2013/09/25
シリーズ 未来の学校 第1回 | 国際バカロレア校を取り巻く動きから、教育のグローバル化を俯瞰する【後編】[4/4]
【後編】 国際バカロレア校を取り巻く動きから、教育のグローバル化を俯瞰する [4/4]
教育のグローバル化の道のり
ISAKを含め、国内で今後急速に増えていく国際バカロレア認定校への期待を、文部科学省の国際協力企画室長の永井氏に再び聞いた。
永井氏 「バカロレア認定校を200校まで広げるうえで期待していることは、大きく3つあります。
1つはグローバル人材の育成です。政府としては日本から海外への留学生数を倍増させるという目標を掲げています。バカロレアの教育を受けた学校では選択肢が広がりますので、海外へ行きたいという生徒も増えるのではないでしょうか。
次に、世界との交流です。日本から海外へ出て行くだけではなく、バカロレア導入校が国内に増えれば、海外からの優秀な留学生が増えることも期待できます。また、バカロレアが広がることで、高校だけでなく大学もバカロレアを意識するようになるはずです。大学入試がバカロレアに対応することで、やがては海外からの優れた留学生が日本の大学に集まることにも繋がります。
永井 氏
そして、3つめは、日本の教育に与えるインパクトです。バカロレアの導入校が増えれば、学びの選択肢が増え、日本のグローバル化を促進し、日本の教育全体への波及効果が期待できます」
永井氏の話からも、政府が国際バカロレアの導入にいかに力を入れ、グローバル教育の推進に対して、どれだけ本気なのかをうかがい知ることができる。一方、一回だけのテストで合否が決まる従来型の大学受験制度が改革されるまでは、高校にはその受験に向けた授業も行わなければならない現実も存在する。カリキュラムの在り方を変えるのは大学が先か、高校が先かという議論もある。しかし、21世紀を生きる子どもたちのための教育の本質を考えれば、双方がグローバルに通用する教育手法を取り入れることも必要であろう。
日本の教育がいま、大きく変わろうとしている。
編集後記
事前に聞いていた通り、ISAKは実に恵まれた環境を提供していた。子どもの心と体を開放する空間とカリキュラムが用意されていて、その意味を十分に理解している教員がいた。
さらに印象的だったのは、学校自体もコミュニティの中でリーダーシップを発揮しようとしている点だ。たとえば、ISAKは地元食材を使った食育や県立高校との積極的な交流、さらには国際バカロレア導入を検討している全国の高校関係者とのワークショップなどを行っている。これは取りも直さず、同校の掲げるリーダーシップの要素に含まれる「他者への貢献」あり、国際バカロレアの教育理念で求められている「目指す学習者像になるのは生徒だけではなく、教職員や学校自体もそうであるべき」を体現するものと言えるだろう。
このISAKのようなDP認定校を16校から200校に増やすという文部科学省の政策は、日本の教育のグローバル化がもう待ったなしであることを意味している。そして、国際バカロレアを導入するということは、暗記反復型から探索型へと大きく教育手法を転換することにほかならない。これは長い歴史の中で形成されてきた教育というOS(オペレーティング・システム)の根幹に関わることだけに、衝撃や反動は大きいかもしれない。いわんや国際バカロレアは全人教育に基づく教育アプローチであり、単に外国人教師や多様な国籍の生徒を集めればいい、という安易なものではない。道のりは決して平坦ではない。
しかし、一方で、国際バカロレアを導入する国と地域はアジアを中心に世界で急速に拡大している。無論それだけが選択肢ではないが、もしここでOSの改良や、思考方法の開放を伴う努力をしなければ、日本の教育はアジアの中でも大きく後れをとる。そして、それは取りも直さず、21世紀を生きていく日本の子どもたちの未来の可能性を狭め、不要な負担を課すことになりはしないか。
軽井沢の自然の中で主体的に学ぶ生徒たちを見て、日本のさまざまな教育課題に対する処方箋のひとつがここにあるように感じた。教育成果は生徒の学ぶ姿勢を見れば自ずと分かる。生き生きと生徒が学んでいることは、良い学校の必須条件だと思う。
ベネッセ教育総合研究所 ウェブサイト・BERD編集長 石坂 貴明