2023/03/27

本当の自分の心を見つめ、誰もが幸せを感じられる社会に/佐伯 早織

様々な場所で色とりどりに活躍している20代、30代。
ベネッセ教育総合研究所では、活躍する20代、30代のメディア発信に取り組んでいる、「株式会社ドットライフ」および「株式会社ユニーク」の協力のもと、より多様で幸せに活躍する方にインタビューを行いました。
彼らのインタビューを通して、これからの社会で活躍し、「Well-being」に生きるためのヒントを探っていきます。
今回は、1歳児の育児と並行して、ライフコーチングを提供している佐伯早織さんにお話を伺いました。​
​佐伯 早織

​佐伯 早織

ライフコーチ​
1990年生まれ。北海道出身。京都大学大学院農学研究科修了後、2015年に株式会社ワークスアプリケーションズに入社。業務システムの法人営業に従事。2018年、コンサルティング会社に転職。大手企業向けの新規事業開発コンサルを担当。仕事と並行し不妊治療をしていたが、悩んだ末に2021年退職。妊娠中にコーチングの勉強を始める。同年11月に第一子を出産。2022年4月からコーチングを提供。2023年1月からフリーランスに。

​学びで世界が広がる感覚が好き

​​子どもの頃から好奇心旺盛で、読書が好きでした。自分とはまったく違う考えがあることを知って、世界が広がる感覚が好きだったんです。勉強も得意だったので、小学校の先生に勧められた中高一貫校に進学しました。​
​​中学生になると、勉強も部活も生徒会も、全力で取り組みました。どこから湧いてくるのか自分でもよく分からないけれど、自分をもっと高めたいという向上心があって、明確な目標がなくても頑張りましたね。ときには、体調を崩して親から心配されるほどでした。
高校卒業後、食べ物が好きだったのと、実学として役に立つことを学べそうだという理由から、京都大学農学部を目指しました。しかし現役では落ちてしまい、予備校に通うことに。寮に入り勉強漬けの毎日でしたね。ただ、同じ受験という目標を持つ仲間がたくさんいたので、そこまで苦しくはありませんでした。友達と一緒に勉強したり、先生や友達に分からないことを聞いたりしながら学んでいく、楽しい1年間でしたね。
​​無事大学に入学してからは、勉強をしながらアルバイトでお金を貯めて、日本だけでなく海外旅行も楽しみました。旅先では、風景を見るよりも人間観察が好きなんです。そこで暮らす人たちの生活を想像して、自分と違う人生を歩んでいることを感じると視野が広がって。自分の悩みがちっぽけなものに思える感覚がありました。

​​​キャリアを築きたい。でも子どもが欲しい​​

その後、大学院に進学し、農作物の生育状態を機械で測定して相関関係を調べる研究に携わりました。このまま研究の道に進むことも考えましたが、自分は一つのことを極めるのに向いていないと感じ、研究者よりも早く成長できる企業で働きたいと考えました。​
​​そこでインターンシップで惹かれた株式会社ワークスアプリケーションズに入社しました。仕事は法人営業を担当。営業のメソッドが確立されていて、面白そうだと感じたんです。実際に仕事を始めてみると非常に楽しかったですし、自分自身コミュニケーションが得意だということにも気づきました。数字という成果で貢献できていることも大きなやりがいでした。​
3年目に転職しました。法人営業の仕事は嫌いではないけれど、自分のキャリアを考えると早いうちに別の仕事も経験したいと考えたのです。そこでコンサルタントとして、大企業の新規事業立ち上げに携わることにしました。バリバリ働くタイプの同僚が多く、私も負けじと頑張りました。
同時期に結婚しました。これまでは仕事ばかりの生活を送ってきましたが、子どもが欲しいと考えたんです。しかしなかなか恵まれず、不妊治療を開始。すぐにはうまくいきませんでした。仕事も大変で、心身共にボロボロになっていき、退職を考えました。ただ、今まで積み上げてきたキャリアが途切れるのが怖くて。でも、子どもが欲しいという思いを優先し、思い切って退職して、妊活に専念することにしました。

コーチングで、自分の本当にやりたいことが見えた​​

​​幸いにもすぐに妊娠し、子どもが生まれた後のキャリアについて考え始めました。今までも仕事を頑張ってきたし、家庭と仕事を両立するつもりでした。しかし実際に情報を集めていくと、ママとして育児を頑張りながら、会社でやりがいをもって働く難しさを感じました。​
そこで在宅でできてやりがいのある仕事にチャレンジしようと考えました。たくさんあって迷いましたが、今までの自分の得意なことを考えたとき、デザイナーやエンジニアなどでものづくりに関わるよりも、人と話すことを主軸に仕事をしたいと考えました。ちょうどその頃、自分の内面の探求のためにセルフコーチングに興味があったこともあり、コーチングスクールに通うことにしました。
コーチングの講座では、理論を学ぶだけでなく、コーチングを受ける体験を何度もします。コーチと共にじっくり内省する中で、1人で考えても見えなかった自分の傾向や本当にやりたいことが見えてきました。もやもやとしていた悩みがスッキリする感覚がありましたね。
学んでいくうちに、自分自身もどんどんコーチングの魅力に魅せられましたね。もともと在宅でできる仕事として勉強してみたコーチングでしたが、心の底から自分の軸となる仕事にしていきたいと思うようになりました。​
​​その後、待望の長女が生まれました。子どもが生まれるとすごく愛おしくて。生まれる前までは仕事の時間をしっかり確保したいと思っていましたが、子どもの顔をずっと見ていたいという気持ちも芽生えました。子育てをしてみて、はじめて気づいた感情でしたね。そんな自分の心の変化にもじっくり向き合いました。
​​夫が子どもを見てくれる時間帯に、仕事としてコーチングの提供を始めました。相手のすっきりした顔を見られたり、感情が動く瞬間を見られたりすると、大きなやりがいを感じます。自分の天職だと思いますね。​

