2018/06/01
あスコラ Vol.10『幸せになるための学びとは!?』
「あスコラ」とは
さまざまな領域の専門家が一堂に会し、熱い議論を繰り広げる“一期一会の小さな学校”、あスコラ。
それぞれの知見や経験、思いを語り合い、納得したり、刺激を受けたり、新しい発想が浮かんだり——。
教育に本気で向き合う大人の議論によって生まれる学びの場の様子をお届けします。
それぞれの知見や経験、思いを語り合い、納得したり、刺激を受けたり、新しい発想が浮かんだり——。
教育に本気で向き合う大人の議論によって生まれる学びの場の様子をお届けします。
登壇者(五十音順)
徳田ひとみ氏
国として独自の指標「国民総幸福量(GNH)」を掲げるブータン王国と日本との架け橋になる活動を展開する、在東京ブータン王国名誉総領事。
前野隆司氏
「幸福」についての学術研究を行う、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長、教授。
佐藤徳紀氏
ベネッセコーポレーション入社後、中学生向け理科教材開発、初中等教育の調査研究を経て、「あスコラ」事務局長も務めるベネッセ教育総合研究所研究員。
コメンテーター
林信行氏
最新テクノロジーが暮らしにもたらす変化を伝えるITジャーナリスト(「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)
「豊かな人生」とは
ベネッセ教育総合研究所
石坂編集長
石坂編集長
石坂 「あスコラ」にお越しいただき、ありがとうございます。
2020年度より、小学校・中学校・高等学校で順次実施される「新学習指導要領」には、その前文から教科教育の詳細に至るまで、注目すべきポイントが多々あります。今回は、小学校における新学習指導要領の前文を紹介させてください。
この前文では、まず、教育基本法第1条で掲げられている教育の目的、同法第2条で掲げられている5つの教育目標について言及されています。その後に挿入されているのが、下記の文章です。
これからの学校には,こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ,一人一人の児童が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。
出典:文部科学省『小学校学習指導要領(新学習指導要領)』(2017年) 前文より一部抜粋
赤太字は「あスコラ」事務局で編集
赤太字は「あスコラ」事務局で編集
教育基本法にある教育の目的や目標はさることながら、この学習指導要領の前文にも、教育を通じて目指すことや学校の果たすべき役割が表れています。
では、学校教育が目指す「豊かな人生」とは何なのか。「豊かな人生」という言葉は多様な解釈ができますが、私は「一人ひとりがそれぞれの幸福観をもって生きられる人生」に近しい概念ではないか、という仮説を持っています。そこで今回の「あスコラ」は、「幸福」の本質や、幸福になるために必要な学びについて議論したいと考えています。ゲストには、幸せの国といわれるブータン王国名誉総領事の徳田ひとみさんと、幸福学の研究をされている慶應義塾大学の前野隆司さんにお越しいただきました。
まず徳田さんに伺いたいのですが、どうしてブータン王国は「世界一幸せな国」といわれているのでしょうか?
国民の「幸福」を追求する国、ブータン王国
在東京ブータン王国名誉総領事
徳田氏
徳田氏
徳田 ブータン王国名誉総領事の徳田と申します。ブータン王国(以下、ブータン)は、私が名誉総領事に任命された2010年頃、日本ではまだあまり知られていない国の1つでした。2011年11月に現国王が国賓として来日されたことがきっかけで、日本での知名度が上がったように思います。
「世界一幸せな国」とメディアで評されることの多いブータンですが、正確にいえば、「国の最大の目標を国民の幸福追求に置いた国」という表現が適切です。現国王は、「国民総幸福量(GNH:Gross National Happiness)」を政策のスローガンとして打ち出し、国民が一番幸せである国を創ろうとする理念を示されています。国として国民の幸福を追求する姿勢や指標を明示したのは、世界的にみてもブータンが初めてだと思います。このGNHという概念を発信することにより国際社会における独自の存在感を高め、軍事力ではない手段で、九州ほどの面積しかない小さな国を守っている、と私は解釈しています。
GNHの4つの柱
出典:徳田氏投影資料
他国と比較してブータン国民が幸せなのではなく、国民が一番幸せになる状態を目指して国を発展させているという理解が正しいのではないかと思います。
石坂 ありがとうございます。GNHという考え方、非常に興味深いです。国全体としてブータンが目指すように、日本の学校教育において一人ひとりが「幸福」になることを目標の1つとするならば、「幸福とは何か?」を改めて考える必要があるのかもしれません。
幸福学を研究対象とされている前野先生、「幸福」とはいったい何なのでしょうか?
