2015/08/28

シリーズ 未来の学校 第6回 | 鳥取県智頭町の教育イノベーション、地域と共生する保護者がつくる「森のようちえん」[3/7]

山の中で「給食」を

 森の中を2時間以上歩き、今日の目的地である西村山に登ると、ログハウスや丸太を切ってつくったテーブルとイスが置いてある広いスペースがあった。まるたんぼうの子どもと保護者たちが通うことで拓かれた場所で、後述する小学校以降に相当するまるたんぼう附属の新田サドベリースクールの子どもとスタッフたちが建てたログハウスもある。
山で給食をいただく子どもたち
山で給食をいただく子どもたち
 ここで、週一回の給食が配られる。今日のメニューは、炊き込みご飯のおにぎり、具だくさんのけんちん汁、野菜のキッシュ風など盛りだくさん。給食にもこだわりがあり、地のものを使っている。
 この素敵な山の中での給食が実現できるのも、現在育休中の智頭町で喫茶店を営む人が、山まで運んできてくれるからだ。まるたんぼうが設立されて今年で7年目、地元住民との関係も親密になってきている。
 「お店の方が、子どもひとり一人のアレルギーなどを保護者から聞き取りして、全員が食べられるメニューを出してくださっています」(山ちゃん)
 まるたんぼうでは、みんなが食材をもち寄って料理をつくる日もある。キュウリを塩もみにして食べようとなったとき、「あなた、これ食べられる?」と、1人ずつ聞いて回るようになったという。給食を通じてアレルギーの存在を知った子どもたちは、自分と違う性質の人間も世の中にいることを学んでいる。

帰りの会でまた1つになる仲間たち

妖怪朽木倒の話を聞く子どもたち
妖怪朽木倒の話を聞く子どもたち
 昼食後も、子どもたちは2時間以上歩いてきたとは思えぬほど元気に遊び回る。かくれんぼ、鬼ごっこ、相撲、木でつくったブランコ、花摘み、湧水で水遊び。そして、今日も森に別れを告げる「帰りの会」の時間になった。
 昼食の場所で子どもたちは円座になり、山ちゃんの話に耳を傾ける。今日は町に伝わる「妖怪・朽木倒(くちきたおし)」の話だ。
 「朽木倒」とは、森の中で朽ちた大きな木が倒れることを、前日に音を出して教えてくれる妖怪らしい。山ちゃんが朽木倒の話をしている間、子どもたちはこの日一番の静けさだった。隣に感じる友だちの体温で安心感を得られることも、子どもたちの大切な学びになっているようだった。
まるたんぼうを開園するときからいる山ちゃんは、今年で7年目。今では、保育士をまとめる保育主任という立場だ。最後に山ちゃんの今後の目標を聞いた。
 「まるたんぼうを長く続けることです。今いる子どもたちが大人になって、彼らがまた、自分の子どもたちを預けてくれるようなサイクルができるといいですね」
 開園3年目以降は「まるたんぼう」の入園希望者数が募集人数を上回っており、2013年4月には2園目となる「すぎぼっくり」が誕生した。今年度、「まるたんぼう」と「すぎぼっくり」が、鳥取県から「とっとり森・里山等自然保育認証制度」の認証を受けた。
 ますます、「森のようちえん まるたんぼう」の存在感は増し、今後の展開にも期待がかかる。次に、まるたんぼうの設立者であり代表の西村早栄子さんに色々と話を聞いた。