2015/04/15

Shift│第7回 医療をも革新的に変える可視化技術と学びの本質 [2/5]

進化する最先端の「可視化」

 杉本氏が実践している「医療」への応用は、展覧会よりもさらに先を行っている。例えばプロジェクション・マッピングについても、展示用に始めたものではない。杉本氏が「複合現実感手術(Mixed Reality Image Overlay Surgery)」として既に実践していたものを、展示用にアレンジしたものだ。杉本氏はもともと超音波、CTスキャナ、MRI、PETといった体内解析用の医療機器の画像を表示するOsiriX(オザイリクス)と呼ばれるソフトウェアを長く愛用しており、その日本語化などにも関わってきた。
 OsiriXを使えばCTスキャンなどのデータが簡単にパソコン上で表示でき、立体画像を好きな向きから見ることができる。手術の計画を立てるのにも便利だ。やがて、杉本氏はこの医療画像を手術中に利用したいと思い始める。これまでもできなかったわけではないが、医療用のモニター機器は全体を滅菌することができないため、手術台から遠くに置かれることが多く、画像を回転させる操作は、使いにくいリモコンで行う必要があった。
 ここから杉本氏の試行錯誤が始まる。
 「複合現実感手術」では、CTスキャンの映像をへそで位置合わせをして、プロジェクタを使って患者の腹部に投影する。開腹前に臓器がどこにあり、血管がどこを通っているかなどを確認できるようにした。この試みは世界中から大きな注目を集め、米国アップル社がMacの先進医療への応用事例として公式サイトで紹介した。
 やがて、iPadが登場し、iPad版のOsiriXが登場すると、杉本氏はこれを積極的に活用し始める。iPad版のOsiriXであれば表示された医療画像を極めて直感的なタッチ操作で自由自在に操ることができる。杉本氏は、これを手術室に持ちこむために、滅菌、防水効果もある手術用のiPadケース「i-Medicoat(アイ・メディコート)」を自ら開発し、特許も取得した。
 このケースがあれば、手術室の患部のすぐ近くにiPadを置き、手術の進み具合にあわせて表示したい画像を確認することができる。

iPad手術で孫正義氏と対談

 さらに、彼は立体的な構造が把握しやすいように、OsiriXに赤青メガネを使った3D表示機能を加えて利用する試みも行った。この成果は世界初の「iPad手術」として数多くのテレビ番組や新聞、雑誌などでも取り上げられた。これがきっかけで、ソフトバンクの孫正義氏が自ら企画したITと医療の未来を語る対談番組にも出演する。
 「iPadナビゲーション手術」には、思わぬ副産物も潜んでいた。iPadに、手術する前の患者の医療画像を入れておけば、患者に見せて説明でき、患者も自身の状態について理解を深められる。
 また、患者ばかりではなく、この「iPadナビゲーション手術」を始めた頃から看護師たちも患者の状態に対する理解が深まり、より進んだケアができるようになったという。
 杉本氏は、以前からこうしたiPad画像の教育的な効果も見込んでいたようで、日本での発売開始前にiPadを米国から個人輸入し医局の学生たちにも配り、講義に使っていた。難しい操作を覚えなくても、指先でタッチするだけで立体的な体内の映像を見たい向きに、見たい倍率で表示できる。しかも、赤青メガネをかけることで、それを立体的に把握することができ、学生たちの間からも好評だったようだ。
さらに杉本氏の活躍に拍車がかかる。