2025/03/24

英語への学習意欲や英語力を向上させるために、どのようにデジタルツールを活用するか -3年間の高校生・大学生を対象としたライティング指導事例研究から-

激しい社会変化のなかで、子どもや大人の生活や学びはどのように変化しているのか。
そこに現れるさまざまな社会課題に対して、ベネッセ教育総合研究所はどのような取り組みをしているのか。
当研究所の研究員たちが、自身の研究も踏まえながら課題や展望を論じます。
ベネッセ教育総合研究所 加藤由美子
加藤由美子
 英語への学習意欲や英語力を向上させるために、どのようにデジタルツールを活用するか。この問いに対し、ベネッセ教育総合研究所は、特に学習者の苦手意識が強く、課題の多いライティング指導において、2022年度から継続的に研究に取り組んできた。研究は、津久井貴之先生(群馬大学)が実践および実践指導者、工藤洋路先生(玉川大学/22年度研究)・髙木亜希子先生(青山学院大学/23・24年度研究)が研究アドバイザー、ベネッセ教育総合研究所が事務局(計画・進捗管理、アンケート作成・分析)となり、共同研究プロジェクトの形で進めた。本稿では学習者の声から得られたデジタルツールの利点と課題、英語力を伸ばした学生がツールを使用して学習した時に行ったことなどを参考にデザインした指導介入モデルと、それを活用した指導事例について紹介する。
22年度、23年度前期の研究についてはすでに本研究コラムで紹介しているが、改めてテーマと得られた示唆を紹介する。

【22年度研究】ライティングへの意欲が低めの高校2年生が「論理・表現」の授業でGoogle DocumentやGoogle Jamboardを使用してライティング学習に取り組んだ事例研究

<得られた示唆>
  1. デジタルツールをうまく活用することで、生徒の協働性や英語のライティング学習への意識が高まり、学習態度に変容をもたらす可能性がある
  2. デジタルと紙では、ツールの違いによる指導や学習の特徴が異なる

【23年度前期研究】英語学習への意識が高い大学2年生がライティングタスクでデジタルツールを自由に使用した事例研究

<得られた示唆>
  1. 英語学習においてデジタルツールを使用する利点と課題(学生の自由記述の質的分析から浮かび上がったコード)

    【利点】
    英語のミスへの気づき、修正ができる
    学習が効率的に進む
    英語学習の不安を解消する
    素早さや正確性に優れている
    汎用性が高い

    【課題】
    英語学習への意欲や主体性が向上しない
    英語力が下がってしまうことが不安である
    ツールを使い過ぎてしまうことが不安である
    訳が不正確・不適切である

    【留意すべきこと】
    使う量や場面に気をつける
  2. GTEC Academicのライティングスコアが上昇した学生がツールの使用時に行ったこと

    翻訳を鵜呑みにしない
    翻訳と添削機能を併用する
    英語→日本語翻訳で確かめる
    新しく知った表現を覚える
    自力で英文を作成する
    自分の英語で書く
    書けそうな英語にリライトする
 2つの研究から得られた示唆を踏まえ、デジタルツールの中でもライティングと親和性が高く、中高大学生の使用率も高い翻訳や添削機能を使用したライティングの指導介入モデルを構築した。

ライティングへの学習意欲とライティング力の向上を目指す指導介入モデル

 指導介入モデル(表1)は、プロセスライティングの手法(Flower&Hayes, 1981)を援用し、中高の授業で行う言語活動を中核に据えている。CEFR A1~A2レベルの学習者(英語が苦手な大学一般教養英語履修生や中高校生)を主な対象とし、ライティングへの学習意欲とライティング力向上を目的にしている。
表1 CEFRA1~A2レベルの学習者を対象に言語活動を中核に据えた指導介入モデル
 赤字のステップでは、デジタルツールの翻訳や添削機能を活用しながら、英文のミスに気づき、新しく単語や表現を知り、自分の書きたいことをうまく表現する英文に修正する。青字のステップでは、従来のライティングで行われてきたことにツールの活用を加え、英文を自力で書き始めたり、よりよいものに仕上げたりする。これも従来から行われているが、黒字のステップでは、先生や仲間と協働した結果を活かして内容、表現・展開・構成のレベルを上げる。全体として、ツールの利点を活用して学習者自身が個別課題を解決することと先生や仲間との協働的な学びを一体化させ、ツールに依存しすぎず自律的に書けるようになっていくことを目指している。
 指導介入モデルを活用した指導事例を紹介する。

