第2部 ワークショップ・パネルディスカッション 保育記録の活用による子ども主体の保育の実践[3/3]
パネルディスカッション
写真付き記録は保育者にとって負担?
大豆生田:白百合愛児園の写真付き記録は、保護者に見せる掲示物として始まりました。それを、保育の質向上のために写真付きの「ポートフォリオ」とし、続いて保育日誌とするなど、記録が発展していったことがうかがえます。このような記録を書くことで、先生方の負担が増えませんでしたか。
吉岡:保育後にまとめて書くこともありますが、保育中にも書いています。また、「ポートフォリオ」は、交代制のため、担当の先生が子どもの午睡中に書いています。慣れてくると20分程度で書けるようです。写真を撮る際も「この写真は使えそうだな」と思え、書く内容が浮かんでくるようになったと言っています。また、「ポートフォリオ」を保育日誌としても活用するようにしたことは、保育士の事務作業の負担を軽減することも目的でした。「ドキュメンテーション」や「保育ウェブ」についても、指導計画(日案・週案・月案)にもなるように位置付けています。保育士の事務作業の軽減は、保育の質の向上のためにも必要だと思っており、何かを見直す際は、増やすのではなく、代わりに何かを減らせないかと考えています。
大豆生田:全クラスで一斉に取り組むのではなく、各クラスで取り組みに違いがあったようですが、それは気になりませんか。
吉岡:新しいことにすぐ挑戦できる先生と、そうでない先生がいます。得意・不得意もあり、保育士自身がやりたいと思わないと難しいと思うので、保育士の主体性を大切にしています。
大豆生田:写真付き記録を始め、子どもの遊びが豊かになり、クラスを超えたブームも起こったということですが、記録のどのような点が寄与したのでしょうか。
吉岡:本園では、子ども主体の保育を目指していましたが、子ども任せでは、放任の保育になってしまうのではないかと、私自身が揺れていた時期がありました。それが、写真付き記録である「ポートフォリオ」や「ドキュメンテーション」に出合ってから、記録を振り返るようになり、子どもが次に何をしようとしているのかが見えてくるようになり、子ども主体の遊びが保育者の関わりによってより豊かなものになっていきました。また、「ドキュメンテーション」を廊下に掲示することで、子どもが他のクラスの活動にも興味を持つようになり、クラスごとのブームが、園全体のブームとして遊びがつながるようになりました。
写真付き記録のメリットとは?
大豆生田:写真を用いた記録によって、先生同士で語り合うようになり、子どもの活動が豊かになり、保護者も理解者になったなど、すべてが良い方向に連動していますよね。汐見先生、今のお話を聞いていかがでしょうか。
汐見:先ほど参加者から「写真付き記録を始めたら、写真を撮ることばかりが気にかかってしまい、良い保育ができないのでは」というご質問がありました。吉岡先生の園では工夫して取り組まれているようですが、写真付き記録に取り組まれ、ほかにどのような変化がありましたか。
吉岡:全職員がカメラを持ち、その都度、撮影しています。写真付き記録を振り返るようになり、子どもの次の行動が見えてきたので、保育士が子どもの力を信じることができるようになりました。つまり、先に保育士が動かなくても、子どもが自分たちの力だけで動けるのを待つようになりました。保育のなかで保育士が指示するようなことが少なくなってきたと思います。
汐見:吉岡先生のお話をうかがい、写真付き記録を残すことで、保育のあり方の本質が変わってきていると感じました。写真を残すことは、保育の一部です。最近のICT等のツールを活用すれば、簡単に子どもの様子を共有して語り合うことができるため、結果として保育の質を高めることにつながっていくと思います。写真付き記録の活用は、21世紀型の保育の一つの形だと思いました。
大豆生田:会場から、複数の保育士が一緒に記録を見ながら次の保育を考える際の難しさについてご意見がありましたが、吉岡先生の園で課題を感じることはありますか?
吉岡:保育士同士で話をする時間を確保するのはとても難しいですが、写真付き記録があれば、自分が空いている時間に読むことができるので、話をしないでも済むことは増えていきます。また、他クラスの活動をすぐに理解できるようになります。園全体の流れがよく見えるようになったのは、写真付き記録の効果だと思います。
大豆生田:写真付き記録を始めて、毎日、保育日誌などを書く時間が短くなり、保護者にも保育内容をよく伝えられるようになったという声も園の先生からよく聞きます。写真付き記録を作成することが、振り返りになり、明日の保育につながるということが、参加された先生方の園でも参考になればと思います。本日はありがとうございました。