2015/08/28

シリーズ 未来の学校 第6回 | 鳥取県智頭町の教育イノベーション、地域と共生する保護者がつくる「森のようちえん」[6/7]

「子どもたちがやりたいこと」に向き合える

 洋ちゃんはもともと、県立高校で教師をしていた。当時、まるたんぼうの次の学校をつくろうという勉強会に参加したのがきっかけで、サドベリースクールに出会った。その教育理念に賛同した洋ちゃんは、西村さんたちとの話し合いを通じて、新田サドベリースクールを設立することにした。
インタビューにこたえる洋ちゃん
インタビューにこたえる洋ちゃん
 「高校教師時代、高校生を相手に、決められた枠の中に子どもたちを押さえつけていた気がします。学ぶことへのモチベーションが低い生徒たちに、カリキュラムの中でそれを高めることに莫大なエネルギーを使っていました。自分も生徒ももっている力を大きくロスしていたように思えたのです」と、洋ちゃんは振りかえる。
 新田サドベリースクールが開校してから1年半足らず。あれもしたい、これもしたいと暗中模索の日々だが、「子どもたちがやりたいこと」に対して向き合える充実感でいっぱいの洋ちゃん。
 一方、今年の4月から始まった平日毎日型のサドベリースクールの子どもたちは全員で7名。開校初年度としては少なくないが、課題は在籍する子どもの人数だ。子どもが増えれば、実施できるプログラムも増え、多様なニーズに応えることができる。ただし、今後は「まるたんぼう」や「すぎぼっくり」の卒業生が入学する可能性も高いので、入学者数は確実に増加するだろう。
 洋ちゃんの目指す新田サドベリースクールの未来像を聞いた。
流しそうめん台を設置する子ども
流しそうめん台を設置する子ども
 「実際に米国のサドベリースクールを見たとき、広大な敷地にサッカー場やバスケットボールコート、図書室、コンピュータールーム、池、芝生などのさまざまな施設やスペースがありました。子どもたちが、その日過ごしたい場所で過ごせる環境の存在です。智頭の環境も生かしながら、そういう場所がある学校をつくりたいですね」

─ ジャーナリスト 林 信行の視点 ─

 生活や社会にITが浸透していくこれからの時代、ますます人間としての基礎力が重要になる。「まるたんぼう」は、まさにその人としての基礎力をつける場になっている。幼児の段階から過保護にされるのではなく、ときには怪我をしながら、子どもたちは学んでいく。スイスでは子どもたちにナイフを与えるという。あらかじめ、小さな怪我をするくらいは想定済みで、多少のことでは大騒ぎもしない。そんなことより、怪我は人の痛みを実感できる体験だと考えている。
 まるたんぼうで行われる人間の基礎力をつける教育が、幼児教育として始まり、そこから派生して小学校以降に広がる模様は、21世紀の教育の土台を一からつくり直しているようでとてもステキに思えた。