「幸福」をめぐる学術研究の動向
慶應義塾大学大学院システムデザイン・
マネジメント研究科委員長、教授 前野氏
マネジメント研究科委員長、教授 前野氏
前野 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野です。以前は、「物質的な豊かさを追求すれば、幸せになれるはずだ」と考え、ロボットやヒューマンマシンインターフェースの研究を行いながら、エンジニアとして働いていました。しかし、高度成長期を過ぎても「幸せになった」とはいえない現実を目の当たりにして、10年ほど前から、幸福学や感動学といった領域の研究にシフトしています。
幸福学という学問は、まず「個人の幸福」を研究するところから始まりました。アンケート調査を通じて、どのような状況にある人が幸せなのかを明らかにしていったのです。その後、幸せになる因果関係が研究されるようになりました。そこで注目されたことの1つが、自分を犠牲にしてでも相手の利益を重んじる姿勢を指す「利他的」という概念です。「利他的な人が幸せになるのか、幸せな人が利他的になれるのか」という問いを立てた研究が行われ、両方向の因果関係がある、つまり「利他的な人は幸せになるし、幸せな人は利他的になる」と結論づけられました。
ここ数年は、心理学などの分野の研究として、「幸福」に関するさまざまな調査データが分析されるようになりました。データ分析を通じ、「幸福」について過去の哲学者たちが考えてきたことが、おおよそ実態に即していたことが分かってきています。私の研究室でも、独自アンケートの結果を因子分析という手法で解析し、「幸せの4つの因子」というモデルをつくりました。
幸せの4つの因子
出典:前野隆司『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書 2013年、P.104~110)をもとに「あスコラ」事務局で作成
この4つの因子は、日本人1,500人の回答から導き出されたものなので、普遍的なものではありません。しかし、現代を生きる日本人が持つ「幸福に寄与する心的因子」の傾向として、参考になると思います。
石坂 ありがとうございます。我々の研究所がこれまで行ってきた調査にも、子どもたちの幸福感を聞いたものがいくつかありますので、佐藤研究員から紹介してもらいたいと思います。
日本の子どもたちの幸福感にまつわる調査
ベネッセ教育総合研究所
佐藤研究員
佐藤研究員
佐藤 ベネッセ教育総合研究所の佐藤です。入社後に自身が携わっていた教材開発や、さまざまな教育関係者との意見交換、そしてこれから紹介する調査結果などから、「子どもの幸福につながるものは、学校段階での学び以外にもさまざまな要素がある」と感じています。
まずご紹介するデータは、小学4年生~高校3年生まで各学年1,000人以上の子どもに回答してもらった、「子どもの生活と学びに関する親子調査2017(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所、2017年7~9月実施)」です。「自分は今、幸せだ」と思うかどうかを尋ねたところ、「そう思う」(「とてもそう思う」+「まあそう思う」)の割合の学年差は小さいが、「とてもそう思う」と答える人の割合は、学年が上がるのに伴って減少しています。また、「自分は将来、幸せになれる」についても、同様の傾向がみられています。
