2015/06/05

第70回 子どもたちの声から「教師」の仕事の意味と魅力を考える-HATOプロジェクト・教員の魅力プロジェクト「教員のイメージに関する子どもの意識調査」より

研究員 橋本 尚美
 教師は、子どもたちや保護者にとって、社会や国にとって、どのような存在だろうか。
 教育再生実行会議による第七次提言「これからの時代に求められる資質・能力と、それを培う教育、教師の在り方について」(平成27年5月14日)では、「教師がキャリアステージに応じて標準的に修得することが求められる能力の明確化を図る育成指標」を策定することが示された。教師は、「これからの時代を生きる人たちに必要とされる資質・能力」(①主体的に課題を発見し、解決に導く力、志、リーダーシップ、②創造性、チャレンジ精神、忍耐力、自己肯定感、③感性、思いやり、コミュニケーション能力、多様性を受容する力)を、「これからの時代を見据えた教育内容・方法」によって実践する存在であり、その指導力とともに、教師自身もこうした「資質・能力」(①~③)を有するべきであるとされた。
 教師は、社会において、子どもの学びを援助し保障する第一の存在であろう。しかし、今日の急激な社会変化のもとでは、教師は、上記も含め、社会変化がもたらすさまざまな可能性と諸問題に対応しながら、子どもとともにそれを乗り越えるという、より高度な実践を遂行する存在であることが求められ、その能力が測られようとしている。
 では一方で、学びの当事者である子どもたちにとって、教師はどのような存在だろうか。教師に対して、保護者、社会、国から、さまざまな期待とその裏返しとしての批判が寄せられている今日において、もっとも身近で教師をみている子どもたちの声から、教師という存在や、教師のあり方を考えてみたい。
 取り上げるのは、ベネッセ教育総合研究所が、HATOプロジェクト・教員の魅力プロジェクト※1からの委託を受けて実施した「教員のイメージに関する子どもの意識調査」の結果である。本調査は、昨年(2014年)12月に、愛知県の公立の小学6年生、中学3年生、高校3年生 合計約2,000人を対象に実施したもので、子どもたちに、①「先生」の仕事に対するイメージ、②求める教員像(「尊敬する先生」など)、③職業観(「先生になりたいか」など)を主に尋ねている。「教員」という仕事に対する子どもたちの意識をとらえられるのが特徴である。

「先生」の仕事のイメージは、大変だが子どもや世の中のためになる仕事

 まず、子どもたちは、「先生」の仕事をどのような仕事だと思っているのだろうか。
 図1をみると、小学6年生・中学3年生・高校3年生(以下、小・中・高校生と記す)の9割前後が、「忙しい仕事」「苦労が多い仕事」「責任が重い仕事」と回答している(「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の合計、以下同様)。それと合わせて、「子どものためになる仕事」「世の中のためになる仕事」という回答も8割台~9割で、子どもたちは「先生」の仕事を、子どもや世の中のためになる大切な仕事だととらえている。
 一方で、「給料が高い仕事」(4割台)、「やりたいことが自由にできる仕事」(2割台~3割)、「休みが多い仕事」(1~2割)と回答する比率は低い。
 もっとも身近で教師をみている子どもたちは、「先生」の仕事の社会的意味とその大変さを感じているといえよう。
図1 「学校の先生」の仕事はどんな仕事だと思いますか
「学校の先生」の仕事はどんな仕事だと思いますか
※「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」、無回答・不明は省略している。
※「楽しい仕事」「頭がいい人がつく仕事」「人気がある仕事」の3項目は省略している。

