2019/12/19

教育改革のいま、「子どもの主体性をいかに育むか」【前編】非認知能力にみる主体性[2/3]

非認知能力への注目

 小泉 子どもの主体性にかかわる課題とは何でしょうか。発達段階ごとに見ていきたいと思います。
 高岡 乳幼児段階では、特定の大人との愛着関係の構築が最初の課題です。乳幼児は、愛着関係を安全基地にして、外の世界に好奇心を広げることが、主体性につながる最初の一歩になります。そのため、保護者をはじめとする周囲の大人がいかにかかわり、乳幼児との愛着関係を築くかが重要になります。
 ところが、少子化が進む中、保護者の約半数は、赤ちゃんに触れた経験がないまま大人になり、自分に子どもが生まれて初めて赤ちゃんに触れることになります。初めての子育てに戸惑い、不安を抱く保護者に対して、最初期の親子関係をしっかり築くことができるように、行政や地域における子育ての支援をよりきめ細かくしていく必要があるでしょう。
 また、乳幼児期の主体性に関連するものとして、現在幼児教育・保育では、非認知能力が注目されています。ベネッセ教育総合研究所の「 幼児期から小学生の家庭教育調査・縦断調査」では、「学びに向かう力」として、子どもの非認知能力を、「好奇心」「自己主張」「協調性」「自己抑制」「頑張る力」の5つに分類しています。これらの力は、日本の幼児教育・保育において今まで大事にされてきたものと重なる部分が大きいと思いますが、とくに「頑張る力」は、目標や目的に向って主体的に取り組む力であり、主体性を考える上でポイントになると考えています。
 小泉 「頑張る力」に注目すると、子どもは成長する中で「頑張る力」をそれなりに身につけていくのではないでしょうか。例えば、小・中・高と規則正しく生活を送る児童・生徒や、大学入試の問題が難しくても制限時間まで粘り強く取り組む受験生は珍しくありません。「頑張る力」がなければできないことだと思います。
 高岡 そうですね。一方で、大人が単に「頑張りなさい」と言うだけでは、子どもの「頑張る力」は伸びません。まずは子どもが「やってみたい!」と心が動かされるような遊びの環境設定や周囲の働きかけが重要になります。そうした場を設けられれば、子どもは遊びに熱中しながら、何度でも挑戦することができるでしょう。
 小泉 乳幼児の遊びには、経年的な変化はありますか。
 高岡 1995年以降、5年おきに実施している乳幼児の生活に関する調査によると( 第5回幼児の生活アンケート)、保育園児の増加などを背景として、平日降園後に遊ぶ相手では、母親が増加し、友だちやきょうだいが減少しています(図1)。平日の遊びの場が家庭と園に集中しており、異年齢の中で遊ぶ機会が減少しているのではないかと思われます。家庭・園以外でのさまざまな人とのふれあいを通して得られる豊かな体験をいかに補うかも、今後の課題となるでしょう。
図1 平日、(幼稚園・保育園以外で)遊ぶときに一緒にいる人(経年比較)

Q平日、(幼稚園・保育園以外で)遊ぶときは誰と一緒の場合が多いですか。

出典:ベネッセ教育総合研究所「第5回幼児の生活アンケート」(2015年実施)

高岡 純子

ベネッセ教育総合研究所
次世代育成研究室長/主任研究員
たかおか じゅんこ ●乳幼児領域を中心に子ども、保護者、園を対象とした意識や実態の調査研究、乳幼児とメディアの研究などを担当。これまで担当した主な調査は、「幼児の生活アンケート」(2000~2015年)、「乳幼児の父親についての調査」(2005~2014年)、「幼児期から小学生の家庭教育調査」(2011年~)など。文部科学省「幼児教育に関する調査研究拠点の整備に向けた検討会議」委員(2015年)、三重県「家庭教育の充実に向けた検討委員会」委員(2016年)。草加市子ども教育連携推進委員会専門部会委員(2014・2015年)、千代田区子ども子育て会議委員(2015~2017年)、多摩市子ども子育て会議委員(2017年~)、恵泉女学園大学非常勤講師(2016年)など。