2016/03/11

[第6回] 子育てのスタート期の母子を支えるために、社会全体で妊娠・出産・子育ての切れ目のない支援を [1/3]

 2015年3月に閣議決定された「第3次少子化社会対策大綱」では、妊娠・出産時期の家族支援施策として、「子育て世代包括支援センター」の設置や、産後ケアの充実が掲げられています。そこで今回は、産前産後の母親に向けた支援について取り上げます。まずは、調査より、出産後の母親に向けたサポートの実態と重要性についてご紹介します。つぎに、妊娠・出産・子育て期の母親への切れ目のない支援の意義について、福島富士子先生(東邦大学看護学部教授)に解説いただきました。最後に、埼玉県所沢市で産後ケア事業を展開されている渡辺大地さん(株式会社アイナロハ代表)に、出産後の母親のニーズや課題についてお話しいただきました。

■ 今回の課題のまとめ ■

①出産後の母親が満足できるサポートを受けることは、母親の育児への自信につながる。
②妊娠・出産・子育ての切れ目のない支援は重要である。

・出産前から、出産後のサポートについて準備をすることが、実際に受けるサポートへの満足度を高める。
・地域の中で、妊娠・出産・子育てを一貫してサポートする体制「日本版ネウボラ」の構築が必要である。
③出産後のサポートは、家族だけでなく、社会全体で担う必要がある。また、初産婦だけでなく、経産婦のニーズも踏まえ、対象に合わせたきめ細かいサポートが求められている。

1.【調査報告】出産後のサポートの実態と母親へのサポートの重要性について(ベネッセ教育総合研究所 持田聖子)

 出産後の数か月は、母親となった女性にとって、パートナーとともに「親」役割を獲得していく重要な時期です。特に産褥期(出産後6~8週間)は、母親は、十分な休息をとり、妊娠・出産をした身体を復古(妊娠前の状態に戻すこと)させることが重要です。ベネッセ教育総合研究所では、2015年に、全国の0歳の赤ちゃんを持つ母親1,500人を対象に、「産前産後の生活とサポートについての調査」を行い、出産後のサポートの実態と、その後の育児への関連を調べました。調査から、家事や育児のサポートや、母親の身体面の回復のサポートは、主に、配偶者や親などの家族が担っていること、母乳ケアや育児相談などは、家族以外の友人・知人や、保健師などの専門機関も担っていることがみえてきました(図1)。日本では、出産後の生活のサポートが、社会的にはあまり開かれておらず、家族によって担われていることが分かります。
図1.出産後の母親へのサポートの担い手
*複数回答
(出典)ベネッセ教育総合研究所「産前産後の生活とサポートについての調査」(2015年)より。
 また、出産後のサポートについて、出産前から準備をしていた母親は、出産後、実際にそのサポートを受けた満足度が、準備せずに受けた母親よりも有意に高く(図2)、なおかつそれが、母親の育児への自信につながっていることもわかりました(図3)。先行研究からも、母親の育児肯定感が高いことは、子どもにとって良好な養育環境を整えることにつながることがわかっています1)。また、充実させてほしい出産後のサポートとして、「リフレッシュしたり、休息できる機会がほしい」を挙げている母親がおよそ60%いました(図4)。
図2.出産前からの準備の有無と出産後のサポート満足度
*出産前に、各サポートを準備していた人・準備していなかった人のうち、出産後、実際にサポートを受けた人のみ。
(出典)ベネッセ教育総合研究所「産前産後の生活とサポートについての調査」(2015年)より。
図3.サポート満足度と親としての自信感「親としてそれなりにうまくやれていると思う」
*各サポートを受けた人が対象。
満足度高群:各サポートについて、「とても満足した」または「まあ満足した」と回答した人。
満足度低群:各サポートについて、「どちらともいえない」「あまり満足しなかった」「全く満足しなかった」と回答した人。
(出典)ベネッセ教育総合研究所「産前産後の生活とサポートについての調査」(2015年)より。
図4.もっと充実させてほしいサポート
*複数回答
*初産婦・経産婦別。初産婦の降順で図示。
(出典)ベネッセ教育総合研究所「産前産後の生活とサポートについての調査」(2015年)より。
 現在、晩産化・核家族化が進み、必ずしも家族からの十分なサポートを受けられる母親ばかりではない中、社会全体で出産前後の母親をサポートしていくことにより、母親が、十分に心身の休息を取り、育児ができる環境を整えていく必要があることが見えてきました。
1)ベネッセ教育総合研究所(2011)「第2回妊娠出産子育て基本調査報告書」第6章より。