一方で、大学生を対象とした「第3回大学生の学習・生活実態調査」における社会・就労観をご覧ください。「そう思う」(「とてもそう思う」+「まあそう思う」)の割合がもっとも高いのは、「家族など身近な人の幸せを大切に暮らしたい」、続いて「暮らしは人なみでも、安定した仕事をしたい」、「自分の将来に不安を感じる」という結果でした。
大学生の社会・就労観
「第3回大学生の学習・生活実態調査」
(ベネッセ教育総合研究所 2016年)
(ベネッセ教育総合研究所 2016年)
調査概要
- 調査テーマ:大学生の学習・生活に関する意識・実態をとらえる
- 調査方法:インターネット調査
- 調査時期:2016年11~12月
- 調査対象:大学1~4年生(18~24歳、日本在住)
- 調査項目:高校での学習/大学選択で重視した点/入学時の期待/大学生活で力を入れたこと/大学生活の過ごし方/履修科目数/評価/教職員との交流/保護者との関係/友だち関係/大学教育観/学びの機会/学びに対する姿勢・態度/大学生活で身についたこと/海外留学の意向/進路意識/建学の精神やポリシーの認知/大学生活の満足度/学びの充実/成長実感/社会観・就労観/投票行動 など
身近な人や自分の幸福を望む一方で、将来に不安を抱えている大学生の姿が浮き彫りになっているといえるでしょう。対照的に、「リスクを冒しても、常に高い目標にチャレンジする仕事をしたい」や「世界をフィールドに活躍したい」について「そう思う」という回答は、他の回答と比べ低い結果となりました。挑戦することに対しては主体的ではないように見受けられます。このような傾向は日本だけなのでしょうか。
文化や言語によっても異なる幸福感
前野 たとえば、幸福度を10段階の尺度から選択する調査の場合、東洋人は西洋人に比べて低めの数値を選択する傾向にあります。これは、東洋人の持つ謙虚さのような、文化的な慣習がその一因です。また多言語による調査では、どのような訳語かによって回答にも影響を与える可能性があります。このように、文化や言語といった要素もアンケートの回答に影響を及ぼしうることを認識しておく必要はあるでしょう。
だからこそ、世界幸福度ランキング(World Happiness Report)などの調査結果についても、幸福について考える1つの指標として捉えることが肝要だと思います。
佐藤 確かにそうですね。私は、日本の子どもたちは成長とともに他者と比較される軸が、勉強やスポーツなど評価が分かりやすいものに限定される傾向があると思います。そのため、「とても幸せだ」と感じにくくなるのではという仮説を持ちました。大学生においては、本来そういった限定的な評価軸を打ち破るような学びや挑戦をしてほしいのですが、そうはなっていないとも読み取れます。もしかすると、成長とともに多様な幸せを感じられる素養を持ちながらも、不安を前に安定志向となり“あきらめ”てしまっているのかもしれません。2つの調査から、その若者の考え方に大きな影響を与えている経験は何なのかを考える契機にもなりました。
石坂 データはあくまでもデータであり、そこから「真実」を読み取るには背景もふまえてデータを読み解くことが必要だ、ということですね。
ところで、定量データは1つの指標だとすると、アンケート調査には反映されない、皆さんのご経験などをふまえて考える「幸福」の定義はどのようなものでしょうか。ぜひお聞かせください。
登壇者の経験から考える「幸福」
徳田 改めて、「幸福」って非常に難しい概念だと感じます。哲学的に考えると、分厚い本になってしまうくらい奥が深いものでしょう。個人的には、「嬉しい」「楽しい」と感じられることが起こったら、それが幸せではないかと感じています。
