中学校実践例
※文中の氏名や役職,学校名は,実践当時のものです。
2年生 数学科「二等辺三角形とその性質,直角三角形の合同条件」「平行四辺形になるための条件」(東京学芸大附属世田谷中学校 鈴木誠先生)
実践の概要
Cds#2 設定した課題に対し,調べる方法や進め方を考えることができる
[整理・分析]
Cds#11 根拠を明確にして考えをまとめることができる
[まとめ・表現]
Cds#18 相手や目的,状況に合った方法で表現・説明することができる
Cds#21 考えや結論に対して他者の考えを踏まえながら再検討することができる
Cds#22 学習した内容に基づいて,知識や考えを広げたり深めたりすることができる
Cds#2 | 証明をする際に見通しを持って方針を立てる | ||||||||||
① |
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② |
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Cds#11 | 証明の際に,根拠となる部分を明確に表現する | ||||||||||
① |
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② |
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Cds#18 | 証明の内容を他者にわかるように説明する | ||||||||||
② |
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Cds#21 | 他者の証明を見て,よい点や改善点を見つける | ||||||||||
② |
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Cds#22 | 他の条件でも同様に考えられるかを検討する | ||||||||||
② |
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生徒のふり返りの変容
- 質問1.学習のめあて(Cds)に対して,学習をふり返ってみて,何がわかりましたか。
- 質問2.今回の学習を通して,あなたは何がどのように変わりましたか。そのことについてあなたはどう思いますか。
第1に,1回目のふり返りでは,その対象が学習の内容(ここでは平行四辺形の条件等)に終始していましたが,授業の回数を重ねるごとに,めあてとなっている思考力に対する気づきを記述する生徒が多くなっていきました。中には,例えば「説明というのは,自分でわかっていても,他人に伝えられなければ意味がないので,しっかりとした定義を書くのが重要だと思った。これは数学だけではなく,それ以外の教科にもつながると思うので,一番上げていかなければならない能力だと思う」と,めあてで示された思考力が数学以外の教科にもつながることについて言及している生徒が複数おり,メタ認知が働くようになったことが示唆されました。
第2に,生徒のふり返りシートで,記述が最も多かったのは,Cds#2「設定した課題に対し,調べる方法や進め方を考えることができる」に関するもので,次に多かったのはCds#11「根拠を明確にして考えをまとめることができる」と,#18「相手や目的,状況に合った方法で表現・説明することができる」に関するものでした。Cds#2と#11は,2つの小単元に共通しているめあてなので当然とも言えますが,生徒は学習活動における自分の思考と,めあてとしたCds項目との関連に気づき,そのことに言及しているということになります。一方で,Cds#22「学習した内容に基づいて,知識や考えを広げたり深めたりすることができる」の思考は,例えば条件を変えるなどして発展的に考えることを期待していましたが,本実践の期間では十分に見とれませんでした。このような能力は数学科だけでなく,別の教科等の場面でも繰り返し経験することで,生徒自身が形成していく考え方なのかもしれません。
本実践を終えて
小単元②のジグソー法の実践は,書くことよりも相手の話を理解すること,わかるように口頭で伝えることが中心になり,探究のプロセスの「まとめ・表現」に関する活動が多くなりました。それぞれの小単元のめあて(Cds)の設定は妥当であったと言うことができそうです。