【23年度後期研究】:英語に苦手意識を持つ大学1年生へ指導介入モデルを活用した事例研究

 国立大学教育学部1年生の一般教養英語履修生26名(CEFR A1~A2レベル)が、指導介入モデルに基づくライティングタスクに取り組んだ事例である。対象の学生は英語に苦手意識を持っており、普段あまり英語学習を行っていないと考えられる。詳細は2024年8月全国英語教育学会第49回福岡大会で発表した内容を参照いただきたい。
 授業前後(10月-1月)でGTEC Academicのライティングスコア(満点250)の学生(受験者25名)の平均スコアは103.3から119.6に上昇した。スコア上昇が30以上の学生は6名(24.0%)、15~29の学生は8名(32.0%)、0~14の学生は5名(20.0%)、-5~0の学生は6名(24.0%)であった。
 授業後のアンケートで、各ステップへの感想や考えについて質問した回答(自由記述)には次のようなものがあった。
【STEP2:自力で書く/DeepLで日本語→英語に翻訳することを一部行う】
  • 指示の段階で「ツールを使ってもいい。ただし最初は自力で」と言われると、英文作成へのハードルが格段に下がってとても書きやすかった。
【STEP3:英文を修正する/DeepL Writeで添削する】
  • まずはいったん書いてみるという意識を持って書けるようになった。そのおかげで英文を書く施行回数が増え、以前よりも上達できた。
  • 候補がたくさん出てくるのでどれにすれば自分の伝えたい内容になるのか吟味するのが大変だった。
【STEP4:英文を修正する/DeepLで英語→日本語に翻訳する】
  • 日本語に訳すと伝えようとしていることと実際書いている文章に相違があることがわかった。
【STEP5:ペアでアドバイスし合う】
  • フィードバックの時間では、書いている内容自体は違っても参考にできる点は多々あり、最終校正の際に役立った。
【STEP6:最終原稿を完成する/DeepL・DeepL Writeを使用する】
  • 発表を意識してライティングすることが大事だと思う。
指導介入モデルだけの効果だと言い切れるものではないが、モデルに基づく指導は、英語に苦手意識を持つ学生のライティングへの意識や行動に肯定的な影響を与え、ライティングスコアを上昇させたと考えることができる。授業後のアンケ—ト(N=25)で、「ツールをどこで何のために使うとよいか考えるようになってきた」ことを「とてもそう思う」と回答した学生は8人から19人に増えた。一方、課題として、STEP3やSTEP6でDeepL Writeが出力した修正候補から適切なものを自分で選ぶことができない学生や、STEP5のpeer reviewにおいて、タスクの目的を理解せず的を外したコメントをしている学生が存在することも確認された。

【24年度】:英語に苦手意識を持つ高校1年生へ指導介入モデルを活用した事例

 公立高校1年生114名(CEFR・A1~A2レベル)が、「論理・表現Ⅰ」の授業(2024年11月~2025年1月で計7回)で指導介入モデルに基づくライティングタスクに取り組んだ事例である。公立高校の英語の先生が授業で翻訳や添削ツールを試験的に使用してみるというものであった。結果を速報として紹介する。
 授業実施後のアンケート(=112)では、「自力で英語を書いてみようという気持ちが高まった」95.0%、「ツールを使うと自力でも書きやすくなった」94.0%、「自力で英語を書く力が上がった」82.2%(「とてもそう思う」「まあそう思う」の合計)という結果であった。指導介入モデルに基づくライティングタスクにおいて、生徒は自力で英語を書いてみようとする意識や書きやすさの高まりを感じたようである。
 授業後のアンケートで、デジタルツールを活用した英語の授業や学習への感想や考えについて質問した回答(自由記述)には次のようなものがあった。
  • デジタルツールを使うことにより、自分の言いたいことが少し変換されてしまったことがデジタルの難しさだと思った。その反面、新しい単語や文法などを知ることができたから、とても便利で役に立つなと思った。これからもツールを適度に使いたいと思った。
  • ツールを使うと自分だけでは表現できなかった文や単語に直してくれて、よりよい文章になるし、自分の知らなかった単語や表現の仕方が身につくのでとてもよかったと思う。
    その反面、以前はわからないと自分の知っている単語で補っていて今も大体はそうしているけれど、DeepLを使って調べてしまうことが以前よりは多くなった気がする。便過な分頼り過ぎてしまう部分もあるなと感じた。
 生徒はツールの使用による効果を感じている一方で、使い過ぎに気をつける意識も持ったことがわかる。筆者が授業観察をした際、この事例でもDeepL Writeがアウトプットした修正候補からどれを選べばよいのか迷っている様子が見られた。またSTEP1では十分な時間を取り、書く内容について考えることが必要なことも課題として感じられた。

