GROWING AMBITION FOR HIGHER EDUCATION. ベネッセ教育総合研究所「高等教育の未来を考える会」

学生よ野望を抱け 希望ある未来を描く大学教育ビジョン ベネッセ教育総合研究所
「高等教育の未来を考える会」

SCROLL

創造性を育てる大学教育へ

未知を探究し、新たな価値を創り出す創造性を育むことは、教育の大きな目標のひとつだ。人は未知の探究を通じて歴史を変える様々な発見をし、文化や時代を築いてきた。

偉大な先人の発見を礎とし、人類の叡智を生かすために、知識を学ぶのは大切だ。解き明かされた知識を生かすことで、人は初めて新しいことを考えられるのだから。しかしこれからの教育は、これまでに蓄積された知識を生かし、答えのない未知への探究方法を学ぶことも大切であると、多くの教育者が発信している。問題は、具体的にそのような探究ができる場をどのようにつくるかだ。

世界的に見ると、日本の学生の基礎学力は高い。知識の習得という面では、日本は一定の成功を収めてきたと言えるだろう。けれども教育が答えの確認だけにとどまれば、学生はそこから未知への向き合い方や試行錯誤のプロセスを学ぶのが難しくなる。

日本の学生たちは、未来を自分で創る自信を失っているという。これまでの日本の教育は、基礎学力を育成することに成功した一方で、未知の発見から答えを導くことへの自信を失わせる原因を、どこかでつくっているのかもしれない。

未知を観察する方法や、新たな答えに出合う発想パターン、あるいは自分の可能性を信じる力や、自分が社会とつながる実感は、学ぶことができるものだと私たちは信じて、この提言を記している。だが実はこうした本質的な学びは、学校教育の外での経験によって得られているのではないかとも考えてしまうのだ。だとすれば学校外で偶然にもそれを身につけた人とそうでない人の間に、社会の中で大きな格差が生じているのではないか。この格差をなくし、未来を創る学生を育むために大学教育の役割は重要だ。

野望を抱く学生が育まれる場とは

未知を探究する勇気や創造性を養うカリキュラムを取り入れるには、どうすればいいだろう。大学教育には本来、未知を発見する観察と、新たな答えを発想する試行錯誤のプロセスが必要だ。学生が自分で観察し、自分で問題や課題、または、自分の関心事を発見すること。その関心から自分でテーマを立て、自分で決定すること。あるいは学生が様々な社会経験を得て、多様な人々や学びと出合う経験を、大学はアシストできるはずだ。こうした自身の創造性の発揮を積み重ねて、学生は初めて「自分が社会を変えられる実感」を得るのだろう。現在の大学教育に、学生自身の好奇心と観察による発見、そして遊び心を加えれば、創造的な学生はきっと育つ。

そんな創造的カリキュラムを提供できるなら、学生たちは荒唐無稽な未来を語り、実現に向けて動き始めるのではないだろうか。大志と呼ばれるそんな意志を、私たちはここであえて「野望」と呼びたい。そして、自分の中で芽生えた野望は、自分自身だけでなく、家族や友人など周りの人々、さらにその先の地域や国、そして世界につながることで変革を起こし、自分自身も含め世界のWell-beingにつながるはずだ。

社会の変化はますます激しくなっている。変化を阻止する同調圧力を乗り越えて、勇気を持って自身の大きな志を宣言できる、野望とも言える強い心の火を灯した学生を育む場を目指そう。

まずは大学を、希望に満ちた野望を胸を張って言える場にしよう。その野望を他の学生や教員が応援し、育むことができる場にしよう。その最初の一歩を踏み出せる場にしよう。そして失敗を笑われない、積極的に失敗に向き合える場にしよう。そんな経験から学生が自己成長する場にしていこう。

野望を養う場になるヒントを、この提言に記しておきたい。この提言が、創造の場としての大学を考えるきっかけになることを願う。

野望とは

自分や社会の未来をつくる大志に満ちた夢を持つこと。

今を前提としない大きな未来にもひるまず挑戦する気持ち。

自分だけでなく社会の未来を共に創造し、未来に自分自身が歩む道をデザインする意志を持つこと。