2017/09/12
[第3回] 転換期における高校の学習指導への意識の変化と課題 ~現場の視点から~ [1/2]
久保島 昌一 ● くぼしま しょういち
私立大妻嵐山中学校・高等学校教頭
1955年生まれ。1979年埼玉県立高等学校教諭となる。その後、埼玉県立騎西特別支援学校教頭、埼玉県立不動岡高等学校教頭、埼玉県立浦和高等学校教頭、埼玉県立大宮光陵高等学校長を歴任。2016年3月、定年退職。同年4月より現職。
1955年生まれ。1979年埼玉県立高等学校教諭となる。その後、埼玉県立騎西特別支援学校教頭、埼玉県立不動岡高等学校教頭、埼玉県立浦和高等学校教頭、埼玉県立大宮光陵高等学校長を歴任。2016年3月、定年退職。同年4月より現職。
前回調査の2010年は、2009年に現行の高校学習指導要領が告示された翌年であった。このときは、引き続き「生きる力」を育むことに加えて、授業時数の増加、理数教科の内容の増加がなされ、一方で、総合的な学習の時間が縮減された。さらに翌年、中教審初等中等教育分科会に高等学校教育部会が設置され、「生徒の学力をどのように保証するか」が検討課題として挙げられた。全体として、「学力保証」が謳われ、2010年の第5回学習指導基本調査の結果では、それが現場の学習指導において意識されていることがうかがわれた。
その後、2012年には、中教審「高大接続特別部会」で大学入試改革の議論が始まった。これを境として、高校現場では学習指導に対する考え方、取り組み方は大きく変わったと言っても過言ではないだろう。それまで「学力保証」が強く意識され、高校で最低身につけるべき学力に焦点が合わされていた指導が、先行した大学教育の改革、特にアクティブ・ラーニングに大きく影響されることになった。また、この間の論議は、次期学習指導要領の検討と並行して行われ、これまでにないと感じられるスピード感で進められた。この5年間は、高校現場にとっては現行学習指導要領の着実な実施と次期学習指導要領の両方を視野に入れて対応しなければならない状況であった。
今調査結果を見ると、全体としては、現場は、次期学習指導要領が求めるものに対する意識が強いことがうかがわれる。しかし、2010年調査でも述べたが、高等学校は小中学校に比べて、教育課程が圧倒的に多様である。高校によって求めるものが異なり、しかも多岐にわたるため、一律に捉えられないところがある。本来ならば、実態別(この調査では学力水準別、普通科四大進学率別)に傾向を見ていくことが必要であるが、時間、紙幅の制約から、ここでは、多様であることを踏まえながらも、全体的な傾向を見ていくことを予めお断りしておく。以下、調査結果から気づいた高校の学習指導の実態と変化について、大きく2点について述べたいと思う。
1.揺れる教員の指導観-進路保証と主体的な学びの狭間で
(1)教員の指導観
以下は、指導観について「各ペアについて、あえていえば重視していると思うほうに○をつけてください」と尋ねた結果である。
図1 教員の指導観①<経年比較、小・中・高校教員>
Q.あなたは、授業や生活指導・生徒指導の面で、どのようなことを大切にしていますか。
各ペアについて、あえていえば重視していると思う方に○をつけてください。
各ペアについて、あえていえば重視していると思う方に○をつけてください。
注)数値は無回答・不明を除いて算出している。
2010年の調査結果で、お茶の水女子大学の耳塚教授は、「子ども中心主義が衰退し、学力・訓練重視の指導観が強まった」と述べている。それが2016年調査で変化しているように見える。2010年調査で減少していた、いわゆる子ども中心主義と言われる傾向が小中学校で増加に転じ、高等学校でも増えている。
しかし、この結果を単に「子ども中心主義」への回帰ととらえることはできない。上述したように、この5年間で急速に進められている改革では、特に次期学習指導要領で強く謳われている「主体的で対話的な深い学び」は、学力保証を後退させたものではないからである。次期学習指導要領では「〇〇を『身につけることができるように』指導する」と文言が変えられ、生徒が「できるようになる」こと、つまり「確実な」学力保証を、しかもそれを「主体的で対話的な深い学び」として、できるようにすることが求められている。現場としては、印象ではあるが、いわゆる訓練と主体的学びの両方を求められているように見え、調査結果では、そのことが教員の意識として表れているのではないだろうか。
一方で、「受験に役立つ力を学校でも身につけさせること」は小中高ともに増え続けている。
図2 教員の指導観②<経年比較、小・中・高校教員>
注)数値は無回答・不明を除いて算出している。