生徒・学生が英語への学習意欲と英語力を向上することを目指して

 2つの事例研究において、翻訳や添削機能を持つデジタルツールの活用を組み込んでデザインした指導介入モデルの効果はある程度確認された。デジタルツールを使うことで、英語でミスをしたり、書けなかったりする不安が軽減され、自力で書いてみることの意識が高まったようである。また、効率的に文法や単語のミスに気づいたり、新しく単語や表現を知ったりしながら、自分の伝えたい内容をよく考えて英文を修正するようになった様子も見られた。「ツールをどこで何のために使うとよいか考えるようになった」という意見が増えたことやツールの使い過ぎに注意するという意識が高まった可能性には注目しておきたい。
 しかし、異なる学習者を対象にした場合、同じような結果が得られるかは不明である。学校や学年、英語学習への意識や英語力が異なる対象でより多くの事例を積み重ね、モデルを改善していく必要がある。その際、今後期待されるのが生成AIの活用である。STEP1で書く内容を考えること、STEP3やSTEP6で添削機能が出した修正候補から選ぶこと、STEP5でタスクの目的に沿ったアドバイスを得ることなどの課題解決には、生成AIの機能が活用できるだろう。
 3年間の研究を経てベネッセ教育総合研究所としての本研究プロジェクトは終了する。しかし、翻訳・添削・生成AIが日常に入り込み、罪悪感や後ろめたさを持ちながら使用する学習者、自らの役割や指導内容は変化すべきだと考えながら迷い苦しんでおられる先生方の両方の気持ちに寄り添いながら、指導介入モデルを改善し、活用する研究は継続する。指導介入モデルを活用した授業実践を希望される複数の中学・高校では、2025年度に向けて準備が始まっている。その仲間に入り、新しいチャレンジをしたいと思われる先生は、この研究を主導していかれる津久井貴之先生(群馬大学)・髙木亜希子先生(青山学院大学)にぜひご連絡いただきたい。

<参考文献>

ベネッセ教育総合研究所(2014).「中高生の英語学習に関する実態調査2014」
https://benesse.jp/berd/global/research/detail_4356.html
ベネッセ教育総合研究所(2024).「小中高校の学習指導に関する調査2023ダイジェスト版」
https://benesse.jp/berd/shotouchutou/research/detail_5927.html
Hayes, J. R., & Flower, L. (1981). A cognitive process theory of writing. College Composition and Communication, 32(4), 365–387. https://doi.org/10.2307/356600
加藤由美子・津久井貴之・細井夏木・髙木亜希子 (2025). 「大学生の英語ライティング活動におけるデジタルツール使用の実態と意識の変化」.『中部地区英語教育学会紀要』第54号, 193-200
森和憲・ジョンストン・ロバート・佐竹直喜 (2016). 「機械翻訳を利用した英文ライティング指導について-高専における一事例-」.『四国英語教育学会紀要』第36号, 75–84.

プロフィール

加藤由美子
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
かとうゆみこ
専門は英語教育研究(乳幼児から大学生)。 株式会社ベネッセコーポレーション入社後、Berlitz Singapore学校責任者として駐在。帰国後はベネッセグループの英語事業開発を担当。研究部門異動後はECF開発やARCLE事務局立ち上げを担当。これまで英語教育・学習に関する量的・質的研究、英語力を伸ばしている学校・自治体の研究、言語能力・思考力に関する研究に携わる。現在は、英語教育・学習におけるICTやAI活用の研究に取り組む。
https://benesse.jp/berd/aboutus/member.html#0203