2015/08/28
シリーズ 未来の学校 第6回 | 鳥取県智頭町の教育イノベーション、地域と共生する保護者がつくる「森のようちえん」[4/7]
ひとり占めはもったいない!
2006年、当時鳥取県庁の職員として鳥取市内から移住してきた西村早栄子さん(以下、西村さん)。3児の母でもある彼女は、子どもにとって本当に大切なものは何か、智頭町でしかできない子育てとは何かを考えた結果、「森のようちえん」を設立することに動き出す。
「9年前に移住してきたのですが、移住した当時、森のようちえんについて書かれた『デンマークの子育て・人育ち』という本を読みました。この本を読み、個が大切にされるデンマークで毎日森に行くようちえんとは素晴らしいな、わが子もそういう環境で育てたいなあと思ったのが、まるたんぼうをつくったきっかけです」
インタビューにこたえる西村さん
移住当時、県の林業技師だった西村さんは、誰かが森のようちえんを設立するならサポートしたいと漠然と思っていたという。その頃育児休業中の西村さんは、ふたりの子どもを連れて散歩の毎日。道端に生えている花を見たり、昆虫を観察したり、のんびりした気もちで子育てができる生活は、満足感でいっぱいだった。
保護者の心の余裕は子どもに伝わる。そのおかげか、西村家の子どもたちは、あまり泣かない、ご飯をよく食べる、よく眠るという手のかからない子どもに育ったそうだ。
「こんなに素晴らしい子育てを自分ひとりでやっているのは、もったいないと感じました。だから、ここに森のようちえんをつくれば、窮屈な子育てを強いられている都会の人が移住できるのではないかと思ったのです」
森のようちえんの事業を町へ提案
2008年、西村さんは仲間とともに、親子で森を歩く「おさんぽ会」を始めた。手ごたえを感じた彼女らは、智頭町百人委員会の提案事業として行政の援助を受け、森のようちえん「まるたんぼう」を8名の園児からスタートする。
園児の数はその後も順調に増え続け、今では30名近くになっている。また、毎年入園希望者が定員を大きく上回ることから、2013年4月、まるたんぼうの2園目として「すぎぼっくり」を開園した。
開園以来、まるたんぼうの運営は順風満帆に見えるが、課題もあるという。現在、まるたんぼうの園児が総勢29名。そのうち20名が鳥取市、残りの9名のうち1名が岡山、8名が地元の智頭町から来ている。しかし、この8名のうち智頭町出身者は1名だけ。残りの7名は移住者だ。
「もともと智頭出身の子どもは1人しかいません。ここに至るまで、話題にも上り、ある程度の評価をいただいていますが、地元の人はなかなか入ってくださらないというのが課題ですね」
地元の人が少ない大きな理由は、毎日森に接してきた地元の人は森の教育的価値を感じにくいのと、まるたんぼうから地元の小学校に進学すると馴染めないのではないかと心配していると考える西村さん。ただ、それも智頭町の進取の精神によって徐々に変わっていくかもしれない。
追い風もある。まるたんぼうに附属する形で「新田サドベリースクール」が2014年4月に開校したからだ。「ようちえん『に』附属する小学校」という点でも目新しい学校である。