今月8、9の両日、東京都渋谷区の国連大学で、日本・米国・英国・カナダ・フィンランドの5カ国の専門家が集まって、「
学校教育における科学的リテラシーの現状と今後の育成方策」(国立教育政策研究所と英ブリティッシュ・カウンシルの共催)という国際シンポジウムが開催されました。科学的リテラシーとは、日本では理科の「活用」の力、と言い換えてよいでしょう。各国の専門家が一様に強調していたのは、科学的リテラシーが21世紀に生きる市民にとって不可欠な力だ、ということでした。知識の「習得」だけでなく「活用」や「探究」を重視した今回の学習指導要領の改訂も、そうした世界的な要請という観点から見ていく必要がありそうです。
科学的リテラシーが市民に不可欠だというのは、どういうことでしょうか。
これについて英ヨーク大学のロビン・ミラー教授が、わかりやすい説明をしていました。「我々はみな、科学的知識および情報の『消費者』である」と。確かに日本でも現在、食の安全・安心や生命倫理など、一定の科学的知識を基に判断し、行動することが実生活上も必要になっていることがわかります。
「消費者」のたとえには、対があります。「生産者」、つまり、科学や技術の専門家のことです。これまでの科学教育はごく一部の「生産者」を育てるための最初の段階にとどまっており、「消費者」教育を軽視してきたのではないか。これからは、生徒がより「賢い消費者」となるよう支援することを目的とすべきではないか……というのがミラー教授の主張であり、他の国の専門家にも共通した認識でありました(なお、フィンランドやカナダは日本でも注目されている国際的な学力調査「PISA(OECD 生徒の学習到達度調査)」の上位国です)。
ここで、学校教育を経て科学技術の「消費者」となった私たち大人のことを考えてみましょう。2004(平成16)年版の
科学技術白書に、興味深いデータが示されています。18歳以上を対象に、科学技術に関する知識問題を11問出題したところ、日本は17カ国中13位だったのです。国際教育到達度評価学会が1970(昭和45)年と1983(同58)年に実施した教育調査……つまり、我々が学校へ行っていた時代に行われた調査……では、小学生・中学生ともに、理科の成績が世界トップクラスだったはずですが、大人になってすっかり科学的知識がはがれ落ちてしまっている、というわけです。
シンポジウムで基調講演を行った物理学者の有馬朗人・元文相は、このデータとともに、子どもの基礎学力がそれほど下がっていないという調査結果も示しながら、「子どもの学力低下を言う前に、まずご自分の学力、大人の科学知識が下がったかどうかを判断していただきたい」と指摘していました。
指導要領が改訂されれば、早くも2009(平成21)年度から理科や数学などで「習得・活用・探究」をバランスよく充実させた授業が始まります。その際、「受験に役立つかどうか」という狭い見方だけでなく、「世の中に出て役に立つかどうか」という視点で見ることも、必要ではないでしょうか。ミラー教授はこうも指摘していました。「(賢い消費者である)『みな』の中には、科学者も含まれている」と。