2015/03/02

[第3回] 子育て支援の充実は、今なぜ必要か?何が必要か? [1/2]

 2015年度から施行される「子ども・子育て支援新制度」では、待機児童解消のための施策が注目されることが多いですが、子育て支援サービスの拡充も重要な柱の一つとなっています。そこで今回は、子育て支援について取り上げます。まず子育て支援の充実が必要とされる背景として現代の子育て環境と、消費増税が延期されたことによる子育て支援政策への影響について、大日向雅美先生(恵泉女学園大学大学院教授)にご解説いただきました。次に、地域における子育て支援の実践については若盛清美先生(認定こども園こどものもり こどもの森保育園長)にお話をうかがいました。
*内容は、2014年12月取材時点

■ 今回の課題のまとめ ■

① 乳幼児家庭への子育て支援制度は整ってきているが、子育て環境は依然として厳しい
② 子育て支援の充実は、今すぐに取り組むべき、現在進行形の課題
③ 地域の人材などを活用して、新たな子育て支援の仕組みを作ることも重要

1.子育て環境の現状と課題

大日向 雅美●おおひなた まさみ

恵泉女学園大学大学院教授。専門は、発達心理学、子育て支援、育児不安、ストレスなど。著書に『みんなママのせい? 子育てが苦しくなったら読む本 』(静山社文庫)、『悩めるママに贈る心のヒント—子育ての本音スケッチ』(NHK出版)、『「子育て支援が親をダメにする」なんて言わせない」(岩波書店)など。
 現在、国や地方自治体による子育て支援制度はかなり整ってきており、乳幼児家庭を取り巻く子育て環境は便利になってきているといえます。ただ、日本全国の子育て世代の親たちの声に耳を傾けてみると、子育て環境は依然として厳しいことがわかります。

■ 専業主婦、働く女性、ともに厳しい子育て環境

 たとえば、専業主婦は、約40年前から変わらず「孤独な子育て」に悩んでいます。ある母親は育児に携わっている今の思いを「24時間営業のコンビニを1人できりもりしているみたい」と言いました。また、子どもが将来巣立ったときに自分はどうなるのか、という出口の見えない不安を抱えている人も多くいます。ベネッセ教育総合研究所の調査では、0~2歳の子育てをする母親の約4人に1人が、子育ての悩みを相談できる人がいないと答えており※1、「孤育て」の様相が強くなっていることがうかがえます。
 一方、働く女性には待機児童問題が重くのしかかっており、都市部では妊娠中から「保活」(子どもを保育園に入れるための活動)を開始せざるを得ないような状況です。育児休業は、法律では子どもが1歳になるまで(保育園に入所できない等の場合は1歳6カ月まで)保障されていますが、保育園に入所できないからという理由で早めに切り上げる人も多数います。また、妊娠・出産前後に退職した女性正社員のうち26.1%は、保育園に子どもを入れて仕事に復帰したくても、仕事と育児の両立が難しいという理由で離職している現状があります※2

■ 子育て支援は、待ったなし

 このように、子育て世代の悩みや葛藤は極めて深刻で、すぐに手を打たなければ少子化は一層加速するでしょう。特に団塊ジュニア世代の女性はここ数年が最後の出産可能年齢と言われています。もちろん、産む・産まないの自由と選択の意思が尊重されるべきことは大前提ですが、産みたいけれど躊躇している団塊ジュニアの方々については、今すぐ子育て支援の手を打たなければ、5年遅れると毎年300万人ずつ人口が減り続けるというデータもあります※3。また、先ほどの待機児童問題など、働く女性の悩みを見ると、このままでは社会での女性の活躍も難しいと思います。
 また子育て支援は、将来の人口減少の問題である以上に、今、生まれ育っている子どもとその親に対して、現在進行形ですぐにしていかなくてはならないことです。少子化対策は1990年の「1.57ショック」の頃から四半世紀をかけて取り組まれてきましたが、ようやく2015年度から「子ども・子育て支援新制度」(以下、新制度)が始まる状況です。ですが、1990年に生まれた子は、今年既に25歳になります。このことからも、今の子どもたちへの支援をすぐに始めることの重要さがわかると思います。
※3 第3回まち・ひと・しごと創生会議 資料「長期ビジョン」骨子(案)(2014年11月6日)

■ 子育て支援には、「量」と「質」の両方が必要

 2015年春から始まる新制度では、子育て支援の「量」の拡充とともに「質」の改善がうたわれています。新制度の財源となる消費税は、2014年4月に5%から8%になりました。この3%分でできることは、主に「量」、待機児童対策です。一方「質」の拡充とは、保育者の人材確保、処遇改善や1人の保育者あたりの子ども数を減らす、研修への助成などで、あと2%の増税によって恒久財源でとる予定です。消費増税が延期された現在、8%までの増税で実現できることと、10%への引き上げを前提としたものとの区分けを明確にし、支援のスケジュールを見直す必要があると思います。(2014年12月9日取材時点)

■ 税財源だけに頼らない子育て支援を

 また今後は、このような税財源のみに頼るのではなく、地域の子育て支援を模索する必要もあるでしょう。行政、住民、NPO、企業などが、協働で新たな子育て支援の仕組みと公共空間を創り出すことも考えていければと思います。
 その一例として私が代表理事を務めているNPO法人あい・ぽーとステーションでは、2004年から地域の子育て・家族支援を担う人材の養成を行っています。この講座は、乳幼児保育・教育や地域の子育て支援に関する最新の、そして高度な内容からなり、認定後のバックアップにも注力しています。子育てひろば「あい・ぽーと」の施設内では年中無休で理由を問わないで子どもの預かりをしたり、子育て家庭等に出向いて一時保育を行ったり、あるいは子育てひろばに集うお母さんに寄り添い悩みを聞いたり、地域の子育て支援などについてご案内するひろばコンシェルジュもいます。ここにさらに2年ほど前から、定年等を迎えた団塊世代男性も加わって、まさに老若男女共同参画で地域の子育て・家族支援にあたってくださっています。地域で役に立ちたいと思っている人と、子育て中の親をつなぐ役割はこのような形でもできることを知っていただければと思います。

最後に : 子育てに「哲学」を

 これからの日本の子育て支援に必要なものは、支援の哲学ではないかと思います。高福祉で知られているスウェーデンには、「オムソーリ」という哲学があると聞きます。人生には喜びもありますが、悲しみも多い。悲しみもわかちあってこそ、人生も地域も社会も豊かになる。しかも、支えさせていただく側により多くの喜びがもたらされるという哲学ですが、私たちもここに学ぶことができればと願っております。