「受験に役立つ力」とは進路のための学力保証と考えると、特に高校では、「主体的で対話的な深い学び」と進路、特に進学のための学力保証を両立させなければならないということである。
さらに、以下のように、高校だけ見ると、「受験には直接役立たないが、上級学校や社会に出てから役立つ内容を教えること」を重視する傾向も強まっている。
さらに、以下のように、高校だけ見ると、「受験には直接役立たないが、上級学校や社会に出てから役立つ内容を教えること」を重視する傾向も強まっている。
図3 教員の指導観③<経年比較、中・高校教員>
注)小学校にはたずねていない。
以上の結果から、進路保証(受験)と、将来を考えた本来あるべき主体的な学びとの間で課題を抱えているというのが高校現場の現状ではないかと思う。学びに対する思いと現実的対応との狭間で、教員がどのような意識を持ち、対応しているのかが気になるところである。
いずれにしても、現在進められている高大接続改革、大学入試改革、次期学習指導要領改訂が、教員の指導観に影響を与えていることがうかがわれ、しかもそれがわずか5年間の中で変化していることから、高校現場が急速な対応に迫られている状況にあることが見えるのではないだろうか。
いずれにしても、現在進められている高大接続改革、大学入試改革、次期学習指導要領改訂が、教員の指導観に影響を与えていることがうかがわれ、しかもそれがわずか5年間の中で変化していることから、高校現場が急速な対応に迫られている状況にあることが見えるのではないだろうか。
(2)「生徒に身についている力」と「身につけさせたい力」
下の図は、「受け持ちの生徒に関して次のような力がどれくらい身についていると思うか」を問うたものである。
すぐに見えるのは、「ものごとを論理的に考える力」を除いて、ほぼ学校段階が上がるにつれて率が下がることである。これを高校でどのように捉えるかは一律には述べられない。入学時学力水準別(公立普通科)でみると、ほぼ2極化しているからである。前回調査でも述べたが、高校は多様である。したがって、各高校の実態がどのようになっているかを加えて見ていく必要がある。
すぐに見えるのは、「ものごとを論理的に考える力」を除いて、ほぼ学校段階が上がるにつれて率が下がることである。これを高校でどのように捉えるかは一律には述べられない。入学時学力水準別(公立普通科)でみると、ほぼ2極化しているからである。前回調査でも述べたが、高校は多様である。したがって、各高校の実態がどのようになっているかを加えて見ていく必要がある。
図4 生徒に身についている力<2016年、小・中・高校教員>
Q.あなたは、受け持ちの児童・生徒に関して、次のような力がどれくらい身についていると思いますか。
同じことが「身につけさせたい力」でも言える。図5では、全体として基礎的・基本的知識・技能が優先順位1位に挙げられているが、表1では、微妙に各グループで求められているものが異なる。「基礎的・基本的知識・技能」の内容が各グループで異なるからである。単に項目だけで見ると、とらえ方を間違ってしまう恐れがあると思う。ここでも各校の実態を加味したうえで、結果を見ていく必要がある。
図5 生徒に身につけさせたい力<2016年、小・中・高校教員>
Q.あなたが児童・生徒に身につけさせたいと思っている力を、優先順位の高い順に3つ選んでください。
表1 生徒に身につけさせたい力(優先順位1位の上位5項目)<入学時学力水準別(公立普通科)>
注)入学時学力水準は、「貴校に入学した平均的な生徒の中学校時代の成績(評定平均)」に対する校長回答による。評定平均はAグループ4.5〜5.0点、Bグループ3.5〜4.0点、Cグループ3.0点、Dグループ1.0〜2.5点として公立普通科について分類した。
一方で、「身についている力」のうち「新しい発想やアイデアを生み出す力」だけは、どのグループも率は高くないが、グループ間でそれほど差がない。基礎的知識が身についているとされる上位層でも、2,3割程度であるが、学力下位グループにも約15%の生徒がこの力がついている生徒がいて、それほど上位、下位で差が大きくないことは、学力に対する発想を変えるチャンスになるのかもしれない。
Creativityは、現在世界で注目されている能力である。「身につけさせたい力」では、この力は優先順位としては、わずか2%である。紙幅の関係から詳しくは述べられないが、少ないながらもこの力があるとされる生徒がいることに、もっと目が向いてもよいように思う。
図6 生徒に身についている力<入学時学力水準別(公立普通科)>
注)入学時学力水準については、表1の注を参照。