ブータンと日本の両国をみる立場として興味深いのは、「幸福」を感じるときの対象範囲の違いです。石坂さんが紹介された文章や佐藤さんが紹介された調査結果は、「自分がどう感じるか」という視点で述べられているように思います。一方ブータンでは、自分だけでなく、周りの人が幸せかどうかも重視する傾向にあります。これには、ブータンで広く信仰されているチベット仏教も深く影響を与えているのでしょう。家族と一緒にいるときはその家族が、友達と一緒にいるときはその友達が、それぞれ幸せであって初めて、自分も幸せになるという考え方です。こうした公共性のある感性を養うことは、とても大事だと思っています。
ITジャーナリスト 林氏
(あスコラボードメンバー/コメンテーター)
(あスコラボードメンバー/コメンテーター)
林 「あスコラ」ボードメンバーの林です。私は、幼い頃にヨーロッパや南米でのびのびと育ち、小学3年次に日本に帰国しました。当時、小学校3年生という年齢ですでに、周囲に合わせることがかなり求められる日本の学校文化に驚きました。たとえば人気テレビ番組を見ていないと、話が合わないからと学校でのけ者にされるんですよね。ですから、みんな適応しようと努めるんです。画一的な場所ではなく、児童や生徒の自由な生活やコミュニティのなかに「幸福」があると、私は実感しました。
前野先生からあった「利他的」というキーワードに関連して、おもしろい事例を紹介させてください。かつて、失敗や後悔をつぶやく「リグレト」というコミュニティサービスがありました。匿名でつぶやかれた失敗や後悔に対して、「リグレト」に集まった人たちが慰めてあげることで、その悩みが成仏するというコンセプトです。このサービスにおいて、実は慰める側の人が一番幸せになっている、といわれていました。もちろん、慰められた側も幸せになっているのですが、それ以上に、慰める側の方が幸せを感じていたというのです。まさに、「利他的な人が幸せになる」事例ですね。
前野 かつてJICAの活動でブータンを訪れた人が、「あなたが本当に困ったときに頼れる人は、何人いますか?」とブータン国民に聞いて回ったところ、平均が50人という驚きの結果だったそうです。日本では、過干渉な村社会に嫌気がさして都会に出て、隣に誰が住んでいるかも分からない環境で老後の不安と戦いながら生きている人が少なくないと思います。一方のブータンは、経済的には決して豊かではありませんが、50人で助け合って生きているわけです。
インターネットが発達した現代社会だからこそ、テクノロジーをうまく活用しながら、いろんな国の考え方や文化をもっと取り入れることができると感じています。それは、ブータンのような「相互扶助」かもしれないし、西洋のような「自由に生きるよさ」なのかもしれません。
林 私はTwitterのフォロワーが30万人ほどいるので、インターネットを介して常にいろいろな人と会話をしますが、特にソーシャルメディアは比較や競争を加速してしまう側面もあるように思います。匿名でのやりとりが多いので、自分のことは棚に上げて他人を批判し、批判された側もそれに反論するという、誰も幸せにならない状況を見かけることもあります。そういう状況に陥るならば、ソーシャルメディアから離れた方が賢明かもしれないですね。
結局のところ、「幸福」の感じ方は人によって異なるのだと思います。同じ出来事が起こっても、それを幸せだと感じるか、そうでないかは、その人次第ではないでしょうか。
子どもが自分の強みを見つけ、「幸福」を感じやすくなる環境を
石坂 「幸福」を感じやすくなる条件や考え方のようなものは、あるのでしょうか? もしあるならば、どのような学びで身につけることができるのでしょうか?
