2016/01/08
[第1回] 大学教育は学びと成長を促進し、社会生活を支えてくれるのか [1/4]
山田 剛史●やまだ つよし
京都大学高等教育研究開発推進センター 准教授
神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了 博士(学術)
京都大学高等教育研究開発推進センター教務補佐員、島根大学教育開発センター講師、副センター長、准教授、愛媛大学教育・学生支援機構教育企画室准教授、副室長を経て、2015年4月より現職。専門は、高等教育研究・開発、青年心理学。研究テーマは、大学生の学びと成長を促す教育・学習環境のデザインと評価。主な著書に、『新・青年心理学ハンドブック』(2014)、『学生と楽しむ大学教育』(2013)、『大学のIR Q&A』(2013)、『生成する大学教育学』(2012)(いずれも共著)など。
神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了 博士(学術)
京都大学高等教育研究開発推進センター教務補佐員、島根大学教育開発センター講師、副センター長、准教授、愛媛大学教育・学生支援機構教育企画室准教授、副室長を経て、2015年4月より現職。専門は、高等教育研究・開発、青年心理学。研究テーマは、大学生の学びと成長を促す教育・学習環境のデザインと評価。主な著書に、『新・青年心理学ハンドブック』(2014)、『学生と楽しむ大学教育』(2013)、『大学のIR Q&A』(2013)、『生成する大学教育学』(2012)(いずれも共著)など。
Ⅰ.はじめに-2つの素朴な問い-
今回の調査における素朴な問いは、大きく2つ。1つは、「大学時代の経験は、社会生活の糧になっているのか」「糧になっているのだとすれば、どのような経験が、どのように活かされているのか」というもの。「学校から社会へ(School to Work)」というトランジションの主要課題である。社会変化の激しい中、高等教育の社会的説明責任が問われている。学習成果の可視化を含めて、大学教育の成果を示していかなければならない。また、この問いは、大学と社会の接続が必ずしも十分になされてこなかったという多くのステークホルダーの批判を前提にしている。大学在学中に学生の学習成果を直接的・間接的に示そうという試みは多くなされている一方で、学習の成果は卒業後、社会生活の中でこそ認識・発揮されるという指摘(教育効果の遅効性)もよくなされることである。しかし、機関レベルで卒業生調査あるいは雇用主への調査などを通じて卒業生の学習の成果を捉えようという試みは一定みられるものの、全国規模で社会生活への大学教育のインパクトを捉えようとする調査は必ずしも多いとは言えない。
もう1つの問いは、「大学生の学びと成長は同じか、異なるか」「両者はどのように関連し、統合を果たすのか」というもの。これは、大学教育・学習論と心理・社会的発達理論の関連として、私自身常に問いかけているものである。この問いは、「両者は本来重なり合うべきだが、現状は一定分離している」という前提に立っている。当然、学びと成長をそもそもどのように捉えるか、という定義によって異なる。実際、「学び」については、狭義・広義の議論、成長に関わる視点も含めた拡張論等、様々な立場が存在する。そうした議論には総論賛同しつつも、教育という意図的な介入(派生する主体的な学びも含め)には回収されない、学生の様々な環境への関与やそこでの相互作用、加齢とともに達せられる(ある種自然発生的な)成熟といった側面が存在すると考える。そうした認識の上で、本調査では学術的に両者を定義し、細かく調査項目として設定する、という方法は採らず、回答者自身が「学び」と「成長」という言葉をどう捉えているかという視点から、調査としては極めてシンプルに問うている。この詳細な検討については、私自身今後の研究で詰めていきたいと考えている。
この両者の問いについて、ヒアリング調査やアンケート調査の結果から見ていく。最終的には、図1のように、学びと成長は拡大化、統合化され、社会へのスムーズな移行、身につけた能力の転移・定着を促し、「幸福」の実現につなげていくことが大学教育の使命であると考える。
図1 大学教育が目指す学びと成長の促進・統合と幸福実現への接続
関連した調査として、アメリカの世論調査会社として実績のあるギャラップ社が2014年に公表した3万人以上の既卒者へのインタビュー調査がある(Gallup & Purdue University 2014)。卒業後の職業・生活における長期的な成功(主観的幸福感等)と関連する大学時代の経験・環境を調査したものである。その結果、図2の通り大きく2つ、計6つの主要要素が抽出された。1つ目は、現在急速な展開を見せるアクティブラーニング、特にPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)やインターンシップなどと親和性が高い。「経験的な」「深い学び」といった表現に示される通り、単に経験をさせるだけでなく、それが深い学びと関連づけられているところが重要である。2つ目は、「情緒的サポート」である。現在、教育の質保証政策が急速に進展しているが、それがこの教員と学生が向き合う時間を妨げるようであれば本末転倒になる可能性がある。その意味でも、人間同士のつながりを保障・強化するような方策を考えることが重要である。
図2 主観的幸福感に影響する大学時代の経験(主要要素)
【出典】Gallup & Purdue University(2014)Great Jobs, Great Lives: The 2014 Gallup-Purdue Index Report.