2017/03/22

[第3回] 自ら考える思考力を育むために大切なこと [4/4]

Q. 学校現場における思考力育成について、どのようなことが課題だと考えていますか?

A. 答えが1つではない問いや、社会の問題を扱い、教員も共に考えていくことが必要です

 学校教育では、従来、1つの正解がある課題を扱うことが多いと思います。答えが1つではない課題は、教科学習では扱いにくい上に評価がしづらく、入試でも出題されないからです。しかし、私たちが仕事や日常生活で出合う課題の多くは、正解が1つではありません。いったん答えを出せば終わりではなく、その後も考え続ける必要があることが少なくないのです。
 今後は、学校教育でも答えが1つではない課題や社会の問題を、積極的に扱ってほしいと思います。例えば、地球環境や移民、エネルギーなどの問題は、子どもはもちろん、政治家も確たる答えを持っていません。しかし、今の子どもたちが社会に出ると、市民としてこうした問題にアプローチし、解決していくことが求められます。答えが授業時間内に出なくても、意見が対立して合意を得られなくても、皆で議論して、様々な立場があることを知り、相手の考え方や価値観を尊重し、同時に事実に立脚した議論をすることが大事です。
 その際、教員も共に考えることが大切です。これまでは、教員は知識を持っていて全ての答えを知っている存在でしたが、知識はインターネットなどで容易に入手できる時代になりました。教員の頭の中や教室という閉じた情報源だけで問題を解決する必要はなく、教室を開かれた場として、教員と子どもが、様々な情報源を使って、共に考えることが、思考力を育成する上でもますます重要になっていくと思います。

【メッセージ】学校を子どもたちにとって多様な経験ができる場に

 子どもたちには、新しい経験に積極的にチャレンジし、学習やスポーツ、課外活動などで関心のあることを、とことん追究、探究してほしいと思います。さらに、それを自ら考えて見つけていけるように、“Stop and think”で、立ち止まり、振り返って、じっくりと考えて進んでいってほしいと思います。
 そして、子どもたちが質の高い経験を重ねられる環境を提供することが、学校や教員の役目だと思います。インターネットなどでも学べるようになった昨今、ますます重要になってくる学校の意義は、同年齢の子どもが集まり、かかわり合い、貴重な経験を共有することを通して、創造的・批判的思考力を培っていく場になることです。そうした経験は、子どもたちにとって、一生の宝となるでしょう。
※出典:楠見孝(2015)「心理学と批判的思考」 楠見孝・道田泰司編「ワードマップ 批判的思考:21世紀を生き抜くリテラシーの基礎」(新曜社)より
※ベネッセ教育総合研究所では、これから求められる資質・能力とその指導・評価に関する研究を行っています。【アクティブ・ラーニングを活用した指導と評価研究】