたことは、学習態度を育むために幼小移行期に家庭において大切なのは、「親は自分を受け入れてくれる、自分の意欲を尊重してくれるという安心感のある親子関係を築くこと」と「子どもが文字や数に親しむ環境を整えたり、筋道立てて考える力を育むなどの学習生活の準備をすること」でした。
 幼児期の園生活から小学生での学習生活への環境変化は、子どもにとって大きな出来事です。通う場所も、先生も、友だちも、そこでの過ごし方や先生とのやりとりも異なります。このような大きな環境変化があるとき、幼児期の親子関係として親は自分を受け入れてくれる、自分の意欲を尊重してくれるという安心感が、子どもが変化に驚きながらも少しずつ対応していくときの気持ちの支えになると考えられます。そして、その気持ちの安定が、集中して取り組む、自分から進んで勉強するなどの学習に向かえる姿勢につながっているのではないでしょうか。
 また、この時期は保護者の方にとっても環境が大きく変化するときです。ぜひ、園や小学校の先生方には、保護者の方に、この時期の子どもの成長の特徴とともに、どのように子どもの気持ちの安定を支えるか、家庭ではどのような学習生活の準備ができるかの手立てを伝えていただければと思います。

著者プロフィール

田村 徳子
たむら さとこ
ベネッセ教育総合研究所 研究員
(株)ベネッセコーポレーションの小学講座教材編集などを経て、2008年度より現職。
妊娠・出産期から乳幼児をもつ家族を対象とした意識や実態の調査・研究を担当。
これまで担当した主な調査は、「妊娠出産子育て基本調査」(2008年~2010年)、「幼児期の家庭教育調査」(2011年~2013年)「乳幼児のメディア視聴に関する調査研究」(2011年~2013年)など。
新しく若い生命の存在が、家族や社会など周囲とどのようにかかわりを持ち、互いに影響を与えて次世代を担っていくのかを探り、知見を広く還元したいと思っている。