しかし,本実践は6か月間という限定的な期間で,数学科のみ,かつ図形単元のみでの取り組みだったので,生徒の思考力発揮の姿を十分に捉えられたとは言えません。授業の回数を重ねるごとに,メタ認知が働いたと捉えられる記述が増えることが観察されましたが,そのことが行動変容につながったかまでは確認できていません。生徒たちが別の単元・別の教科でも同じように思考力を発揮して,課題を解決していくことにより,より明確に変容を把握できるようになることが期待されます。
2年生 社会科「明治維新」(葉山町立南郷中学校 河野紘典先生)
これまでの単元構想と本実践の位置づけ
「以前より協働学習やプロジェクト型学習に力を入れ,1人では取り組めない単元を貫く学習課題を設定したり,学習の進め方を班ごとに任せるなどの学習活動を展開したりしてきました。本実践では,新たに授業をつくり直すのではなく,これまでの授業にCdsのどの項目が当てはまるかを検討して実践しました」
実践の概要
Cds#2 設定した課題に対し,調べる方法や進め方を考えることができる
[情報収集]
Cds#6 複数の情報を目的に沿って整理することができる
Cds#8 合理的・効率的な情報収集の方法を選択することができる
[整理・分析]
Cds#9 情報を整理し,焦点化する内容を特定することができる
Cds#11 根拠を明確にして考えをまとめることができる
Cds#12 対象や事象に対してさまざまな視点から捉えることができる
Cds#16 対象の意味や価値を捉え,そこから自分の考えを持つことができる
[まとめ・表現]
Cds#19 問題解決の結果やそのプロセスを客観的に捉え,良い点や改善点を見いだすことができる
Cds#21 考えや結論に対して他者の考えを踏まえながら再検討することができる
実践内容 | 特に育成目標とする Cds項目 |
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第1回 |
学習の見通しを立てる ・明治政府が実施した政策について班で調査を行い,最も有効だった政策はどれかを決める学習課題を理解する。 ・班で話し合って調査計画・学習計画を立てる |
Cds#2,8 |
第2~5回 |
自分たちで立てた学習計画を基に調査を進める ・自分たちで設定した計画に沿って班で調査活動を行う。 ・毎回自分たちの調査活動の状況をふり返り,教員が声かけをして計画を調整する。 ・評価基準を明確にして,ダイヤモンドランキングを活用して,評価する。 ・根拠を基に自分たちの考えを構築して,理由を添えて提出する。 |
Cds#6,9,11,12,16 |
第6回 |
自分たちの考えた結論を基に討論する ・ジグソーになり,班で導いた結論を発表し合い,どの政策が最も有効だったかを討論する。 ・討論を終えて,個人で最も有効と考える政策について,自分の考えをまとめる。 |
Cds#21,12,16 |
第7回 |
学習内容のふり返り・学習活動のふり返り ・今回の学習を通して,明治維新とはどのような時代だったのか,大観したことをまとめる。 ・今回の調査活動をふり返り,明治時代初期の日本の様子を自分なりの言葉でまとめる 。 ・学習活動についてふり返り,自分の学び方について省察して , 次回の調査活動に生かせるように具体的にふり返る 。 |
Cds#19 |
本実践を終えて
「今回は明治政府の政策を26個挙げ,日本の近代化に最も有効だった政策を考えるという探究的な学びを展開しました。生徒がグループごとに話し合って考えをまとめていく形式で進行しました。単元の終了後,Cdsに基づいて子どもの学びをふり返ると,達成できた項目と,できなかった項目を明確に確認することができました。例えば,Cds#11「根拠を明確にして考えをまとめることができる」というめあてに関しては,討論で感情論が目立つなど,十分に達成できなかったと感じました。そこで,別の単元では根拠を基に説明する大切さを繰り返し伝えたり,思考ツールを使って根拠を基に考えられるようにしたりなど,めあての達成に向けて新たな手立てを講じました。すると,グラフやデータを使って根拠に基づいて説明をする生徒が増えるなど,学習の積み重ねが学びの充実につながり,大きな手応えを感じています。
これまでも探究的な授業を行ってきましたが,今回の共同実践研究を通じて,単元や授業をふり返る視点がより明確になったと感じます。単元内で十分に発揮されないCdsの項目があれば,次の単元で改善に向けた方策を講じられるなど,授業改善は大きく前進しました。」
