2017/02/09
Shift│第15回 ニューロダイバーシティ教育が、未来のイノベーションを生みだす -突出した個人の将来を追求する人間支援工学者の挑戦- [5/5]
大人がハッとする、トップランナーの言葉
2日目には「トップランナーの生き方を学ぶ(Top Runner Talk)」というプログラムで、「ROCKET」とも関係が深いロボットクリエイターで、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授の高橋智隆さんが講師として登場した。自分がなぜロボットに興味をもったのか、なぜ人型ロボットの研究をしているかなど、実際に高橋さんがこれまでにつくってきたロボットを見せながら授業は進行した。
講義では「ロボットのような新しい分野では、独りよがりで開発した方が尖ったものができあがりやすい」とか、「学べる方法が確立した分野は既に古い分野」といった大人でもドキッとさせられる話が多かった。
ここでも、授業は高橋さんが一方的に話すだけではない。前日から「ROCKET」の緩く柔らかい空間の雰囲気に慣れた子どもたちからは、高橋さんが話している途中でも興味が湧くと都度質問が飛び出てくる。「じゃあ、設計図もいっぱい書いているの?」と聞かれると高橋さんは、「設計図はいらない。設計図を書くことにはいいこともあれば、悪いこともある」と大人にも聞かせたい説得力のある設計図不要論を説きながら、自然に授業の本流へと戻っていく。
高橋さんが開発したロボットを中心に授業は進む
2日間の合宿で、子どもたちは、昆虫博士あるいはロボット開発者になるための具体的な知識を学んだかといえば、それはわからない。しかし、講義を終えた彼らが、自分が捕まえてきた昆虫をジッと眺めていたり、高橋さんがつくったロボットを入手する方法や値段を聞いたりする子どもたちが何人もいて、子どもたちの興味・関心には火がついた様子だった。
目指すはアカデミックディズニーランド
2日間のプログラムの後、中邑さんにこの合宿を立ち上げた目的を聞いた。
「ちょっと変わった教育を受けることで、子どもたちが元気になって帰っていく。まず、『面白かった』という感覚を得てもらう。それと、『自分も役に立つ』という感覚。そして、『自分はこれでいい』という感覚。そうすると、普段孤立している子どもが元気になります。この合宿では、そういう「感覚」を身に付けられることが狙いです」
「ちょっと変わった教育を受けることで、子どもたちが元気になって帰っていく。まず、『面白かった』という感覚を得てもらう。それと、『自分も役に立つ』という感覚。そして、『自分はこれでいい』という感覚。そうすると、普段孤立している子どもが元気になります。この合宿では、そういう「感覚」を身に付けられることが狙いです」
また、子どもを親や保護者から離すことが重要だとも指摘する。今、ユニークな子どもの親は、子どもに過干渉になりがちで、親子がベッタリくっついているケースがほとんどだという。だから、彼らは大人になるとトラブルを起こすのだと。子どもと親を早く引き離したい。そんな思いもあって、今、宿泊型の研修施設をつくろうと働きかけている。実際に、中邑さんは、ITやデザインなどの世界で名を成し教育に関心がある人たちとそうした話を進めているという。
それは「新しい形の学校なのか」と質問すると、中邑さんは即座に否定した。「学校にはしたくないです。なぜかというと、学校にしたとたんに制約が入るからです。つくりたいのは、子どもたちが自発的に軽井沢のあの場所面白いなと行きたくなる場所。例えば、あんな人の話が3日も聞けるんだってとか、あそこへ行ったら1週間でこの古い車をレストアして遊べるんだってという場所です」。中邑さんが目指すのは「アカデミックディズニーランド」なのだ。
中邑さんがそこでやりたいのは「大人の本気を見せる」こと。
「職業体験型のテーマパークのような『遊び』を提供するのではなく、本気の大人を見せたいです。今の子どもたちは、インターネットのおかげで頭でっかちになっています。そんな子どもを見て親はすぐに褒めるのです。『ウチの子どもはこんなに○○のことを知っているのですよ』と。だけど、知っているだけで、何になるのか。子どもたちを知識だけある人間には育てたくはありません。そのために、本物の大人はすごい。できるということはこういうことなのだ、ということを見せる場所をつくりたいです」(中邑さん)
「職業体験型のテーマパークのような『遊び』を提供するのではなく、本気の大人を見せたいです。今の子どもたちは、インターネットのおかげで頭でっかちになっています。そんな子どもを見て親はすぐに褒めるのです。『ウチの子どもはこんなに○○のことを知っているのですよ』と。だけど、知っているだけで、何になるのか。子どもたちを知識だけある人間には育てたくはありません。そのために、本物の大人はすごい。できるということはこういうことなのだ、ということを見せる場所をつくりたいです」(中邑さん)
すぐにでもその感動が蘇るトップランナーの授業やサマースクールで帰り支度を投げ出し昆虫を捕りに行く子どもたち、ロボットへの情熱を保護者に熱く語る子どもたちを思い出すと、中邑さんが目指すアカデミックディズニーランドの輪郭がハッキリと見える。
今回取材した、ROCKETのプログラムやアカデミックディズニーランドの構想は、特別な子どもたちだけに必要な内容ではなく、人間が成長するうえであらゆる子どもたちに受けさせたい必修科目ではないだろうか。すべての子どもたちは、本来個性的で特別な人間であるはずだから。
【筆者プロフィール】
林 信行(はやし のぶゆき)
ジャーナリスト
最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。
国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えて、米英仏韓などのメディアを通して日本のテクノロジートレンドを紹介。
また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。
ちなみに、スティーブ・ジョブズが生前、アップルの新製品を世に出す前に世界中で5人だけ呼んでいたジャーナリストの1人。
ifs未来研究所所員。JDPデザインアンバサダー。
国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えて、米英仏韓などのメディアを通して日本のテクノロジートレンドを紹介。
また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。
ちなみに、スティーブ・ジョブズが生前、アップルの新製品を世に出す前に世界中で5人だけ呼んでいたジャーナリストの1人。
ifs未来研究所所員。JDPデザインアンバサダー。
主な著書は「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」、「グーグルの進化」(青春出版)、「iPadショック」(日経BP)、「iPhoneとツイッターは、なぜ成功したのか?」(アスペクト刊)など多数。
ブログ: http://nobi.com
LinkedIn: http://www.linkedin.com/in/nobihaya
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