2016/09/16

第111回「一生学び続ける」を科学する⑩ 園での経験は幼児の成長にどのように関連するのか(後編) ~園生活を通した保護者の成長が、子どもの育ちを支える~

主任研究員
真田 美恵子
 前編では、園で「遊び込む経験」が、幼児の「学びに向かう力」を育む可能性について、調査結果をもとに考察した。後編となる本稿では同じ調査を素材にして、前編で提示した図1のうち③④の部分にあたる、主に園と保護者の関係性をみていきたい。
【図1】本調査で明らかになった主な関連
【図1】本調査で明らかになった主な関連

保護者に着目した背景

 保護者に着目した理由は、2点ある。第1に、園と関わる機会を通して、保護者は子どもや子育てへの気づきや学びを得て成長するのではないか、それが養育態度や子どもの育ちにも影響するのではないかという仮説をもったためである。これは、保護者との関係作りに力を入れる複数の園に筆者が訪問し、園長に話をうかがう中で感じたことでもある。第2に、保護者が園の保育に協力することで、その多様な経験や強みが保育にいかされれば、子どもが育つ環境は豊かになる。家庭の子育てへの影響だけでなく、保育の充実につながるという視点からも、園と保護者の関係性を考察したいと考えた。

園生活を通した保護者の成長とは

 園生活を通して、保護者はどのような成長実感をもつのだろうか(図2)。約7割かそれ以上の保護者は、園生活を通して「子どもの得意なことやよさに気づいた」り、「安心して子育てできた」「自分の視野が広がった」「子どもへの関わり方がわかった」と感じている(「強く感じる+やや強く感じる」)。
【図2】保護者自身の成長実感
【図2】保護者自身の成長実感
 次に、子育てをするうえで園からの情報は、どの程度参考になったのだろうか(図3)。8項目中6項目で、約7割~9割程度が参考になった(「とても参考になった+やや参考になった」)と答えており、園からの情報はおおむね参考にされているようだ。図示は省略するが、幼稚園・保育園の保護者の違いをみると、幼稚園の保護者は「個人面談」「園のホームページ」が参考になったという比率が保育園よりも高く、保育園の保護者は「連絡帳」や「園内の掲示物」が参考になったという比率が幼稚園よりも高かった(※1)。
【図3】園からの情報の参考度
【図3】園からの情報の参考度
 図4は、園と関わる機会をたずねたものである。約半数の保護者は週に1日以上「先生と話をする」機会があったと回答した。次に、「園の行事に参加する」は「年に4~10日」が48.4%ともっとも多く、「保育を参観する」は「年に1~3日」と「年に4~10日」が約4割ずつと同程度であった。「保育や園の運営を手伝う」は「なかった」が39.4%ともっとも多かった。幼稚園の保護者は「保護者同士の交流の会に参加する」などの比率が保育園よりも高く、保育園の保護者は「先生と話をする」比率が幼稚園よりも高かった(※1)。このように、幼稚園・保育園による違いがみられるのは、専業主婦が多く保護者が比較的集まりやすい幼稚園と、働く母親が多く送迎の場でのコミュニケーションが中心となる保育園、それぞれの特性による結果であろう。
【図4】園と関わる機会
【図4】園と関わる機会
 図5は、園生活を通した保護者の成長実感(図2)と園からの情報の参考度(図3)の関連を示したものである。園からのさまざまな情報が子育ての参考になったと思うほど、保護者は園生活を通して自身の成長を感じている(園と関わる機会も同様の傾向であった。これらの関連が図1の④に相当する)。また、園からの情報の参考度(図3)と園と関わる機会(図4)は、保護者の成長実感(図2)だけでなく、子どもの意欲を尊重する養育態度とも直接的な関連が見られた(図示省略。この関連が図1の③に相当する)。
【図5】保護者の成長実感(園からの情報の参考度別)
【図5】保護者の成長実感(園からの情報の参考度別)
※「保護者の成長実感」は、図2の4項目について、「強く感じる」を4点、「やや強く感じる」を3点、「少し感じる」を2点、「感じない」を1点として合計を得点化し、3区分した。※「園からの情報の参考度」は、図3について「とても参考になった」を3点、「やや参考になった」を2点、「参考にならなかった」「機会がなかった」を1点として合計を得点化し、3区分した。
 これらの結果から示唆されることは、園からの情報の参考度(図3)と園と関わる機会(図4)が、園生活を通した保護者の成長実感や、子どもの意欲を尊重する養育態度に影響を与え、「学びに向かう力」を支えている可能性である(この養育態度が、「学びに向かう力」と関連することは本調査のみならず、弊研究所が実施した「幼児期から小学1年生の家庭教育調査・縦断調査」でも明らかになっている)。

