第2部 ワークショップ・パネルディスカッション 保育記録の活用による子ども主体の保育の実践[2/3]
実践事例報告:「写真付き記録」を活用した保育
吉岡善美●よしおか・よしみ
保育士。神奈川県横浜市の社会福祉法人乳児保護協会白百合愛児園施設長。2016年より、園にて、写真を取り入れた保育記録の活用に取り組んでいる。
試行錯誤でスタートした写真付き記録
本園が、写真を用いた「ポートフォリオ」や「ドキュメンテーション」を始めたのは、2016年に、私と主任保育士が「横浜市園内リーダー育成研修」に参加したのがきっかけです。そこで、大豆生田先生などから、それらの手法についてご指導いただきました。当時、本園には、「ホワイトボード」にその日の保育の活動を文章で紹介するスペースがあったので、まずはそこに写真を2、3枚貼るだけでもよいとアドバイスをいただきました。
主任保育士が主体となって園内研修を実施後、年長クラスの保育士が、1日の出来事について、写真と、子どもの思いや言葉を入れた「ポートフォリオ」を1日1枚作成し、それをホワイトボードに掲載するようになりました(8)。「ポートフォリオ」は、1週間掲示し、その後ファイルに収納するようにしました。その様子を見ていた4歳児クラスの保育士も、「ポートフォリオ」に取り組むようになりました。ただ、当初は「どのような写真を掲載したらよいのかわからない」という声や、「クラスの全園児を写さないと保護者からクレームが出てしまうのではないか」という声もありました。また、クラス内の全活動を紹介しようとして、内容が表面的なものになってしまったという課題もありました。
8.ポートフォリオ
保育の質向上につながる手ごたえを得た
試行錯誤しながら「ポートフォリオ」を継続するなかで、保育士から「写真を撮るようになったら、『次にこの子はどんなことをするのだろう』とワクワク、ドキドキするようになってきた」という声を聞くようになりました(9)。同時に、保育士同士の対話が活性化し、「ポートフォリオ」を見た保護者の園への理解が深まっていくのを感じました(10)。
9.保育士の気づき
10.保護者の変容
また、子ども自身がファイリングされた「ポートフォリオ」を見られるようにしたことで、自分が参加していなかった活動を見て、参加した友だちに「これどうやるの?」と聞く子どもが出てきました。そうすると、聞かれた子どもが自分の言葉で活動を説明していて、私はとても感動しました。
子どもの姿をきちんと見られるようになった
2016年度から「ポートフォリオ」の作成をスタートし、5歳児クラスでは毎日、4歳児クラスも週2〜3回、掲示するようになりました。2017年度は、3・4・5歳児クラスは、「ポートフォリオ」を保育日誌にすることを提案しました。「ポートフォリオ」の作成を通して、保育士たちが子どもの姿をきちんと見て、振り返ることができるようになったと感じたからです(11)。
同時に、園内研修でフォトカンファレンスなども行ったことで、保育士同士で「保育を語る」という活動が充実していきました。また、子どもたちの遊びがよく見えてきたことで、保育士から「保育室の環境を見直したい」という提案もよく出てくるようになりました。
11.2017年度 園内研修の取り組み
2018年度は、それらの取り組みを継続しつつ、「保育ウェブ」という取り組みをスタートさせました(12)。これは、子どもの活動とそれに関わった保育士の働きかけ、活動に加わった子どもの名前や日にちなどを1枚の紙に記入したものです。文章を書くのが苦手な先生から「写真を貼りたい」という声が挙がり、写真も入れるようになりました。これが、活動ごとの指導計画になるのではないかと感じ、現在、検討を続けているところです。
12.2018年度 保育ウェブの取り組み
0歳児クラスは、個人の活動が多いため、クラスとしての「ポートフォリオ」作成は難しいことから、2019年度から個人の「ポートフォリオ」を作るようになりました。また、子どもたちの間でブームとなっている活動を継続的に写真を交えて記録した「ドキュメンテーション」を廊下に掲示し、保護者にも見ていただいています。このように、本園では、保育者が楽しみながら記録を生かした保育を行っております。