【話題提供2】母親・父親の子育てと働く環境 〜"チーム育児"の一員としての職場〜/真田美恵子
真田美恵子●さなだ・みえこ
ベネッセ教育総合研究所 学び・生活研究室 主任研究員。これまで乳幼児領域を中心に、保護者や幼稚園・保育所・認定こども園の園長を対象とした意識や実態の調査研究を担当。2016年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトを担当。
1〜2歳児期の母親の半数は働いている
最初に、本論とかかわりの深い重要な事実を2つ押さえておきたいと思います。
1つは、母親の就労率です(図7)。働いている母親(休職中を除く。以下同様)は、本調査の第1回(子どもの0〜1歳児期)では27.4%でしたが、第2回(子どもの1〜2歳児期)では50.8%に増加していました。
もう1つは、子育てに対する母親・父親の思いです(図8)。本調査では、母親・父親ともに9割以上が「子育てが充実している」「子育てが楽しい」と回答しており、子育てに対する肯定的な感情(以下、子育て肯定感)が高いことがわかります。現在の日本では、子育ての困難さが注目を集めがちですが、大半の母親・父親が親としての喜びを感じていることも事実です。
図7
図8
父親の育児を阻む要因とは?
それでは、共働き世帯が半数を占める、幼い子どもを育てる夫婦の子育ての分担はどうなっているのでしょうか。夫婦間における子育ての分担を見ていきます。1〜2歳児期の子どもがいる家庭では、母親の就労状況にかかわらず、「母親が子育ての8〜9割を担っている」という回答が多くなりました(図9)。
父親では、平日の子育て時間は「1時間未満である」という回答がおよそ4割を占めていますが、母親が正規職で働いている家庭では「2時間以上子育てをする」という父親が3割以上いて、父親が子育ての時間を捻出しようとしていることがうかがえます(図10)。
図9
図10
ただし、そうした子育ての分担の「実際」と、「希望」の間には、大きなずれがあります。具体的には、母親が働いている家庭だけではなく、専業主婦の家庭でも、母親は父親に「もっと子育てをしてほしい」と望んでおり、父親自身も「もっと子育てがしたい」と感じていました(図11)。
父親による育児を阻んでいる要因としては、その帰宅時間の遅さが大きいでしょう。平日における父親の帰宅時間と子育て時間には関連があり、帰宅時間が早いほど、子育て時間は長くなっています。しかし、帰宅時間が21時以降になるという父親は約3割を占めており、そうした父親の約7割は、子育て時間が「1時間未満」でした(図12)。
図11
図12
子育てと両立しやすい職場環境とは?
では、父親の帰宅時間を早めたり、子育て時間を長くしたりするためには、どうすればよいのでしょうか。条件整備として重要だと考えられる職場環境について見ていきます。
職場環境としてたずねた項目のうち、「部下が子育てに時間を割くことに、上司は理解がある」「定時で帰りやすい雰囲気がある」「休みをとったり、早退しやすい」の3つにあてはまると答えた父親の比率は、5〜6割でした。この3つを「子育てと両立しやすい職場環境」と名づけ、父親の子育て時間との関連を見ると、「子育てと両立しやすい職場環境」であるほうが、父親の子育て時間が長くなる傾向がありました(図13)。
さらに、「子育てと両立しやすい職場環境」で働く父親は、職場でのネガティブな感情を家庭に持ち込まず、子育て肯定感が高くなっていました。子育て肯定感は、子どもへのポジティブな養育行動と関連があることがわかっています。つまり、「子育てと両立しやすい職場環境」は、父親の子育ての量を増やすだけではなく、間接的に、養育行動の質にも好影響を及ぼす可能性があると言えるでしょう(図14)。
図13
図14
これらのエビデンスに示されているように、夫婦でよりよい子育てを実現するためには、職場も「チーム育児」の一員として捉え、働き方や環境といった条件をいっそう充実させていくことが大切になると考えています。