2016/02/02

第90回「わかる! 通じる! うれしい!」 ~小学校英語が教科になる時に大切なこと~

主任研究員 加藤 由美子
 年末年始に実家のある京都に帰省しました。アメリカの旅行雑誌の人気観光都市ランキングで2年連続1位に選ばれたこともあってか、街で見かける外国人の多さに驚かされました。今ほどではありませんが、京都は古くから国際観光都市として多くの外国人を迎えてきました。筆者が英語で聞く・話すことを本格的に学び始めた大学生の時、日本人学生が外国人観光客と一緒に観光名所を回る、観光ボランティアのようなことをしていました。外国人にとっては無料案内がつくこと、学生にとっては一日中英語を使うことができるという、双方にとってよいシステムです。朝から英語だけに集中すると、夕方頃には周りの日本語が意味のない雑音のように聞こえてきます。そのことに喜びを覚えたものです。また、高校まで伝統的な語彙・文法の学習をしてきた筆者にとって、英語を聞いてわかり、話して通じることがとてもうれしく、聞く・話すための学習にさらに励んだことが思い出されます。

小学5・6年生は「英語がわかったり通じたりするとうれしい!」

 英語がわかったり通じたりするとうれしいという気持ちは小学生も同じようです。ベネッセ教育総合研究所は2015年3月、小学5・6年生とその保護者に「小学生の英語学習に関する調査」を実施しました。その中で学校での授業や英語の活動について聞いたところ、小学5・6年生の85.2%が「英語がわかったり通じたるするとうれしい」と回答しました(図1)。この回答が第1位になったことは、英語を学習したり使ったりしていれば、当然のことのように思われますが、この結果は、今後、小学校高学年に外国語(英語)が「教科型」で導入されるにあたって、とても大切なことを示唆していると思います。
図1 学校での授業や英語の活動について①
図1 学校での授業や英語の活動について①
 この質問の結果をもう少し見てみたいと思います。「英語がわかったり通じたりするとうれしい」に続いて、「小学校での英語の勉強は中学校で役に立つと思う」「英語の授業に一生懸命取り組んでいる」「友だちと話し合ったり協力することが大切だ」という回答も8割以上、また、「教室の外で英語を使ってみたい」という回答も6割ありました。小学校外国語活動の中で、小学5・6年生が英語学習や英語を使うことに対して積極的な感情を持っていることがわかります。子ども達にはこの気持ちを持ち続けてほしいと思います。

2011年に必修化された小学校外国語活動は成果を上げている

 「小学生の英語学習に関する調査」では、外国語活動について他にも質問しています。調査結果から外国語活動の次の3つの目的の達成状況を考察したいと思います。
(外国語活動の目的)
  • 児童が英語の音声に慣れ親しむこと
  • ことばや文化への気付きを促すこと
  • コミュニケーションへの関心・意欲・態度を育てること
 まずは「児童が英語の音声に慣れ親しむこと」について見てみましょう。授業で行っている活動について聞いたところ、「英語のあいさつ」「英語のゲーム」「英語のことば(cat,appleなど)を言う練習」「英語の発音練習」を8割以上の子どもが「いつもしている」「時々している」と回答しました。英語の音声に慣れ親しむ活動をよくしていることがわかります(図2)。
図2 学校での授業や英語の活動について②
図2 学校での授業や英語の活動について②
 次に、「ことばや文化への気付きを促すこと」「コミュニケーションへの関心・意欲・態度を育てること」の2つについて見てみます。外国語活動の中で知ったことについて聞いたところ、「身近なカタカナ語と英語の発音の違いを知った」「外国の文化と日本の文化には同じところや違うところがあることを知った」に約9割、「外国人の話を聞いて新しいものの見方や考え方を知った」に約7割の子どもが「ある」と回答しました。また、外国語活動における態度や意欲について聞いた質問に対して、「英語で話している人の気持ちや考えを理解しようとする」「わからない英語があっても続けて聞こうとする」ことに7割以上の子どもが「とても思う」「まあそう思う」と回答しました(図省略)。このような結果から、外国語活動は目的を達成し、成果を上げていると言えると思います。