園が子どもの育ちに対して果たす役割とは

 前編と合わせて考えると、本調査からは、園が子どもの育ちに対して果たす役割の二面性がうかがえる。つまり、「遊び込む経験」を充実させることで子どもの育ちを直接支える面と、保護者に対する情報提供や園と関わる機会の提供を通じて、保護者の成長を促すことで、間接的に子どもの育ちを支える面である。
 それでは、保護者の成長につながる園からの情報提供や、園と関わる機会とは具体的にはどのようなものだろうか。

<保護者の成長につながる、園からの情報提供とは>

 ある園では、園便りを活用している。普段の遊びや活動を紹介するだけでなく、そのねらいや、そうした経験により子どもの心がどのように育っているのかを解説している。保護者が遊びの意味をより深く理解したり、子どもの見方を広げるために役立つだろう。また、保護者向けの講演会で、成人した卒園生について紹介する園もあった。幼児期には「変わった子」とみられていた子どもが、短所のようにもみえていた個性を強みに変えて、社会で力を発揮しているエピソードなどに触れることにより、子どもの個性をその子らしさとして認め、伸ばすことの大切さを保護者は学べるだろう。

<保護者の成長につながる、園と関わる機会とは>

 図4で示した行事や保育参観、保育の手伝い、保護者同士の交流の機会などを「園と関わる機会」と定義して、保護者の意識をたずねたところ、入園当初、園と「(あまり+まったく)関わりたくないと思っていた」保護者は34.4%と、およそ3人に1人であった(※2)。働く母親が増えたことで、園のために時間を捻出する難しさや、保護者同士の人間関係の複雑さもあるだろう。しかし、その保護者の約半数は、卒園前には「関わってよかった」と気持ちが変容している。行事や保育参観、保護者会などに参加することで、子どものよさや成長に気づいたり、保育者や他の保護者の子どもへの接し方から学んだり、相談相手となる「ママ友」ができたりすることなどが影響していると考えられる。さらに、保護者向けの特別な機会でなくても、前編で紹介した事例のように、子どもたちが「遊び込む経験」を保護者が共有したり、手伝うような場面も、楽しみながら、子どもの興味や成長に気づく学びの機会になるだろう。
 保護者が園生活を通して自身の成長を感じたエピソードについての自由回答をいくつか紹介したい。
◎子育てに自信がもてなくて、誰にも相談できずにいたが、園で同じように悩んでいる保護者や先生とともに試行錯誤しながら悩みを乗り越えてきた。1人で抱えても解決には向かわないと気づかされた。少しずつ余裕がもてるようになったら、子どもにも優しい気持ちで接することができるようになった。
◎周りと比べて、我が子はできないことが多いと思っていましたが、園長先生の話や、クラス懇談会を通じて、比べるのはその子の過去と今だけでいいと考えられるようになり、我が子を肯定できるようになりました。
◎園での行事を通して、親同士が助け合い、地域としてみんなでみんなの子どもを一緒に育てるんだという、地域社会という単位で考える意識が芽生えました。
 子育ての経験が少ないままに親となり、地域のつながりの希薄化が課題視されるなか、園は、親子にとってもっとも身近な地域との接点であり、子育てを支える重要な役割と可能性があることを改めて感じる。

