報告3「学校でのデジタル機器利用」
上智大学 日本学術振興会特別研究員 森いづみ
ペンシルバニア州立大学教育学研究科教育理論政策専攻(Ph.D.)。立教大学助教、東京大学社会科学研究所准教授を経て、2021年10月から現職。専門分野は、比較社会学、教育社会学。
パソコンやタブレットの使用は、協働的な学びを介して授業の楽しさにつながる可能性がある
GIGAスクール構想によって、1人1台の端末が整備されました。では、学校でのデジタル機器の利用は、実際に増えているのでしょうか。また、子どもたちの学習には、どのような影響が見られるのでしょうか。今回の報告では、それらに着目した分析を行いました。
まず、「子どもの生活と学びに関する親子調査」の結果では、学校の授業での「パソコンやタブレットの利用頻度」が2020年から2021年にかけて、特に小・中学校で大きく増えていることがわかります(図7)。また、中学校段階で学校設置者による違いを見ると、公立中高一貫校・国立・私立学校では、GIGAスクール構想が全面実施された2020年以前の利用頻度も比較的高く、デジタル機器がある程度普及していたことがうかがえます。その一方で、公立中学校は2021年に伸びていて、GIGAスクール構想の影響が表れていると考えられます(図8)。
では、デジタル機器の利用は、子どもの学習にどのような影響を与えているのでしょうか。「授業でパソコンやタブレットを使う頻度」が「授業の楽しさ」に与える影響について、2020年と2021年調査のデータ(分析対象は、公立学校の生徒に限定)を使用し、学年別に回帰分析を行いました。特に同じ生徒の時点間の変化に着目した場合、中学2年生〜3年生、高校1年生〜2年生、高校2年生〜3年生の3つの段階で、有意な結果が得られました。
中学2年生〜3年生の結果を見ると、「授業でパソコンやタブレットを使う頻度」が上がると、「授業の楽しさ」も増していくことが表れています(図9)。ただし、調べ学習、協働学習、発表といった授業中のほかの取り組みについての変数を追加すると、「授業でパソコンやタブレットを使う頻度」の係数が若干減少しました。このことから、授業でそうしたデジタル機器を使うことが、「授業の楽しさ」に直接影響をもたらす場合だけでなく、ほかの取り組みを媒介して影響している可能性がうかがえます。
また、保護者の学歴、世帯年収、生徒の成績といった要因によって、それらのメカニズムに違いがないかを検討したところ、保護者の学歴では有意な差が見られました。つまり、保護者の学歴の高い子どもほど、「授業でパソコンやタブレットを使う頻度」が上がると授業が楽しくなりやすいと考えられます。こうした子どもの属性による効果の違いにも、注目する必要がありそうです。
また、保護者の学歴、世帯年収、生徒の成績といった要因によって、それらのメカニズムに違いがないかを検討したところ、保護者の学歴では有意な差が見られました。つまり、保護者の学歴の高い子どもほど、「授業でパソコンやタブレットを使う頻度」が上がると授業が楽しくなりやすいと考えられます。こうした子どもの属性による効果の違いにも、注目する必要がありそうです。
図7 パソコンやタブレットの利用頻度(学校段階別)
注)「ときどきあった」「よくあった」の合計。
図8 パソコンやタブレットの利用頻度(中学校の学校設置者別)
注)「ときどきあった」「よくあった」の合計。Nは、2016年のもの。
図9 授業の楽しさの規定要因(中学2年生〜3年生、2020〜2021年)