2016/03/29
第99回 英語4技能の育成を実現するために求められていることとは -「中高の英語指導に関する実態調査2015」の結果から-
研究員 福本 優美子
文部科学省が中学校・高校の英語教育で目指しているのは、「4技能の総合的な指導を通して、これらの4技能を統合的に活用できるコミュニケーション能力の育成」である。しかし、4技能を総合的に育成する方法は、多くの英語教員にとって自明のこととして確立されているのだろうか。文部科学省は、4技能がバランスよく育成されているかを測ることを目的とした英語力調査を実施した。最新の結果速報が公表された(2016年2月)が、いずれの技能も文部科学省が目指す目標には届いていない現状が明らかになった。
今回、ベネッセ教育総合研究所が実施した「中高の英語指導に関する実態調査2015」では、現在の中高の英語指導の実態とともに教員の苦悩が浮かびあがってきた。そこには、「4技能の総合的な育成」のための指導をしたい気持ちとは裏腹に、なかなか実行に移せないジレンマが垣間見える。多くの英語教員はその指導に悩みを抱えているようである。
「4技能の総合的な育成」の指導上の課題
4技能を総合的に育成するためには、授業の中で4技能を使った言語活動を行い、生徒が英語に触れ、英語でコミュニケーションを行う場面を作ることが重要となるであろう。英語でのコミュニケーションの場面を作ることを目指すならば、教員が一方的に説明するだけでなく、生徒自身が英語を使用して活動する時間が多くなることが望ましい。だが、今回、我々が実施した「中高の英語指導に関する実態調査2015」の結果からは、中学校の5割、高校の6割以上が、生徒が活動している時間よりも教員が説明している時間の方が多いということが明らかになった(図1)
図1 指導と活動の割合
*「授業で、先生が説明している時間と、生徒が活動している時間の割合は、平均してどれくらいですか」という設問。
さらに、この「指導と活動の割合」と実際に授業で行われている「指導方法・活動内容」を重ねあわせてみることにより、どのような授業が行われているのかを伺い知ることができる。教員が説明している時間が多い指導を「説明型」、生徒が活動している時間が多い指導を「活動型」として、それぞれの指導方法や活動内容の傾向をみた(表1)。中学校・高校ともに「説明型」に多いのは、「教科書本文の和訳」であり、高校ではそれに加えて「文法の説明」「文法の練習問題」も多い。
一方、「活動型」に多いのは、中学校では「即興で自分のことや気持ちや考えを英語で話す」「スピーチ・プレゼンテーション」「英語での会話(生徒同士)」、高校では、それに加えて「自分のことや気持ちや考えを英語で書く」なども多い。「活動型」の教員は、訳読や文法指導ばかりではなく、英語で4技能を使った言語活動をしていることがわかる。
表1 指導方法・活動内容(学校段階別/説明型・活動型別)
*「よく+ときどき行う」の%。
*「説明型」は、指導と活動の割合を「6対4」~「10対0」と回答した人。「活動型」は、指導と活動の割合を「1対9」~「4対6」と回答した人。「5対5」と回答した人は分析から除外している。
*ここでは、中学校の「説明型」と「活動型」の差の大きい順に並べている。
*「説明型」は、指導と活動の割合を「6対4」~「10対0」と回答した人。「活動型」は、指導と活動の割合を「1対9」~「4対6」と回答した人。「5対5」と回答した人は分析から除外している。
*ここでは、中学校の「説明型」と「活動型」の差の大きい順に並べている。
このように指導に差が表れる背景には何があるのだろうか。教職経験年数の影響を分析してみたがほとんど差は見られなかった。そこで、それぞれの指導を支える指導観を聞いた結果をみたものが図2である。「説明型」と「活動型」の間で、「とても重要」という回答の差がもっとも大きかったのは、「生徒が自分の考えを英語で表現する機会を作る」であった。続いて、「生徒が英語を使う言語活動を行う」「評価基準を作成し、その基準に基づいて評価を行う」「単元ごと、学期ごとに目標を設定して指導する」などが続いた。「活動型」の教員は、生徒が自分の考えを英語で表現する(話す・書く)機会、英語の4技能を使う機会をよりたくさん作り、また、評価やそれを考えるために重要な「目標設定」への意識も高いと推察される。