園を拠点に、親子・保育者・地域が育ち合う関係作りを

 前編、後編を通して、本調査からの示唆をもとに、園や保護者、行政に対する提言をまとめとして述べたい。
 まず園には、何よりも、子どもの「遊び込む経験」を保障できる環境整備を期待したい。子どもが夢中で遊びに没頭できる時間、場所、遊具や素材が十分に用意されているかを検討することから始めてはどうか。環境の充実にあたっては、幼稚園・保育園・認定こども園などそれぞれの強みや特性をいかし、他園の取り組みに学んだり、ときに園児の家庭に協力を依頼したり、地域の人的、物的資源を活用することも有効だろう。
 また、保護者の成長支援も園の大きな役割である。保護者の生活様式や価値観は多様であることを考慮して、一律や強制にならない関わり方や、保護者が楽しく関われる内容の工夫、また父親の参画を促すことで家族の育ちを支えるという視点も必要である。このように、園内外の多様な人との接点があることで、保育者も学び、育ち、保育に還元することができる。これからの園は、子どもを中心に地域全体で育ち合う拠点になることが求められるだろう。
 幼児の保護者には、園選びや、園との関わり方を考える際の参考として、本調査を活用していただきたい。園を選ぶ際に、子どもが「遊び込む経験」ができる環境や先生の関わりがあるかどうかを観点の一つにしてはどうか。また、保護者が園に関わることは親子の成長の機会になるだけでなく、保育の充実にもつながると考えられる。それぞれの家庭が無理のない範囲で、保育に関わったり、協力したりすることも期待したい。さらに、「遊び込む経験」が子どもの「学びに向かう力」を支えることは、園に限ったことではないだろう。家庭でも、子どもが夢中になって遊び込める経験を大切にしてほしい。
 行政には、園に対するいっそうの支援を求めたい。都市部では待機児童の解消という「量」の課題に注目が集まりがちであるが、保育の「質」の向上も並行して取り組むべき課題である。園の種別や公私立に関係なく「遊び込む経験」の保障という観点から、保育者が専門性を高める研修を園内外で受けられるような条件整備や、園での取り組み事例の共有が必要であろう。経済的に困難な幼児の家庭が増えるなか、保育の質の向上は、成育環境の厳しさに伴う子どもへの影響を緩和するためにも、極めて重要な施策であると考える。
 最後に、今の日本では待機児童の問題を始めとして、子育てを取り巻く厳しい環境が目立つ。個々の課題の解決は当然必要だが、それだけでなく、子どもや子育ての楽しさや喜びを共有することで、子育てに寛容な地域社会のムードを作ることも保護者の支えになるだろう。その際、「遊び込む経験」の充実を目的にして、子ども、保護者、保育者、地域がつながることも一策ではないか。子どもが遊び込み、育つ姿を目の当たりにして、その力強さに驚いたり、愛着を感じるなかで、周囲の大人は子どもや子育てへの寛容さを強めていくとはいえないだろうか。
 園を拠点に、遊びの充実を求心力にして、子どもをもつこと、育てることが、地域の喜びや幸せにつながるようなコミュニティが増えることを願っている。
※1 詳細の数値は、「園での経験と幼児の成長に関する調査」レポート(ベネッセ教育総合研究所、2016)、基礎集計表を参照ください。
※2「園での経験と幼児の成長に関する調査」レポート(ベネッセ教育総合研究所、2016)

著者プロフィール

真田 美恵子
さなだ みえこ
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員
乳幼児領域を中心に、保護者や幼稚園・保育所・認定こども園の園長を対象とした意識や実態の調査研究を担当。これまで担当したものは、「幼児教育・保育についての基本調査」(2007・2008年、2012年)、文部科学省委託事業「保育者研修進め方ガイド」(2010年)、文部科学省委託事業「認定こども園における研修の実情と課題」(2009年)、園向けの情報誌「これからの幼児教育」編集(2008年)、「第5回幼児の生活アンケート」(2015年)など。