【企画趣旨】変化の激しい現代社会だからこそ求められる、日本独自の長期縦断調査/野澤祥子
野澤祥子●のざわ・さちこ
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター准教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。東京家政学院大学准教授などを経て、現職。専門は、発達心理学・保育学。著書に、『歩行開始期の仲間関係における自己主張の発達過程に関する研究』(風間書房)などがある。
長期縦断研究を行う理由とは?
Cedepとベネッセ教育総合研究所が本調査を始めた背景としては、大きく2つあります。
1つは、学術的背景です。乳幼児期からの長期縦断研究は世界中で行われています。ただし、海外での研究知見は参考にはなるものの、子育てには社会固有の側面が非常に多いため、日本独自の長期縦断研究を実施する必要があります(図1)。
もう1つは、社会的背景です。科学技術の進展などにより、急激に変化している現代社会を生き抜くためには、様々な変化に対して臨機応変に対応していく資質・能力がより重要になります。そこで、そうした資質・能力の育成と子育ての方法にはどのような関連があるのかを分析し、今後の子育てのあり方を検討する上での示唆を得られるよう、長期縦断研究によるエビデンスが求められています(図2)。
図1
図2
また、社会的背景としては、日本の少子化が深刻さを増していることも重要です。内閣府が2015年に策定した「少子化社会対策大綱」は、「結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向けて、社会全体で行動を起こすべき」であるとうたい、5つの重点課題を挙げています。そして、その中には、「子育て支援施策を一層充実」「男女の働き方改革」など、子育ての当事者である母親・父親の声に基づいてはじめて、具体的な解決策が立てられる課題も含まれています(図3)。長期縦断研究は、そうした課題の検討にも役立ちます。
図3
幼い子どもを育てる家庭における「チーム育児」のあり方とは?
近年の発達心理学の研究では、母親・父親が互いに支え合ったり、親族や友人らの支援を受けたりしながら、協働で子育てをすることで、子どもの発達にポジティブな影響が見られる可能性が示唆されています。そこで、今回は「チーム育児」をテーマに据え、第1回・第2回の調査の分析結果を基に検討します。
本調査では、2016年度に生まれたお子さまをもつ全国の家庭3,205世帯を調査モニターとし、2017年から毎年1回、お子さまの養育者へのアンケート調査を行っています。第1回は2017年9〜10月、第2回は2018年9〜10月に実施しており、お子さまの月齢は、第1回の時点で0歳6か月〜1歳5か月、第2回の時点で1歳6か月〜2歳5か月でした。
回答者は基本的に「主となる養育者」「副となる養育者」の2人であり、誰を主・副とするかは、回答者に決めてもらいましたが、過去2回の調査では「主が母親、副が父親である」という家庭が最も多かったため、今回はそうした家庭からの回答を分析しています*。
*主となる養育者のみの回答も含みます。調査の概要や対象者等については、「乳幼児の生活と育ちに関する調査2017-2018」ダイジェスト版をご覧ください。
話題提供では、3人の研究者が登壇します。
まず、Cedepの大久保圭介研究員が、「チーム育児」における最も基本的なチームである「夫婦」の協働と子どもの発達について報告します。
次に、夫婦の協働を考えるためには欠かせない観点である、母親・父親の子育てと働く環境について、ベネッセ教育総合研究所の真田美恵子研究員が発表します。
そして最後に、職場だけではなく、親戚や友人、地域が子育てにどうかかわり、どのような影響を及ぼしているのか、ベネッセ教育総合研究所の李知苑研究員が考察します。
18年間にわたる長期研究を目指して
本調査が対象とする期間は、0歳から小学校入学までの乳幼児期であり、調査モニターのお子さまが小学校に入学した後は、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で実施中の、小学1年生から高校3年生までのお子さまと保護者を対象とした「子どもの生活と学び」研究プロジェクトに引き継ぐ予定です。そうして0歳から高校卒業までの18年間にわたる縦断調査を実現したいと考えています。