1~3年生 国語科「資料から得た根拠を基に意見文を書く」(明星中学校 藤井泉浩先生)
実践の概要
図3に示したように,中1単元では主に整理・分析,まとめ・表現にかかわる内容を扱っています。与えられた課題について,与えられた資料に記載された客観的な根拠を示しながら,例示された型(①課題意識,②①に対する主張,③②の根拠となる情報と論拠,という構成)に沿って,相手に伝わりやすい文章を書けるようになることを重視しました。それに対して中2単元では,課題設定からまとめ・表現までを各単元の中で広く扱いました。中1の指導に加え,課題設定,情報収集,整理・分析を生徒自らが行えるようになることや,自分なりの意見を見いだせるようになることを重視しました。中3単元ではさらに,課題設定からまとめ・表現までの探究の4つのステップを自ら回せるような探究的な課題を生徒自ら設定し,その課題について収集した情報を吟味した上で整理・分析し,構成や展開を工夫しながら自分の意見を述べることを目指しました。また,ピア・フィードバックを複数回行い,他者の指摘を踏まえて推敲できるようになることを重視しました。なお,各学年のテーマごとのさらなる詳細は,小野塚・藤井・鈴木(2024)を参照してください。
生徒の作文とふり返りの変容
- 質問1.学習のめあて(Cds)に対して,学習をふり返ってみて,何がわかりましたか。
- 質問2.今回の学習を通して,あなたは何がどのように変わりましたか。そのことについてあなたはどう思いますか。
第1に,ふり返りの記述に表れたCdsに対する意識が,3年間で一貫している生徒もいれば,途中から観点が変わっていく生徒もいたということです。例えば生徒Aのふり返りの内実を見ると,「Cds#18 相手や目的,状況に合った方法で表現・説明することができる」に対する意識が3年間継続していました。一方で生徒Bは,1・2年次に複数見られていた情報同士の関係や自分の考えの整理(Cds#10,#15,#18)に関するふり返りの記述が3年次には見られなくなり,文章を書き始める前に全体の見通しを持って進めること(Cds#2)や情報の信頼性(Cds#7)に言及するようになっていました。2年次までのめあてに対する意識は内在化され,収集する情報の適切さや,最終形を見通した情報収集や整理・分析に関する思考が発揮されていることが示唆されます。
第2に,教科横断的な思考力の目標をめあてとした実践の期間が長くなると,生徒自身の思考力発揮に関する意識がより具体的になっていくということです。意識して発揮しようとするCdsの項目が徐々に増えていき,初めのうちはCdsで提示された授業のめあての重要性に関するふり返りの記述が多く見られましたが,書くことの経験を通して具体的な方法や実感に変わっていきました。例えば前述の生徒Aは,Cds#18に対して,1年生では「意味づけ(筆者注:Toulmin 2003でいう論拠のこと)をすることでもっとわかりやすく他の人に伝えることができる」というように,わかりやすく説明することが重要であるという記述でしたが,2・3年生では「根拠となる情報をたくさん書き出す」「図や写真を入れながら説明できるともっとわかりやすく書ける」などのように,自分なりの方略に触れていました。
第3に,ふり返りの記述から,学習活動において生徒が何を意識しているかがわかり,そのことが作文の構成力や表現力の向上につながっている可能性が示唆されました。例えば前述の生徒Bの作文は,2年次の後半から特に,主張の根拠となる情報同士の関係がわかりやすく書かれるようになっています。さらに3年次には,根拠の記述の多様化,また文章の構成の工夫が見られるようになりますが,これはふり返りに見られた生徒Bの意識と合致するものです。
3年間の実践について
ただし,ただCdsをめあてとした授業を設計し,実践するだけでは,思考力の育成が実現できるわけではありません。教員が,生徒の思考力の発揮の姿を見とり,そして意識的に価値づけをしたり,同じ思考力の発揮が促されるような学習活動を設けたりするといった工夫をすることが必要であると考えます。明星中学校では,「書くこと」以外の領域や他教科,さらには授業以外での学校生活の中でも,思考力の発揮の姿を多角的に捉え,思考力の育成を行っていきたいと考えています。