2023/03/16

全国大学国語教育学会2022年度第143回千葉大会「教科横断的な思考力の育成を目指す中学校「書くこと」の授業設計と実践—中学2年生の実践から見えてきたこと—」

はじめに

ベネッセ教育総合研究所学習科学研究課研究員の鈴木佑亮・小野塚若菜と明星中学校・高等学校の藤井泉浩先生が,2022年10月15日から16日に行われた全国大学国語教育学会2022年度 第143回 千葉大会において共同発表を行いました。

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研究の要旨・目的

著者らはこれまで,小野塚・泰山(2021)が開発した中学校言語能力Can-do statements(後述)を目標規準とした国語科「書くこと」の授業を行ってきました。本発表では,2022年4~7月に中学2年生を対象に行った授業について,具体的な内容とそれを通して見えてきた生徒の変容について報告しました。

概要

〈中学校言語能力Can-do statements (Cds)の概要〉

Cdsとは,学習指導要領から抽出した教科共通の思考スキルという理論的枠組み(泰山,2014)を,小野塚・泰山(2021)が拡張することで開発した,思考力の教科横断的なフレームワークのことです。具体的には,複数の思考スキルが総合的に活用される学習行動が「~できる」という能力記述文の形で示されており,22の能力記述文を4つの「探求の過程」,すなわち,「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」に分類されて並べられています。

〈3年間の指導設計の見直し〉

2022年度の授業計画を立てるにあたり,まず各学年の目標を以下のように再設定しました。
表1:再設定した各学年の目標 (当日発表資料より抜粋)

〈第2学年の年間指導計画と各単元の構想〉

中2の目標を達成するために,年間指導計画は次のように設計しました。すなわち,テーマ(=単元)を4つに分けたうえで,テーマ1は主に「課題設定」のCds,テーマ2は主に「整理・分析」のCds,テーマ3は主に「情報収集」のCdsをそれぞれ身につけるための単元として位置づけ,テーマ4でそれらのCdsを複合的に発揮するという計画です。また,目標を達成するための手立ての一つとして,思考ツールも導入しました。
図1:各テーマの位置づけ(当日発表資料より抜粋,図中のTはテーマを指す)

〈テーマ1・2の概要〉

このうち,2022年4~7月ではテーマ1・2を行いました。以下がその単元名・概要・単元のねらいとしたCds項目です。
表2:テーマ1・2の単元名・概要・単元の狙いとしたCds項目
(鈴木・小野塚・藤井,2022の表2からテーマ1・2を抜粋したうえでCdsの情報を加筆)

〈授業を受けた生徒の思考力の発揮についての分析と考察〉

テーマ1・2の授業を受けた生徒が目標とした思考力を発揮したか,またどのような変容が見られたかを明らかにするため,成果物やふり返り(OPPシート)の記述を分析しました。その結果,生徒は,ねらいとしていた思考力を学習活動の中で発揮できていることがおおむね認められました。ただし,探求の過程の「課題設定」にあたる項目については,発揮できていなかったり難しさを感じていたりする様子も見受けられました。こうした分析結果について以下のことが考察されます。
●「課題設定」にあたるCds項目を発揮できなかったり難しさを感じていたりしたのは,1年時に自ら課題を設定する機会がほとんどなかったために,テーマ1・2時点ではまだ十分に習熟していない生徒が多かったのだと考えられる。
●変容が見られた生徒と見られなかった生徒とを比べると,ふり返りにおいて自らの思考過程をメタ認知できているかどうかの違いが影響していたことが示唆された。このことから,生徒が自身の思考過程を分析・言語化するように促す指導ができれば,より大きな成果を得られる可能性があると考えられる。

〈今後の計画〉

2022年度には中学2年生の後半(テーマ3・4)までの実践を通した生徒の思考力のさらなる変容を観察するとともに,2023年度には中学3年生になった生徒にも引き続き本実践を行うことで,3年間の授業を通して生徒の思考力の発揮がどのように変容していくかを明らかにしていきます。また,このような中期的な観察によって,思考力育成のより効果的な手法を追究していきます。
詳細については,以下の資料(全国大学国語教育学会第143回千葉大会 大会研究発表要旨集,pp.119-122)をご覧ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtsjs/143/0/143_119/_article/-char/ja

関連研究

1. 本研究において対象となった生徒の,中学1年次の『書くこと』の実践内容を報告した研究発表です。Cdsを“めあて”とした授業設計による,教員と生徒の意識変容に関して考察しています。

藤井泉浩・小野塚若菜・鈴木佑亮(2021).教科横断的な目標としての思考力の育成を目指した中学校『書くこと』の実践 2021年第141回全国大学国語教育学会世田谷大会 大会研究発表要旨集,pp.283-286
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtsjs/141/0/141_283/_article/-char/ja
2. 本研究の実践において目標規準としたCdsの開発・提案を行った研究発表です。学習指導要領においてすべての学習の基盤となるとされている資質能力のひとつに言語能力がありますが,言語能力の側面から思考力全体を整理したフレームワークとしてCdsを開発しました。その開発手続きを説明し,各教科専門家の意見に基づきCdsの位置づけや内容について考察しています。

小野塚若菜・泰山裕(2021).中学校学習指導要領に基づく言語能力Can-do statementsの開発 日本教育工学会2021年秋季全国大会