小学校英語が教科になる時に大切なこと

 現在、次期学習指導要領改訂に向けて、中央教育審議会教育課程部会・外国語ワーキンググループ(以下、WG)で英語教育に関する検討が行われています。これまでに5回の検討会が終了し、「外国語ワーキンググループの検討事項に関するこれまでの主な論点(案)」(以下、論点(案))が出されました。その中で、小学校高学年の「教科型」については、以下の方向性が示されています(筆者が資料より抜粋。2016年1月12日現在)。
  • 目的 :相手意識をもって聞いたり話したりすることに加えて、読んだり書いたりすることについての態度の育成も含めた、コミュニケーション能力の基礎を養う。
  • 時間数:年間70単位時間
  • 指導者:学級担任が専門性を高めて指導、併せて専科指導を行う教員・ALTを一層活用する。
 外国語活動の成果が出ている中、小学校高学年に「教科型」の英語教育を導入するにあたり、何を大切にすべきなのでしょうか。筆者はほとんどのWGの会議を傍聴してきましたが、そこでは、年間70単位時間を週1コマ(45分授業)+週2~3回の短時間学習(10~15分の文字や音声の繰り返し学習など)で実施する案の中の短時間学習の活用について多くの時間が割かれていました。短時間学習ではコミュニケーションの時間が十分にとれないこと、場面設定や目的のない無機質な繰り返し学習が児童の学習意欲を低下させることへの課題認識などが検討委員の間で強かったように感じました。それらを踏まえて、短時間学習については、45分授業との関係を明確にして一定の効果が得られるものにすることや、イングリッシュ・キャンプなど実際に英語を使う活動としてまとめて実施することなどの柔軟なカリキュラム案が出されました。一方で、中心となる45分の授業についての議論は、少なかったように思います。外国語活動が育んでいることを引き続き大切にしながら、45分の授業の中で、「教科型」であるゆえにもっとするべきこととは何でしょうか。筆者は、短時間学習の議論の中で課題提起されたことの中にその答えはあると思います。それは、子どもが場面設定や目的のある英語のコミュニケーションを行うこと、それをできるだけたくさん行うことです。それこそが子どもの英語のスキルもコミュニケーションへの関心・意欲・態度も育てていくものになります。
 前出図2の外国語活動の中で行われていることを改めて見てみたいと思います。英語のコミュニケーション活動である、「先生の話(外国や先生のこと)を英語で聞くこと」「自分の考えや気持ちを英語で話すこと」「英語の文や文章を読むこと」「自分の考えや気持ちを英語で書くこと」の実施は、英語の音声に慣れ親しむ活動に比べて総じて低いものになっています。外国語活動の結果ですから当然ですが、「教科型」で行う場合には、これらのコミュニケーション活動をよりたくさん行っていく必要があります。
 WGの主な論点(案)では、「教科型」の指導について次のような記述があります。
  • 「聞くこと」「話すこと」に加え、「読むこと」「書くこと」の4技能を扱う言語活動を通じて、より系統性を持たせた指導(教科型)を行う。
  • 「Hi, friends!」が96%の学校で活用されており、これまでの成果・効果を生かすことを前提とし、小学校教員の理解・共有を図る観点から、今後の高学年における教科型の指導においては、「Hi, friends!」の単元構成などの基本的な枠組みを基に系統的な教科としての学習内容を設定し、具体的なイメージを共有しながら検討することが必要である。
 この2つの記述からは、「教科型」は、これまでの「Hi, friends!」を使った外国語活動に「読むこと」「書くこと」を加えればよいもののように解釈される恐れがあると思います。教科=現状の「Hi, friends!」を使った外国語活動+読み書きの指導という発想ではなく、45分の授業の中で、子どもが英語のコミュニケーション活動に、どれだけ多く取り組めるか。場面設定や目的のあるところで、子どもが自分の気持ちや考えを英語で話したり、やりとりしたりするなど、英語の音声を練習することが中心の今以上に深みのある活動を行えるか。教科だからこそ、それらがとても重要になると思いますし、教科だからこそ、子どもはスキルを磨いてそれらをうまく実行できるようになると思います。
 今後、次期学習指導要領の告示や教材が提示されるまでの間、しばらく時間があります。継続する中央教育審議会での検討もよく理解しながら、小学校や教育委員会の先生方、小学校以外で子どもに英語を教える方、保護者の方や教科書・教材制作に携わる方、小学生の英語学習にかかわるすべての方が、よりよい小学校英語の「教科型」のために行うべきことをよく考え、準備をしていく必要があります。
 「英語を使う」とはどういうことか、その意味をたずねられることが時々あります。まずは、場面や目的のあるところで、英語の意味がわかったり、通じたりすることだと思います。小学校外国語活動で「英語がわかったり通じたりするとうれしい」と小学5・6年生が答えてくれた気持ちは、小学生が英語を教科の中で学ぶ時にも第1位に上がってきてほしい気持ちです。ことばを習得するための学習は長く地道なものです。だからこそ、小学生で英語に出会った時に持った、その気持ちを中学、高校、その後の人生でも持ち続けてもらいたいと思います。

著者プロフィール

加藤 由美子
かとう ゆみこ
ベネッセコーポレーション大阪支社を経て、ベルリッツ・シンガポール校学校責任者として駐在。帰国後はベネッセ内の英語教育事業カリキュラムや講師養成プログラムを開発。研究部門に異動後はECF(幼児から成人まで一貫した英語教育の理論的枠組み)開発や東京学芸大学附属小金井小学校・外国語活動カリキュラム開発(2005~2006年)、幼児から高校生への英語指導実践研究などに携わる。英語教育が、どのように、こどもの成長や言葉の力の育成に資することができるのか、に興味を持っている。