​​仕事と育児、両立しながら生きる幸せ​​

現在は1歳児の育児をしながら、コーチングと研修講師の仕事をしています。
​​ライフワークとしてメインにしていきたい仕事は、コーチングです。特に届けたいのは、私のようにライフイベントを機に自分の価値観がゆらいでいる人。価値観が変わる瞬間は、周りの人たちを見て不安になったり、戻りたくなったりすると思います。私も変化の中で葛藤し、「会社員として働き続けたほうがいい」といった世の中の常識に流され、自分の気持ちを見失うところでした。​
​​コーチングでは他者の言葉ではなく、「自分はどう感じているか」を大事にします。そうすることで、少しずつ本当の「こうありたい自分」への解像度が上がり、納得感をもって今を生きることができるようになります。同じ悩みを持つ人たちにコーチングを提供することで、納得感をもって自分の人生を歩める人を増やしていきたいですね。​
​​研修講師の仕事は、自分の生活を支えるためのライスワークとして始めました。法人向けのキャリア設計や会社経営に関する研修を業務委託で請けています。対話を大事にしている研修ということもあり、自身のコーチングスキルも活かされていると思います。
育児については娘が1歳になる頃に申請した保育園の審査には落ちてしまい、4月から保育園に入るまでは日中も子どもと過ごしています。ただ、待機児童として認定されたことで区の補助が受けられベビーシッターを手の届く価格で頼めるようになりました。コーチングや研修の仕事の際には、ベビーシッターを利用しており、仕事との両立ができています。
​​今、自分の人生が幸せであると胸を張って言えます。夫の協力やベビーシッターの活用もあって、仕事と育児が半々くらいの労力で、ちょうどいいバランスです。仕事についても、自分で選んだ仕事を主体的に進められていることに充実感がありますね。一方で、まだまだ自分に余力があるため、もっとコーチングを提供していきたいという目標もあります。

​学びは苦しいものではなく、楽しいもの

今後は、誰もが豊かさや幸せを感じられる社会を目指していきたいです。たとえば育児についても、つらいと思う人もいれば楽しいと感じる人もいます。その違いはどこにあるのか、私の中ですごく疑問なんです。そこには、コーチングで扱っているような物事の捉え方の問題や人とのコミュニケーション、あとは環境の問題など様々な要因があると考えます。もしそれらが適材適所でうまくピースがかみ合って、みんなが豊かさや幸せを享受できるようになったらすごく素敵だと思うんです。今はコーチングで1対1のアプローチをしていますが、今後は構造的な面にも注目して、もっと多くの人たちに届けていきたいですね。
そのためにも、学び続けていくこと、そして行動することを非常に大事にしています。理論と実践を行き来することで、社会に還元できると思うんです。特に最近は、コーチングの周辺領域であるインテグラル理論について学んでいます。分厚くて難しい本も多いので、1人で読むのではなく、コーチ仲間と読書会をしながら学んでいますね。読書会があることで、分からない部分を解消できますし、言葉にしてアウトプットすることで理解が深まっている感覚があります。
​​私にとって学びは自分の人生を楽にするために必要なものです。子どもの頃から本を読んだり、旅行をしたりして新しい知識に触れることも好きでした。学びによって、自分の生活が楽になったり、悩みが減っていったりする感覚がとても楽しいんです。たとえば、人体のホルモンについて知ると、自分の体の不調の原因や解決策が分かりますよね。学びによって、人生が豊かになる感覚があります。
だから学びについてのハードルは非常に低いです。コーチングを学び始めたとき、仕事はしていませんでしたが、今後の人生に必要だと感じたので、躊躇はしませんでした。この4月からは放送大学の授業を受け、学びを深めていきたいと考えています。
学びについて、苦しいとか、なぜするのか分からないと思っている人もいると思います。でも、学びを通して、自分の人生の可能性を広げていくことはとても楽しいことです。1人で学ぶことが苦しいのであれば、仲間と共に学ぶ道もあります。ぜひ自分のこれからの人生のために、積極的に学んでほしいですね。

編集後記

編集:株式会社ドットライフ​
ライティング:林 春花​

​​筆者が佐伯さんとはじめて会ったのは取材の半年前でした。そのときにお話を伺った際は、コーチングを提供し続けたいと考えているけれど、未来についてはまだもやもやしていると語っていました。それから半年経った今、佐伯さんの中で将来やりたいことがより明確になり、そのための学びも深めているとのこと。佐伯さんが着実に、自分の未来に向けて一歩一歩進んでいることが分かり、尊敬の念を抱きました。同時に、これができたのは佐伯さん自身がコーチングを通じて自己の内省を深めた結果なのだろうと感じました。コーチングの力を自らの人生で示している佐伯さんが、これからコーチングを通じてどんな貢献をしていくのか、とても楽しみです。​
2023年2月9日取材