尊敬する先生は、小学生は「授業(教え方)がわかりやすい」先生、小・中・高校生共通しているのは「困ったときに相談できる」先生

 では、子どもたちは、「先生」のどこに魅力を感じているのだろうか。
 まず、今までに出会った先生(幼稚園や保育所の先生、学習塾や習い事の先生も含む)のなかで尊敬している先生がいるかどうかを尋ねたところ(図2)、半数以上の子どもたちが、尊敬している先生が「いる」と回答している。女子は、小・中・高校生とも「いる」の比率が7割前後で、小・中学生の男子(5割台)との差が大きい。
 また、尊敬している先生が「いる」と回答した子どもに、何の先生かを尋ねたところ(図表省略)、小学生は、「小学校の先生」(58%)、「学習塾や習い事の先生」(32%)、中学生は、「中学校の先生」(48%)、「学習塾や習い事の先生」(27%)、「小学校の先生」(17%)、高校生は、「高校の先生」(38%)、「中学校の先生」(37%)の比率が高く、現在および前の学校段階の先生や、学習塾・習い事の先生があげられている。
図2 あなたには、尊敬している先生がいますか
※「いる」の%。
 次に、子どもたちが尊敬している先生の特徴をみると(図3)、小学生は、「授業(教え方)がわかりやすい」(8割台)、「わかるまで教えてくれる」(7割台)の比率が高く、「わかる」ことへの指導が重要な要素となっている。また、小学生は、中・高校生に比べて、「友だち(仲間)の大切さを教えてくれる」「クラスのまとまりを大切にする」「学校などのきまりやルールを守るように言う」(6割前後)など、友だちや学校生活について指導してくれる先生を尊敬している。一方、中・高校生がもっとも重視しているのは、「どの子どもにも公平に接する」ことである(6割強)。また、小・中・高校生に共通しているのは、「困ったときに相談できる」(6割強)、「自分に期待してくれる」(5割台)など、自分を見守り、寄り添ってくれる先生である。
 また、さらに具体的に、尊敬している先生とのエピソードを尋ねると(表1)、子どもたちは、図3であげられたような授業、友だち関係、クラスなどの場面や、自分の状況・悩みなどに対して、優しく、おもしろく、あきらめずに、そしてときに厳しく、自分たちを信じて、真剣に向き合ってくれる先生を尊敬していることがわかる。子どもたちは、先生の人間性や責任感、情熱などを伴った専門性に対して、魅力を感じているといえよう。
図3 尊敬している先生はどのような先生ですか
尊敬している先生はどのような先生ですか
※複数回答。
※尊敬している先生が「いる」と回答した人のみに尋ねている。
表1 先生を尊敬している理由
先生を尊敬している理由
※尊敬している先生が「いる」と回答した人のみに尋ねている。
※図3の項目に関わる内容を中心に、主なものを選んで示した。
 上記のことは、子どもたちが「先生」に必要だと思うこと(先生に求めている力・資質)に対する回答とも共通している(図4)。「とても必要」の比率に着目すると、子どもたちは先生に、「授業がわかりやすい」こと、「受験勉強の指導ができる」ことを必要としているほか、それに次いで、「気軽に話しかけやすい」「児童・生徒の意見をよく聞く」、「児童・生徒が困ったときに相談にのる」など、教師との関係性を重視している。
図4 「学校の先生」には、次のことがどれくらい必要だと思いますか(中学3年生)
 「学校の先生」には、次のことがどれくらい必要だと思いますか
※中学3年生の回答。小学6年生、高校3年生も同様の傾向。
※「あまり必要ない」「まったく必要ない」、無回答・不明は省略している。
※「受験勉強の指導ができる」「部活動の指導ができる」は中・高校生のみに尋ねている。

教師という仕事の意味と魅力

 このような子どもたちの声からどのようなことがみえてくるだろうか。
 1つには、社会において、教師という存在やその仕事の意味があらためて問われることは少ないが、もっとも身近で教師をみている子どもたちの多くは、教師の仕事の多忙さ、責任の重さとともに、社会的意味を感じているということである。子どもたち自身が、「子どものためになる仕事」と評価していることも興味深い。教師に対する批判が多いなか、大人や教師には、これを教師に期待して、教師を応援する声と受け取り、教師の仕事の意味を再認識してほしい。
 2つには、教師の専門性は、授業だけでなく、児童・生徒のさまざまな指導(生活指導、進路指導など)、学級づくり、学校運営、保護者や地域との関係などと幅広いが、教師は、それらの仕事に、人間性や責任感、情熱などを持って向き合っており、子どもたちはそういう教師たちに魅力を感じているということである。教師は、めまぐるしい1日のなかでも、子どもとの関係を築き、寄り添いながら仕事をしている。国が示すように、教師の仕事には、社会の変化に応じて変わらなければならない部分も多くあるだろうが、このような丹念な教師のあり方は、人を育てる仕事において欠くことのできない、変えられない部分である。子どもたちの生活現実が多様化するなど、さまざまな困難な問題が生じているなか、教師にはこれまで以上の力が求められるだろうが、教師には今後も教育の専門家として学び続け、このような魅力を高めてほしい。また国は、教師の勤務時間の長さ・業務量の多さの解消なども含め、教師が学び続けられる環境を整える必要があるだろう。
※1
文部科学省国立大学改革強化推進補助金「大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築-教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト-」特別プロジェクト教員の魅力プロジェクト(実施主幹大学:愛知教育大学)。国立大学法人北海道教育大学(H)、国立大学法人愛知教育大学(A)、国立大学法人東京学芸大学(T)、国立大学法人大阪教育大学(O)の強みを生かしつつ、教育養成機能の強化・充実を図ることを目的とした「HATOプロジェクト」は、4大学が活動拠点となり、全国の教員養成系大学・学部と連携・協力を促進し、教員養成の諸課題に積極的に対応することを目的としている。その一環である「教員の魅力プロジェクト」では、2014年度に本調査(「教員のイメージに関する子どもの意識調査」)、および「教員グループインタビュー調査」(4地域の小・中・高校の教員対象)を実施、今年度は「教員実態調査」(全国の小・中・高校の教員対象)を実施予定で、これらの調査結果を通して「教員」の仕事の役割・魅力・課題を明らかにする。

著者プロフィール

橋本 尚美
はしもとなおみ
初等中等領域の子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究を担当。現在は、小学1年生~高校3年生を対象とした「子どもの生活と学び」研究プロジェクトを担当している。
これまで担当した主な調査は、「学校教育に対する保護者の意識調査(朝日新聞共同調査)」 (2012年)、「第5回学習指導基本調査」(2010年)、「放課後の生活時間調査」(2008年)、「中学校選択に関する調査」(2007年)など。子どもの文化世界や学びの実態、子どもの成長環境としての社会・学校などに関心を持っている。