2015/04/15
Shift│第7回 医療をも革新的に変える可視化技術と学びの本質 [3/5]
「可視化」から「可触化」へ
杉本氏が次に注目したテクノロジーが3Dプリンタだ。CTスキャンとは、体内の立体的な形状をスキャンする道具であり、そこで得られる情報は3Dデータだ。つまり、このデータをうまく加工すれば、原寸大で本物と寸分違わぬ臓器などがつくれてしまう。
実際、杉本氏は3Dプリンタを販売するファソテック社らと組んで、CTスキャンデータの立体造形に本格的に取り組み始める。最初は、原寸大でそっくり同じ形状の模型をつくることからスタートした。「医は仁術」展では、3Dプリンタを使い、樹脂で造形した「人間の心臓」を展示していた。
左:心筋梗塞の心臓モデル 右:正常のモデル
「大きさ、どう思いました?」と杉本氏。
大きかったのでビックリしたと話すと「そうでしょう。日本では心臓は人間の胸の内側、少しだけ左のところにあって、大きさはゲンコツくらい、と昔、皆、教えられていましたよね。でも、実際にはもっと大きいです。ちなみにこれは中年の方、それもかなり身体に脂肪がついた中年の方の心臓で、脂肪のつき方によってはもっと大きいこともあります」という。
リアルで実体感のある模型を手にすると、昔教科書で見た写真の印象は吹っ飛んでしまう。いつまでも頭の中にリアルなイメージが浮かび、手に持った時の感触を思い出すのだ。
透明の樹脂を使ったモデルもある。臓器を透明樹脂で、中を通っている血管を別の色の樹脂で造形することで、血管がどのように張り巡らされているのかをいろいろな向きから眺めることができる。これにより、手術時の切開方法などの計画も、これまではできなかった立体的な検討ができるようになる。
質感まで本物ソックリ
「医は仁術」展では、こうした3Dモデルは展示されているが、杉本氏の研究はさらに先へ進んでいて、現在はウェットな素材づくり。つまり、水分を含み、手に持った時、プルンプルンとして本物の臓器と見分けがつかないモデルを作成するまで進化している。
3Dモデルではウェットな素材で造形をすることはできないが、3Dプリンタで型をつくっておき、そこに水分を含んだかんてんやのりのような素材を流し込んで造形するのだという。こうしてできた臓器の3Dモデルのことを、杉本氏は「生体質感造形(Bio-Texture Modeling)」と呼び、ファソテック社と共に特許を取り、サービス化している。
本物ソックリの肝臓模型]
(写真提供:杉本真樹氏)
(写真提供:杉本真樹氏)
最近、日本テレビのニュース番組「every.」の特集「モクゲキ!最先端医療」では、杉本氏の取り組みを紹介していた。番組によると、東京腎泌尿器センター大和病院では、3Dプリンタで臓器模型を作成し、患者に病状や手術方法を説明している。この3Dプリンタは、一般的なそれと比べて高性能で、血管や神経の色分けができ、なんと臓器の硬さまで再現できている。実際に我々取材班も、杉本氏の研究室にお邪魔して肝臓模型に触れてみた。すると、それは肝臓模型ではなく、ホンモノの肝臓のように感じられるほどだった。