前野 日本の教育に欠けているのは、本当の自分の強みを見つけ出せる環境だと感じています。先に紹介した「幸せの4つ因子」にあてはめると、「やってみよう!」因子につながる自己肯定感、「あなたらしく!」因子にあたる自分らしさという側面が弱いのです。今の教育システムは、教科学習に長けている子どもたちにとっては、自分の強みを見つけやすくなっています。しかし、たとえば「優しさ」や「思いやり」という強みを持っている子どもたちは、それがどれほど素晴らしくとも、成績表の端っこで少し言及される程度です。教科学習に長けている子も、「優しさ」や「思いやり」がある子も、同じように素晴らしいということが分かる環境を整えることで、子どもたちはより「幸福」を感じやすくなるでしょう。
佐藤 2020年度以降の新学習指導要領実施を見据えた教育改革では、「多面的評価」が1つのキーワードとして挙がっています。つい「どう多面的に評価するか」という議論に傾倒してしまいがちなのですが、「なぜ多面的に評価する必要があるのか」に立ち返って考える必要もありますね。
前野 多様な観点から「自分の強み」を見いだした後は、さまざまな強みを持つ他者を尊重し、愛することが大切になります。自分の個性を生かすだけでなく、他者の個性も尊重して生かすことが、さらなる「幸福」につながるのです。そこには、ITの力を活用できるかもしれません。
林 先ほどはソーシャルメディアの負の側面について話しましたが、ITには一人ひとりの個性を生かした教育の手助けができる力もあると思っています。1人の先生が、多様な観点で子どもたちの強みと可能性を引き出すことを一手に担おうとしても、限界があるでしょう。そうしたときに、AIが子どもたち一人ひとりの個性を把握し、可能性を引き出すものは何かを示唆する、先生のアシスタントのような役割として機能することができると考えています。
道徳教育の教科化を見据えた期待
石坂 小学校では2018年度、中学校では2019年度から、それぞれ道徳が教科化される運びとなりました。これに伴い教科書と評価が導入されますが、道徳の授業を通じて特定の価値観を押しつけることは本意でないため、現場の先生方は教え方や評価の仕方に苦労しているといわれています。
前野 個人的には、これまでの道徳教育では、「いい人になりましょう」という価値観を押しつけられてきた面があるということを否定できないと思います。なので、今後は幸福学や人間学としての道徳教育に拡張して、「人と調和することが幸せにつながるんだよ」とか、「幸せになりたければ、みんなと一緒にいた方がいいよ」と伝えられる場になることが理想的だと考えています。
教え方についても、これまでは「悪いことはしてはいけない」と教える場面が多かったと思うのですが、「こうするとよりよくなる」というポジティブな方向性も重視すべきと感じます。ちなみに倫理学では、前者を「予防倫理」、後者を「志向倫理」と呼んでいます。「志に向かうためには、どうすればよりよくなるのか」と考える方が、教わっている側も希望が持てますよね。
佐藤 前野先生に示していただいた「幸せの4つの因子」に基づくと、「主体的ではなく、やらされ感のある学び」は幸せではない、ということになります。だとすれば、道徳教育が「教える側が期待する正解を言わなければならない」ような学びになってしまうと、それだけで「幸福」から遠ざかってしまいますよね。「自分や周囲の人たちが幸せになるための考え方」を学ぶというような目標感を共有できるといいですね。
徳田 ブータンの教員には、教科教育を通じて生徒たちに「人間教育」をすることが求められます。それは、道徳のような教科だけでなく、算数や理科といった教科においても同じです。
私は、教育というのは、「負の感情」をコントロールできる人間を育てることだと思っています。「負の感情」とは、たとえば誰かを妬む感情であったり、他者を思いやることなく、自分の欲求のみを優先する感情であったりします。科学の進歩は次世代につなげていくことができますが、人間の「負の感情」をコントロールできる力は一代限り、一生を通して学び体得していくものです。日本の道徳教育においても、「負の感情」をコントロールできる力、他者を思いやり、共に生きる力を一人ひとりに身につけさせることが、子ども自身やその周囲にいる人たちの「幸福」につながっていくのではないでしょうか。
林 そうした教育を実践するためには、授業という限られた場所や時間に閉じない体験をさせた方が、子どもたちの学びにつながりやすいと思います。授業でいくらロールプレイングをしても、実生活での経験には敵わないですよね。授業外でもいろんな経験を積み重ねていくことが、「負の感情」をコントロールし、利他的な人間となることにつながるのではないでしょうか。
石坂 人が幸せになるために道徳を学ぶとするならば、他国の事例や学術研究を参考にして「どうすれば幸せになれるのか」を考える機会も必要でしょうか。そして、幸せになるためのアプローチとしては、道徳の授業に限らず、子どもたちが他者と関わりながらさまざまな経験や自由な思考ができる場作りが求められていきそうですね。
本日は、ありがとうございました!