図2 重要だと思うこと(説明型・活動型別)
*「指導で重要だと思うこと」をたずねる質問で、「とても重要」「まあ重要」「あまり重要ではない」のうち「とても重要」と回答した割合。
また、「説明型」と「活動型」とで悩みを比較してみた(図3)。すべての項目で「説明型」の教員の方が数値が高く、悩みをより多く抱えている傾向が見られた。もっとも差が大きかったのは、「『授業は英語で行うこと』のやり方がわからない」であった。その他にも「効果的な指導方法がみつからない」「『話すこと』の評価方法がわからない」「『書くこと』の評価方法がわからない」「中期的・長期的な授業計画を立てる方法がわからない」といった項目すべてで、「説明型」の方が数値が高い結果であった。
図3 悩み
*「とてもそう思う」+「まあそう思う」の%。
これら「指導観」や「悩み」の比較を通して、「活動型」と「説明型」の特徴がいくつか見えてきた。「活動型」の教員は生徒が英語の4技能を使う言語活動の機会を作ることや、目標設定や評価に対する意識が高い。一方で、「説明型」の教員は、指導方法や目標設定、評価方法についての悩みが多いことがわかる。もちろん、文部科学省も教員をサポートするためにさまざまな研修を行っている。しかし、ここまで紹介してきた調査結果から考察すると、まだ十分とはいえないようである。すでに4技能の総合的な育成に意欲的に取り組んでいる教員もいるだろう。ただ、今、悩んでいたり、立ち止まってしまっている多くの教員に対して、行政や民間も力をあわせてさらに支援していく必要があるだろう。
自らの指導を振り返りながら、自らの成長の確認を
現在、進められている「入試の4技能化」は、「目標—指導—評価」の一角である「評価」を変えることによって「指導」を変えたいという目的がある。それほどまでに大きな変革を「指導」に求めている。「評価」の変化によって、教員の不安や戸惑いは高まるかもしれないが、絶好の機会とも捉えられる。「入試の4技能化」は、「目標-指導—評価」について改めて捉えなおす機会となるだろう。先ほど見たように、4技能を使った言語活動を行い、生徒が英語でコミュニケーションを行う場面を作ることを意識している「活動型」の教員は、「目標」や「評価」に対する意識も高かった。4技能の総合的な育成という「目標」をしっかりと捉えることや、そのための「指導」「評価」のあり方について考えることが重要だということだろう。
では、4技能の総合的な育成という「目標」を捉え、それに対する「指導」「評価」を実現するためにはどうしたらいいのか。昨年度行った「中高の英語教員に対する聞き取り調査」の分析から、そのヒントが見えてきている。分析結果から、指導に大切なことは、子どもの学習状況、発達、興味・関心を理解し、かつ、自らの指導を振り返ることを繰り返しながら成長し、子どもの成長を支えるために最善を求め続けることだということが浮かび上がってきた。英語教育だけに特別なことではないが、子どもとともに教員も「成長」していくことの大切さと、それを支える「振り返り」が重要だと示している。4技能の総合的な育成という「目標」のためには、「目標」に対する「指導」と「評価」になっているかということを「振り返り」ながら「成長」していくということが求められているのではないだろうか。
調査の分析結果だけでは、指導改善のための解決策そのものを提案することは難しいが、たとえば「振り返り」をするためのきっかけや課題発見の材料として役立てていただける面はあるのではないかと考えている。教員が指導を振り返るための材料として、また、よりよい英語教育を共に考える上で共通に持てるエビデンスとして役立つ調査研究結果を、今後も発信していきたいと考えている。
著者プロフィール
福本 優美子
ふくもと ゆみこ
ベネッセ教育総合研究所 研究員
ふくもと ゆみこ
ベネッセ教育総合研究所 研究員
英語教育領域を中心に、子どもや保護者、教員を対象とした調査研究を担当。最近は、量的研究だけでなく、質的研究にも携わっている。これまで担当した主な調査は、