主宰者より御礼
「幸福とは何か、どこにあるのか」を考えた「あスコラ」でした。
幸福観も社会の在り様と共に変遷してきたようです。
前野さんのご研究から、現代日本人の感じる幸福が4つの因子で説明できることも分かりましたが、では教育観はどうでしょうか。
教育の究極の目標が、一人ひとりの幸福であるならば、児童・生徒・学生・教員・保護者・教育関係者の誰もが、幸福の因子で満ち溢れていてほしいと思いました。
前野さんのご研究から、現代日本人の感じる幸福が4つの因子で説明できることも分かりましたが、では教育観はどうでしょうか。
教育の究極の目標が、一人ひとりの幸福であるならば、児童・生徒・学生・教員・保護者・教育関係者の誰もが、幸福の因子で満ち溢れていてほしいと思いました。
つまり、学びの場で一人ひとりが
「あなたらしく」いられて、
「やってみよう」と思えて、
「なんとかなる」と前向きになれて、
「ありがとう」と周囲に感謝できる状態。
そんなとき、人は内側から生きる喜びと希望が湧いてくるのかもしれません。
「あなたらしく」いられて、
「やってみよう」と思えて、
「なんとかなる」と前向きになれて、
「ありがとう」と周囲に感謝できる状態。
そんなとき、人は内側から生きる喜びと希望が湧いてくるのかもしれません。
だから、良い学びの場は相互の承認や感謝で構成されている。
そして、幸福はいつも自分の中にある。
そう思えた今回の「あスコラ」でした。
そして、幸福はいつも自分の中にある。
そう思えた今回の「あスコラ」でした。
徳田さん、前野さん、ありがとうございました!
登壇者プロフィール
徳田ひとみ(在東京ブータン王国名誉総領事)
1970年3月、日本女子大学文学部社会福祉学科卒業。 1977年4月、徳田塾主宰。2002年、経済団体日本経営者同友会代表理事に就任。2006年、NPO国連友好協会代表理事に就任。2010年4月、 在東京ブータン王国名誉総領事に就任。前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長、教授)
84年東工大卒。86年東工大修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。2011年より同研究科委員長兼任。佐藤徳紀(ベネッセ教育総合研究所研究員)
2012年株式会社ベネッセコーポレーションに入社後、中学生向けの理科の教材開発を担当、2016年6月から教育総合研究所に異動。初中等領域の調査「第6回学習指導基本調査」(2016年)、「子どもの生活と学び」研究プロジェクトの質的調査(2016年)を担当後、現在の情報企画室に着任。専門は電気工学、エネルギー・環境教育、理科教育、博士(工学)。林信行(ITジャーナリスト、「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)
最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えてソーシャルメディアで発信。また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。iOSコンソーシアム顧問。一般財団法人 ジェームズ ダイソン財団理事。石坂貴明(ベネッセ教育総合研究所 BERD 編集長、「あスコラ」主宰)
アメリカでホテル開発に従事後、ベネッセコーポレーションへ移籍。ベネッセ初のIRT(項目反応理論)採点の検定試験開発、社会人向け通信教育事業ユニット長など主に新規事業に多く関わる。その後、移住・交流推進機構の総括責任者として「地域おこし協力隊」制度などの立ち上げに参画、2013年より現職。「まなびのかたち」、「CO-BO」、「シリーズ・未来の学校 」、「SHIFT」などをプロデュース。
※プロフィールや所属団体等は取材時のものです。
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 高藤さおり、山藤諭子、柳田善弘
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 高藤さおり、山藤諭子、柳田善弘